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『自分:第1章』

作者:零那
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『老人ホーム』

通信制高校に入学。
職場実習の開始。
いよいよ動き出す。


寮長に自転車を貰い、ルートを覚える為、一緒に自転車で向かう。

最初の職場実習先は老人ホーム。
陸上コースで見かけて知ってた。
車やと5分かからん位の近場。
やっぱ信用無いん?


一応、緊張はする。
でも、内心はワクワク。

早くお年寄りの話を聞いたり話したりしたい。
こんな奴やけどお年寄り好きなんです意外と。

でも、挨拶の後に行ったのは洗濯場。
そりゃそうか。
訳ありのガキを金要らずといっても問題起こされたら困るし。
いきなり人間と接するのは困るか...それとも最初はココって決まってるのか...?


とりあえず洗濯場に。
乾いた洗濯物を畳んで、入居者の名前のカゴに、間違えず入れていく。
個人では無く此処のタオル、シーツ等は決まった場所にしまう。
単純作業。
でも、人手が足りん時は、こんな作業でも役には立つ。
だったら良いかな。
与えられた場所で与えられたことを正確にこなすことを頑張るって決めた。


休憩時間は洗濯場の近くの入居者とは話した。
おいでって呼ばれたり、支えてって頼まれたり。
勝手に接して良いんかな?
とか考えた。
入居者はコッチの都合や事情は知らん。


職員からも、禁止とは言われてない。
迷惑かけたり問題起こさんかったら良いんやろ。
自己判断。

簡単な運動やゲームの時間。
行き来に付き添ったり、入浴後の髪を拭いて、乾かして、とかしたり。
与えられた仕事が終わったり、機械廻しててやること無い時は、そうやって与えられた仕事以外もやってた。
色々やりたかった。


実習生ってただ働きなんやし、もっとこき使われると思ってた。
でも、初めてのことやし出来ることなんか限られてるよね。
もっと他に手伝えることがないか聞いてみた。
内職的なんも結構あった。

施設側にお願いされてるから気ぃ遣われてたらしい。
どんな子かも解らんし。
必要以上に関わらんようにって警戒されてた。


色々ついて行って、見て覚えて出来ることはしたら良いよって。
嬉しかった。
ただ、車椅子の方を座らせたりベッドに寝かせたり、訓練や練習が必要なことはせんといてって。
もちろん!
こわいこわい!
直接触れるのは歩ける方を支えるだけにしてねって。
資格も何も無いんやから当然。

職場の人と仲良くなろうとかは一切考えなんだ。
入居者の笑顔が可愛いと思ってしまう。
笑いかけてくれたら嬉しくなる。
そんな感情忘れてた。



自分の事を娘だと勘違いしてるお婆ちゃんが居た。
気持ち的に凄く痒かった。
曇りのない子供のような、可愛いお婆ちゃん。
純粋な優しさに、素直になれんくて戸惑った。

夕方5時、実習終わりで挨拶して帰る。
分校の職員室に挨拶と報告してから寮に帰る。
寮で荷物検査と身体検査。
徐々に他の児童と話す機会も減ってきた。
でも寮内の揉め事は有る。
くだらんイジメも在る。
零那が一言言うたくらいで収まるもんでも無い。
粘っこくて汚いから。
いつまでも調子こいてしよった主犯は逆の立場になるだけ。


通信の勉強と職場実習。
就寝時間が遅くなって、勉強する時間を与えられた。
御飯食べる部屋で勉強できた。
レポートは、解らん所があったら先に進まん。
職員に教えて貰う。

日曜日は、スクーリングがある。
高校に通う。
本校の松山と分校とを使い分けて授業を受ける。
スクーリングは職員が送迎してくれてた。
マダそこまで自由にはさせれんらしい。

職員の許可を得て、レポートを昼休みにする為に老人ホームに持って行くことにした。

昼休みじゃなくても、お年寄りとコミュニケーションとれるようになったから。
此処は色んな人が居た。



戦時中の話をしてくれる人。
家族の話。
悲しい辛い話。
楽しい嬉しい話。
悔しい怒りの話。
不平不満の話。
政治経済の話。
幼児還りしてる人は、まさに子供と話してるようだった。


今の時代に憤りを感じてる人。
今の時代を有り難いと感じてる人。


いつもニコニコ笑ってる人。
いつも怒ってて叫んでる人。
いつも悲しくて泣いてる人。


いろんな人が居る。
いろんな事が有る。
いろんな心が在る。


なんとなく、大事なモノ、解ったような解らんような。
掴みかけてて掴めんような。


たまにしか会いに来ん親に対して高圧的な態度しかとらん子供、孫。
単純に悲しいな。
自分が年老いたとき同じ様にされるだけやで。
解らんねやろな。
かわいそう。

明らかに暴力ふるってる場合も...

此の施設の方針かどうか知らんし、家族の喧嘩とか、そんなん介入してたらキリが無いんかもしれん。
けど、家族と言えど弱いモノ虐めやし、虐待と同じ。
見て見ぬフリはできん。
かといって問題起こすわけにはいかん。
逆上さすわけにもいかん。

洗濯物届けるフリして部屋に入り、空気を変えた。
お婆ちゃんの赤い頬に触れ、撫でた。
娘と孫はバツが悪そうに出て行った。



『家族』という関係性が、正常に成立して無い家庭は何処にでも在る。
解ってる。
知ってる。
でも、それを目の当たりにするのは...キツい。

同じ事を何回も言う、名前を間違う...それでも、うんうんって笑顔で接してる家族が殆ど...

介護は大変やと思う。
でも、たまに会いに来るだけやん。
世話なんかしてないやん。
だったら優しく...って思った。
もどかしかった。
そんな短時間でさえ優しくできんなら、会わん方がマシやとさえ思った。
それぞれ何かを抱えてて、良い関係だったか悪い関係だったか...知らんけど...
それでもやっぱり来たんなら来た時間くらい割り切って欲しい。
そんな勝手なエゴが生まれた。
此処の入居者のことを大事に想う自分が居た。


その入居者に対して心ない暴言や態度を浴びせる家族に軽く憎しみすら抱くほどだった。


可哀想とか守りたいとか綺麗事。
何も出来ん無力なクソガキ。
悔しかった。
辛かった。
悲しかった。
心が痛かった。


『そんなすぐ感情移入してたら仕事として成り立たん。』

『社会人としての役割を果たすなら割り切るべきや。』

『他人の心配より自分自身を見つめ直すべきや。』

そう言われた。

解ってる!!!


解ってるよ!!
そんくらい...
頭では。
あ゛―――――っ!
はがいたらしい!



いろいろ学んだけど、結局は自分の無力さを思い知らされる場面が多かった。
自分が誰かの何かの役に立てたことは無かった。
良い経験になったとは言い難いなぁ。
実習の終わりは凄く哀しかった。
マダマダ聞きたい話あったなぁ。
家族に暴力ふるわれてた人、気になるなぁ。
誰か介入して欲しいなぁ。
いろいろ、心残りだった。
サヨナラが苦しかった。


 
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