問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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王と女王 ④
私は、もう生きている資格もない。そう、そのはずだ。
一度だけでは済まず、二度目の生贄をささげる儀式を受けている。これが両方とも受動的であることは、この際問題ではないだろう。
生贄をささげられたという事実。それ自体が、一つの罪だ。
いや、一つの罪なんて生ぬるい物ではない。
捧げられた人数の数だけ、罪がある。
手に入れてしまった力の分だけ、罪がある。
生贄というのは、一輝に言わせてみれば最も手軽に霊格をあげる手段らしい。
他の命をささげられるというのは、生贄を捧げるものからの信仰を受けるということ。
生贄をささげようと思うほどの存在というのは、本人にとって神の様なものだから。
他の命をささげられるというのは、生贄としてささげられるものからの信仰を受けるということ。
生贄にされるというのは、純粋に恐怖の塊だから。
こういった要因が重なり合って、手軽にできる霊格をあげる手段なんだろう。
それと、正しくない道というのは、最も短く、簡単な道だ。
つまり、手軽に効果を得ることのできる生贄という手段は、どう考えても正しくはない。自分の中にある常識と照らし合わせても、その事実が揺らぐことはない。
だから、私はもう生きている資格もないのだ。
でも・・・一輝は、こう言った。
『そんなどうでもいいこと』、と。
『正しい正しくないはどうでもいい』、と。
私は、心からその言葉を否定することができなかった。
だって・・・それが一輝に会ってからあいつが貫いてきた意思だから。そして、外道と呼ばれている一輝そのもののように感じられたから。
一輝が元いた世界で、『外道』と呼ばれる一族だったことは、知っている。
そう呼ばれるという事は、つまり他の人間から見たら悪でしかないことをやっていたということだろう。それも、一族単位で。
そんな一輝だからこそ・・・言葉に、重みがあった。
『私がどうしたいのか』。
一輝はただ単純に、それを聞いている。
こうするのが正しいとか、これはできないとか、そう言ったことを一切考えないで、ただただ純粋にそれを聞いている。
そして・・・一輝は本心を言えば、それを実現してくれそうな気がする。
邪魔するものは正義でも悪でも全て撃ち破って、倫理観を無視して、それを実現してくれる。
それがとても頼もしい。
目を開けばすぐそばにある顔からも、その頼もしさは感じられる。むしろ、本気でぶつかってくれている今だからこそ、いつも以上に。
だから・・・何も考えずに、その言葉は私の口から発せられていた。
「・・・生きたいに、決まってるじゃない。」
そして・・・一度言ってしまうと、もう止まらない。
「生きたいにきまってるじゃない!?本気で死にたい人間なんていないわよ!」
ああ・・・もう、だめだ。
「生きたいわよ!アンタと別れたくない!鳴央と別れたくない!スレイブとも、ヤシロとも、ノーネームのみんなとも、箱庭で仲良くなった人たちと別れたくないわよ!まだ伝えてない気持ちもあるのに、そんな状態で死ねるわけないじゃない!!」
もう、感情は抑えられない。
「でも、無理なのよ・・・こんな罪、重すぎて背負っていけない・・・」
あぁ、一輝はズルイなぁ・・・
「私のせいで失われた命が多すぎるのよ・・・」
自分の心には相手を入れない癖に、人の心の中にはあっさりとはいってくるんだから。
「もう・・・ダメなの・・・」
涙が流れてひっどい顔になってるだろうから、私は顔を伏せた。
こんな状況でも、一輝にこの表情を見られたくない。
「・・・なら、一緒に背負ってやる。」
でも、一輝はそんなこと気にしない。
下から私の顔を覗き込んで、そう言ってくれた。
「重すぎるなら、俺がその罪を一緒に背負う。全部は無理でも、半分くらいなら、誰かと一緒に背負っても大丈夫だろ。」
「・・・なんで、そんな・・・」
「それが罪だというなら、そこから勝手に連れだした俺も同罪だ。だから、俺も一緒に背負ってやるよ。だから・・・もう一度、聞かせてくれ。お前は、どうしたいんだ?」
一輝の声は、いつの間にか優しいものに戻ってた。
普段の声とも違う、優しい声。聞いているだけで安心してしまう、そんな声。だから、私は・・・
「まだ、生きたい・・・」
そう、本心を告げた。
「・・・分かった。それが、お前の本心なんだな。」
そして、一輝はそう言うのと同時に鎖を掴み・・・引きちぎった。
「・・・どうだ?俺の力、流れてきたか?」
「・・・全然・・・」
「ならオッケーだ。ま、こんな神霊が作った程度の鎖が俺から命を吸いだせるとは思えないけど。」
一輝はさらっととんでもないことを言いつつ足の方の鎖も引きちぎり、倒れそうになった私に、肩を貸してくれる。
「・・・さ、音央はこう言ってるぜ、鳴央。」
「え・・・」
一輝が視る先には、壁に手をついてボロボロになっている鳴央がいた。
「ちょ、鳴央、アンタ・・・」
「・・・ちょっと、苦戦してしまいました。」
そう言いながら倒れそうになった鳴央の元まで走って、半ば転ぶようにしながら鳴央の体を受け止めた。
「鳴央、何をしたらここまで・・・」
「それよりも・・・音央ちゃんは、大丈夫ですか?」
自分の体の事よりも私の事を気にしてくれる鳴央。
そんな姿を見て、私は・・・また、涙を流した。
「どうしたんですか、音央ちゃん?」
「・・・ゴメン。ゴメン、鳴央・・・」
そう言いながら、私は鳴央にしがみついて涙を流した。ここまで心配してくれたのに、勝手に死のうとしたのが申し訳なくて・・・ただ、泣き続けた。
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「・・・これで、大丈夫かな。」
一輝はそう、鳴央に抱きしめられている音央を視て漏らした。
この分なら、音央は大丈夫だと判断したのだろう。
《・・・よい物ですね。あれは、友情でしょうか?》
「どうだろうな。少なくとも、あの二人は姉妹以上の姉妹だ。」
《なるほど、姉妹以上の姉妹ですか。あの人は、そんな二人を引き離そうとしたのですか・・・》
そこで初めて、一輝は横にいた存在・・・もはや魂だけになっている物に、目を向けた。
「で、アンタは誰?」
《私は、タイターニア。あの人・・・オベイロンの妻です。このたびは、旦那が迷惑をかけてしまって申し訳ありません。》
「・・・別にいいよ。どうせ、俺はあいつを殺すんだし。」
《もちろん、私にはそれを止める権利も止める意思もありません。ですから、それについては何も言いませんよ。》
ただ、と。
タイターニアは続けた。
《謝罪だけは、先にしておきますね。・・・このギフトを、全てが終わったら彼女にあげてください。》
そういいながらタイターニアの幽霊的な何かは一輝のギフトカードに触れ、ギフトを一輝に預けて消えさった。
話が終わり、二人も落ち着いてきたように見えたので・・・一輝は、二人に近づいていく。
「さて、と。出来ることならもう少しそのままでいさせてやりたいんだが、そう言っていられるほど時間があるわけでもない。だから、聞かせてもらうぞ。」
そして、音央と視線を合わせて、
「依頼を、聞かせてくれ。お前は俺に、どうしてほしい?」
そう、聞いた。
「お願い・・・私を、助けて!」
「OK。依頼、引き受けた。」
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