問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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これは、違う
一輝と湖札が合流し、事情を聞いたことで二人は本家に戻るのではなく湖札の両親を探し回る事にした。
一輝自身、頼まれたのは贄殿家の三人を連れてくることなので、それに従った形である。
「いねーねー、お前の父ちゃんと母ちゃん。」
「はい・・・」
「どの辺で別れたのか、覚えてないのか?」
「ご、ごめんなさい・・・何も考えずに、動き回っていたので・・・」
んじゃ、仕方ねーな、と言いながら、一輝は一枚の式符を取り出す。
「それは・・・?」
「式符。・・・式符展開、呪力供給・・・完了。回路最細接続。攻撃性式神展開、急急如律令!」
全ての手順を踏んで式神を展開し、山の捜索を命じる。
「ふぅ・・・これでたぶん、二人で探すよりも手際が良くなると思うぞ。」
「・・・えっと、次期当主さんは、もう陰陽術がそこまで使えるんですか・・・?」
一輝は湖札が自分に対して質問しているのだと一瞬気付けず、次期当主・・・?と首を傾げてからようやく自分のことだと思いだした。
「うん、使えるけど・・・」
「凄いん、ですね・・・私はまだ、五行符くらいしか使えないので・・・」
余談だが、こういったことの会得順序としては、
呪力の流れを感じる
物に対してながしこめる
呪札に流し込み、起動させる
普遍型式符の起動
五行符への応用
と続き、そこからは本人の得手不得手にしたがって変わっていく。
なので、湖札のように出来るようになる事の順序が違うのはとても稀であり、才能のあることを示しているのだが・・・五歳、六歳の子供がそんなことを知っている道理もない。
「へえ、そうなんだ・・・それと、ひとついい?」
「な、何か私ダメでしたか・・・?」
湖札は本家の跡取り息子に対して何か無礼を働いてしまったのかと、びくびくし始めて・・・一輝はそんなことに気づきもせず、ただそれを伝えた。
「次期当主、って呼び方は、こう・・・」
一輝はそう呼ばれた時の感情を伝えようとしたのだが、それを表す言葉が見つからなくてそこで止まってしまった。
いやでもないし、でもなんとなく・・・と、どう伝えようと考えていたのだが、結局適切な言葉が見つからなくて、
「うん、たぶん俺反応できないから、普通に呼んでくれない?」
「普通に、ですか・・・?」
「そう、普通に。一輝って名前で呼んでくれればいいし、呼びづらいなら・・・幼馴染の子が呼んでるんだけど、カズとかでもいいから。」
「で、でも、私の方が年下で、次期当主さんの方がお兄さんなんですし・・・」
そう返されて、じゃあ何かないかな・・・と考えてから、一つ思い浮かんだ。
「じゃあ、俺がお兄さんなんだから、それでいよ。」
「え・・・?」
「お兄さんでも、お兄ちゃんでも、兄ちゃんでも、そんな感じで。それなら名前じゃないし。」
そこに一切理屈が存在していないのだが、幼い子供であるのだし仕方ないだろう。
というよりも、一輝としては今の呼び方さえ変われば何でもよかったのだ。
「え、えっと・・・じゃあ、お兄さん・・・?」
「うん、それで。妹っていないから、なんだか新鮮だな!」
どことなくうれしそうな一輝はそう言いながら湖札の手をとり、どんどん道なき道を進んでいく。
途中で何度も妖怪と遭遇したが、それは全て陰陽術で退治し、自分の中にその魂を封印していく。
さすがに、今回の集まりのために前もって山の中にいる妖怪は退治されているので、二人が妖怪に遭遇する回数は少なめであるし、大妖怪のたぐいは出てきていない。
星夜も、一輝なら余裕を持って退治できるという事が半ば確信できていたからこそこの仕事を任せたのだ。
この日に山の中で遭遇する妖怪は、せいぜい前日に探した際死に場所すら特定できなかったような妖怪。大した問題にはならないだろう、と。
他の所から来たとしても、運が悪くて大妖怪。さすがにそれだけの存在が山に入れば結界が探知するし、一輝なら自分たちが駆け付けるまでは耐えるだろう、と。
当然ながら、霊獣や神が現れる可能性は、星夜の頭の中にはない。
そんなものと遭遇する可能性はごくごくわずか。油断と言ってしまえばそこまでだが、そんなことは考えもしていない。
と、星夜はここまでは考えた。神が降臨するなどという突拍子もない可能性をほんの一瞬だけ考えて、それで思考を停止してしまった。
だからこそだろう・・・結界の設定も、神までしか反応しない。
「ん・・・?何か光ってる・・・?」
一輝は怪しく光る青色の光を発見し、それが何なのかと思って湖札の手を引きながらそこに近づいた。
まだちゃんと警戒心があったのか片手に五行符を一種類一枚ずつ持ち、いつでも攻撃に移れるようにしてからではあるものの、彼はこう考えながら近づいていた。
『やっと見つけた・・・』と。
あの青い光は何か自分が知らない術なのではないか。それを使っているのは湖札の両親なのではないか。
そう考えていたがゆえに五行符こそ手に持っているものの、足取りは軽い。
あと一メートル。その先にある枝をこえればその光のもとにたどり着くというところで、青い光の位置が変わった。
ゆっくりと上に伸びていくのを見て、一輝はようやくそれが怪しいということに気づいた。
途中まで・・・大人の身長くらいまでは何の反応もしなかった。
だが、足を止めた時点でそれは二メートルを超え、呆然としているうちに三メートル、四メートルと伸びていき・・・一瞬強く光ると、二メートルくらいに縮まり、密度が増した。
光が縮まった時の衝撃ですでに枝は吹き飛んでおり、二人の姿はそれから丸見えであろう。
「・・・何、あれ・・・」
一輝がついそう洩らしてしまったのも、仕方のないことだろう。
それ・・・青く光る、賢者のようであり書庫のようでもある存在から漂う気配は、イレギュラーにもほどがある。
多い少ないの差こそあるものの、全ての人間に流れている呪力の気配は、感じられない。
妖怪に流れている妖力の流れも、感じられない。
一輝は出会ったことはないのだが、話に聞いていた霊獣の気配や神の気配を感じることも出来ない。
何よりも、直感的に一輝は・・・二人は感じ取った。
これは、違う。
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