問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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戦力外通達
「今回は二人で来たんじゃな。」
「ああ。あの記憶、あれが一族の役目だというなら、二人とも話を聞く義務がある。」
「そう言うわけだから、初代様にも出てきてほしいんだけど。」
一輝と湖札は二人ともが陰陽装束を・・・一輝は、一族の長である証の漆黒の神主衣装を。湖札は奥義を継承した証の巫女装束をまとい、一輝の檻の中に来ていた。妖剣は二人も言っている通り、一族の役目であるというものについてだ。
そして、その役目において重要な立ち位置に来るあの像。その元となる存在と、二人は記憶の中で戦っていた。
「今、聞かねばならないことなのか?」
「むしろ、今聞かないとどうしようもないことだ。でないと・・・アジ=ダカーハ退治に参加させてもらえないみたいだからな。」
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「んで?用事ってのはなんだ、ラプ子?」
一輝はラプ子に呼び出され、少し苛立った様子で用件を聞きに来ていた。
苛立ちの理由はとても単純で、音央を助けに行くことを止められているからだ。
『一人の仲間のために、この箱庭の危機にもかかわらず戦力に勝手なことをしてもらっては困る。』という理屈に、一輝は一ミリも納得していない。
「では、単刀直入に聞きましょう。貴方の主催者権限、それは一体何色ですか?」
「何色・・・?」
一輝は一瞬、何を言っているのか理解できなかったが・・・すぐに言わんとしているところを理解した。
主催者権限によって出現する契約書類。その色は魔王ならば黒。善なる者なら輝いている。それを聞いているのだ。
「そう言えば、ラプ子はもう湖札のことに気づいてるんだよな。」
「当然です。気付かないわけがないでしょう。」
一輝はそう返事が返ってきたので、それも含めて話した。
「・・・今俺が自由に使えるのは、蚩尤の善が一つ。湖札がどうかしている今だけの限定的な天逆海の魔王が一つ。」
「その二つは知っています。聞きたいのはそれらではありません。」
一輝の答えはラプ子の望むものではなかったようだ。
「一応、これで全部だと思うんだが?」
「いえ、そうではないはずです。切り札のつもりでしょうけど、もうあと一つ、自由に使えるものがありますね?」
一輝はその問いに対し、どう回答するのか少し考えて・・・
「・・・はぁ、正解。確かに、今の俺が自由に使える主催者権限は三つある。何でわかるのかね。梨、食べるか?」
「私をなめてもらっては困ります。・・・とはいえ、その正体は何にもつかめそうにないですけど。いただきます。」
そう言ってため息をつきながら梨を受け取り、それをしゃくしゃくと食べながら話を再開する。
「ですが、それがどれだけ不安定なものなのかは、すぐに分かりました。」
一輝は何も言わず、話を続けるよう目で催促する。
「そもそも、貴方という存在自体が不安定なのですが・・・悪神でありながら倒された蚩尤。これは倒した人が善の意識を持っていたのでしょう。善へと属しています。」
「まあ、五代目は正義感が強い人ではあったらしいな。」
蚩尤は多少不安定ではあるのだが、それでも善というカテゴリーの中に確立している。
「天逆海は、おそらく倒した人がその後すぐにでも悪側に属してしまったのでしょう。ですが、まだ安定して魔王となっているのでいいでしょう。」
その辺りについては多少違う部分があるのだが、一輝はそれをわざわざ訂正することはしない。
「ですが、残りの一つはどっちつかずとなっている。それも、その一つだけは借り物ではない、純粋にあなたものでしょう。そんな不安定な、いつ魔王となって脅威とかすかも分からない人を置いて戦えるほど、甘い相手ではありません。」
そしてラプ子は、その一言を下す。
「貴方はそれを・・・不安定な貴方自身の主催者権限を安定させない限り、戦いへの参加を禁じます。」
「ん、分かった。」
が、それに対する一輝の返答はその程度のものだった。
さらには、雰囲気が生き生きとしている。
「・・・貴方、」
「ああ、勘違いしないでくれよ?俺はアジ=ダカーハと戦えないのは心底残念だ。絶対悪の人類最終試練。それほどの相手なら相手に不足はないし、今の居場所であるノーネームを守りたい。」
けど、それでも。
彼には、それより優先してなさねばならないことがある。
「今回、戦略を考えて全体の指揮権を握ってるラプ子から戦力外通達をされた。だったら、俺がここを離れても文句を言うやつはいないだろ。」
「・・・私は、どこか部屋にこもるか何かして自身を確立しろ、と言っているのですが?」
「断る。この主催者権限は、俺の一族が長い年月をかけて功績を積み重ね、信仰を受けて手に入れたもの。そんな軽々しく扱うつもりはない。」
そう言ってから一輝は背を向け、出口を向かう。
「これの善悪を決めるなら、それは戦いの中にしかない。戦いの中で、俺自身が答えを出す。そうでなければ意味がない。これが、第六十三代鬼道としての決定だ。」
「意思を変えるつもりは?」
「ないね。そういうわけで、俺は音央を助けに行く。」
部屋を出る直前、そういえば、と一輝は声をかけた。
「何ですか?」
「当然ながら、鳴央とスレイブ、それにヤシロちゃんは連れていくから。」
「そ、それは・・・!」
「文句は言わせねえぞ。あの三人は俺に隷属したりしてる身だからな。俺を戦力外にする以上、あの三人も同じ扱いになる。」
ラプ子はそれに反論することができず、奥歯を噛みしめる。
スレイブは一輝以外に使われる気がないので大きな問題にはならない。鳴央の神隠しの力は強大だが、どうしても必要というわけではない。
しかし、ヤシロは別だ。本人が明るいこともあって忘れがちの人もいるかもしれないが、ヤシロという存在は『ノストラダムスの大予言』。神話とはまた違った形で誕生し、確立した終末論そのものだ。
それが持つ霊格は弱体化した状態でもとても強大な力を持っているし、神格を与えればアジ=ダカーハにも対抗しうる一手だ。是が非でも参加させたいだろう。
だが、ヤシロがどこに参戦するかを決める権利を持っているのはラプ子でもヤシロ本人でもなく、一輝。その一輝が音央の救出に連れて行くと言えば、その決定を変えさせる権利は誰も有していない。さらには、ラプ子はすでに参戦禁止令を出してしまった。
かといって、一輝を参戦させるのは危険極まりない。そうである以上は・・・一輝の決定を覆す手段が、ない。
「ま、相手が魔王なら俺がどっちを選ぶのか決めるにはいい相手だし、終わったらこっちに来て五人で参戦するから。」
「貴方は、それでいいと思っているのですか?」
「ああ。今、俺の中で最優先なのは音央の救出だ。」
「それが貴方の決定ですか。」
「俺は外道だ。大切ない人を一人救うために他を切り捨てるくらい、何とも思わねえよ。」
最後にそう言い残して、一輝は部屋を去った。
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「と、言うわけでまずは鬼道の一族について知ろうかな、って思ったわけだ。」
「だったら、一族の役目を知るのが一番手っ取り早いし、ついでに私たちのあの記憶についても知れて一石二鳥という結論になったんです。」
「なるほどのう。どうするのじゃ、示道?」
「話すしかないだろう。それに、俺が仕込んだものについても説明しておきたいし。」
そう言いながら虚空より示道が現れ、身振りでついてくるように言う。
「封印の間で全部説明する。さ、ついてこい。」
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