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アラガミになった訳だが……どうしよう

作者:アルビス
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原作が始まった訳だが……どうしよう
  31話

さて、どうやらアリサは問題なく装甲を修復し終え、ユウにティアストーンをプレゼントすることが出来たらしい。まぁ、それは原作通りなのでいいとして、何で俺が基礎体力の訓練などしなきゃならんのだ?
「仕方ないですよ、約束なんですからね」
そんな事を言いつつカノンはさしたる疲労も見せずに俺に並んで、トレーニングルームを走っている。
カノンが走っている理由は打倒イザナミの為の基礎体力作りらしいのだが、俺が走っている理由は、俺がイザナミと同じ部屋で生活していたことを知ったカノンが、トレーニングに付き合うように強引に俺に約束を取り付けて来たのだ。
あの時は色々と大変だった……部屋を訪ねてきたカノンがソファーで寝転がっていたイザナミを見つけた瞬間、スタングレネードやらを投げつけたり、ホールドトラップを部屋中に放り投げたりと悲惨極まりなかったな。
イザナミはイザナミでカノンをおちょくって事態を悪化させるものなのだから、最終的に俺がカノンを羽交い締めして止める羽目になった。
不幸中の幸いと言うべきはあそこに神機が無かった事だろうか?
で、その後カノンを落ち着ける為の条件が、このトレーニングの面倒を見ることだったのだ。
別に面倒を見ることを引き受けることには何の文句もないのだが、俺が走る必要性はあるのか?
「だって、私が走っているのにマキナさんだけ休んでいるって、なんだか不公平じゃありませんか?」
「いやいや、心情的には分かるんだが、俺としてはいくら走ったところで得るものはないんだよ。実りのないルーチンワーク程しんどいものはなんだぞ?」
アラガミである俺はいくら運動したところで何かが変わるわけでなく、体を鍛えようと思えばオラクル細胞を補充する。つまり、他のアラガミの捕食することでしか体は強化されないのだ。
「それでいいんですよ、私に黙って一緒に生活してた罰のつもりなんですから」
「あぁ……さいで」
カノンよ、聞いてくれないとはお思うが、あそこで暮らし始めたのは俺の意思ではない。罰を与えるならイザナミにでも……あ、無理だ。
いや、だからって俺にとばっちりがくるのは理不尽じゃないか?
「ふーんだ、マキナさんが悪いんです」
何だろう……俺の周りの女子はどうして俺の話を聞かないんだ?アリサといいカノンといい小さい頃は素直でいい子だったんだが、本当にどうしてこうなった?
俺は親じゃないのだが、赤ん坊の頃から見ていた俺としては娘か何かのようにしか思えないんだ。それがこうも話を聞いてくれなくなったというのは、娘の反抗期という物を味わうようなものなのだろう。
「マキナさん、そんな疲れた顔して何考えてるんですか?」
「時の流れは残酷だなーってさ」



その後、予定していた距離を走り終えたカノンにスポーツドリンクを渡しながら、その後の予定を確認する。
「あ、ありがとうございます。……んっ、美味しいですね、このドリンク。こんなの売ってましたっけ?」
「お手製だ、スポーツドリンクなんて塩と砂糖を溶いた水に多少味を付けただろ?なんでそんなのに金を払って買わにゃならんのだ」
「マキナさん、お金ならあるんじゃないですか」
「そりゃ基本的に使わないが、無駄な事に使うことはないだろ?」
水と砂糖、塩を混ぜてグレープフルーツやら好みの果物を少し絞って果汁を入れれば、それでそこそこ美味いスポーツドリンクが結構な量できるのだから、そんな物に金を払って僅かな量を手に入れるなんて馬鹿な話じゃないか?
筋トレやら何やらで重点的に脚を鍛えて、アラガミの懐に潜り込んでのゼロ距離射撃の為のフットワークを磨くようだ。自分の得意分野を伸ばすのは結構なんだが、個人的にあのスプラッターはやめて欲しい。
戦闘時のテンションで全身に返り血を浴びて、次々アラガミを屠っていくカノンの姿はゴッドイーターの中でも割と噂になっている。
戦果自体は大した物なので不満の声などは上がっていないのだが、絶対に彼女に新人を同行させてはならないという暗黙の了解があるらしい。
単純に新人にトラウマを与えないようにするためなんだが、カノンと同じ部隊の面子も任務後は肉料理とトマト料理が食えなくなるらしく、慣れていてもキツい物はキツいようだ。
それを踏まえた上で質問させてもらうが、この訓練メニューの最後に書かれている実弾演習ってなんだ?
「え、マキナさん相手に戦ったことないなーって」
「……俺に死ねと?」
「大丈夫ですよ、マキナさんは強いですから当たらないですよ」
「いやいや、そうじゃないだろ?」
「大丈夫ですって、当たってもマキナさんなら死にませんって」
……一体、俺に何の恨みが?
確かに死にはしないだろうが、痛いものは痛いし、俺にも人権というものがあるんじゃないか?
俺はアラガミだが、戸籍上は人間だぞ?
せめてペイント弾にするとか、空砲にするとか安全策ならいくらでもあるだろうに。もはやそれは訓練ではなく、八つ当たりとかそういった類の物じゃないだろうか?
「じゃあ、訓練を続けましょう」
うん、いい笑顔なのはいいんだがこの実弾演習が必要かもう一度考え直さないか?ほら、暴力はなにも生まないっていうだろ?
「パンチやキックでアラガミを倒しているマキナさんが言っても、全く説得力がないですよ?」
自分でも言っていて思っていたが、ですよねー……


「カノン、本当にやるのか?」
演習場で銃を構えて、俺の前に立っているカノンに問いかける。
「はい、反撃は……手加減さえしてくれればいいですよ?」
「バカ言うな、下手にやってお前が怪我したら俺が嫌だ」
「ふふ、ありがとうございます。でも、そんな優しいこと言っても私は手加減無しですよ?」
うーん、一瞬期待していたんだがな。まぁいいさ、最初から回避に徹するとは決めていたからやることに変わりはないさ。
「んじゃ、時間は十分、オラクルの補充は三回まで、俺は回避と防御のみ、これでいいな?」
「はい、じゃあ行きますよ!!」
その言葉も直後、まるで地を這うように低い体勢で地面を蹴り、ジグザグとした軌道で俺に迫る。
成る程、カノンの体の重心がやたらとブレるせいで非常に捉えにくい動きになっているな。それに体勢があそこまで低くては攻撃も中々当てにくい、特に人間より大きいアラガミにとっては相当厄介だろう。
攻撃面でも、相手の懐に潜り込むには最適とも言える状態なので、彼女のゼロ距離射撃とも上手く噛み合っている。
こうして分析するとあの動きをあの速度を維持したまま出来るようになるまでに、並大抵ではない努力を払い幾度もの挫折を乗り越えたのだろう。
そう考えると思わずカノンを抱き締めて褒めてやりたくなるのだが、その努力を持ってしてこちらに襲いかかってくるのだからそうもいかない。
俺の膝の辺りの高さからカノンの神機から砲撃が放たれる。一度に大量のオラクル細胞を放つブラスト型神機の特性故の、回避の難しい程の大きさの砲撃。これは回避するのは少々危険だが、カノンの目的が分かっている俺としては防御はできないな。
事実、俺の読み通り砲撃の影に隠れてカノン自身の神機による打撃が、今しがた俺のいた場所の地面を砕く。
「甘いですよ」
そう言ってカノンは地面を叩いた時の衝撃を逃さず、俺の方へ跳躍して距離を詰める。
文字通り目と鼻の先の距離まで近づいたカノンの膝蹴りが、寸前で防御に回した腕に食い込む。威力はさしたるものではないが、衝撃は中々で体勢を若干崩させられる。
「つ・か・ま・え・た」
神機を持っていない方の手で俺の肩を掴み、俺の体を引き寄せて神機の銃口を押し当てる。
………マジでヤバくないか?








 
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