大切なのは中身
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第三章
第三章
「それだけのことはありますよ」
「天使ねえ。そこまで言うか」
「あの笑顔がか」
「女神ですよ」
天使の次は女神である。最早誰にも止めることができなかった。
「もう本当に。清らかで優しくて」
「こりゃもう何処までも行くな」
「とことんまでだな」
「明日面接行きます」
薫はあの店への面接のことも話した。
「絶対に」
「っていうか今日行ったらどうだ?」
「そうだよな」
皆ここで彼に突っ込みを入れた。
「さもないと他に誰か入るぜ」
「佳澄ちゃん可愛いからな。そうしたら」
「えっ、それは」
皆の言葉を聞いてぎょっとした顔になる薫だった。
「それってつまり。佳澄さんが」
「ほらほら、今にも来てるかも知れないぜ」
「そうしたらよ」
「それはいけない」
皆の言葉はからかいだった。しかしそれは薫にとっては予想以上の反応を起こす結果となってしまった。彼はすぐに回れ右をしてそのまま店の方へダッシュで戻って行った。
「っておい」
「いきなりかよ」
「しかも何てスピードだよ」
皆その彼が駆けていくのを見て唖然とした顔になる。砂埃まであげてとんでもないスピードで駆けている。その姿は忽ちのうちに消えてしまった。
「行ったな」
「で、面接か」
「合格するかね」
そもそもその問題もあるのだった。
「面接しても。どうなのかね」
「しなかったら大騒ぎになるだろうな」
「っていうか大騒ぎを起こすな」
予想される未来であった。
「若しそうなったらな」
「だよな、確実にな」
「お店の人もわかってるだろうしな」
「いや、わかってない人いないだろ」
このことも極めて容易に想像できることであった。
「あそこまでからさまでよ」
「それもそうか」
「そうだな」
皆仲間内の一人のその言葉に頷いた。
「だったらこれで毎日あの娘と一緒か」
「あいつにとっちゃ天国だな」
「もう店の中にいる時の顔まで想像できるな」
呆れながらの言葉が続く。
「しかしまあ。どうしたもんだよ」
「だよなあ。あの朴念仁が」
「あそこまで夢中になってな」
実は薫はこれまで誰かを好きになったことはない。しかし今の彼は明らかに暴走して佳澄に夢中になってしまっているのである。
「あの店に入ってその瞬間だったからな」
「一目惚れだったしな」
「そのままな」
それで今に至るのだ。そして今に至る。薫はそのままバイトの面接に行きそのまま彼はクレープ屋のバイトもはじめるのだった。
皆が店に行くと満面の笑みの薫がいる。その声もまた実に明るい。
「いらっしゃいませ」
「すげえ幸せそうだな」
「もう満足してるみたいだな」
「満足どころじゃないです」
側にはその佳澄がいる。始終その彼女を見て笑っている。
「天国にいる気分ですよ」
「そうか、天国か」
「そこまで言うか」
「いや、天国ってこの世にあるんですね」
その一方的なおのろけが続く。
「嬉しいですよ、本当に」
「それはわかったからよ」
「クレープ。欲しいんだけれどよ」
「あっ、はい」
彼は早速その大きな手でクレープを作りはじめる。彼が皮を焼きそのうえで佳澄がその皮を受け取って包む。そうやって二人で作っていた。
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