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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
  第二節 木馬 第五話 (通算第30話)

 一般的に巡洋艦は戦艦に較べて艦体が小さい分、旗艦機能のスペースが十全ではなく、狭いことが多いのだが、《アーガマ》はさすがにアイリッシュ級の試作艦だけあって、艦橋そのものが大きめにつくられていた。
 宇宙世紀の艦艇に艦橋がナンセンスであるという論も無い訳ではないが、人は合理だけで生きていける訳ではない。つまりは、運用的問題から、集中管制と分割管制を併用しなければならない状態になっており、艦橋に人的資源が集中するという兵器的に考えると非常に危険な状態であることは判っていても、それを行わなければ今度は円滑な艦運営に支障をきたすおそれがあるのだ。
 人は、人と顔を合わせ同じ場所で働くからこそ仲間意識が芽生える。
(不合理だからと言って人は簡単には変わらない……か)
 シャアは、ブレックスに従って艦橋に入りながらそう思った。ニュータイプといわれたシャアであっても、常に人の有り様を理解できる訳ではない。あくまでサイココミュニケーターシステム――サイコミュシステムの余録としてのニュータイプ同士の共振なのだ。日常では多少勘が鋭い程度のことでしかない。
「クワトロ大尉、こちらがヘンケン大佐だ」
「ヘンケン・ベッケナー中佐だ」
 シャアが怪訝な顔をした。ヘンケンが手を差し出すときに「辞令がまだ降りていないのさ」と付け加えた。
「あぁ……了解であります。艦長」
「で?クワトロ大尉にはこの艦に来ていただけるのですか?」
 シャアは苦笑いする。ブレックスにも先ほど言われたことだったからだ。
「いや、ジオン共和国軍にそこまで無理は通せまい」
 ブレックスがヘンケンの期待を潰す。期待されて悪い気はしない。だが、やはり自分が選んだ道ではあっても、ジオン共和国軍人であることは自由ではないことを思い知らされた。
「では例の件は?」
「?」
 シャアがブレックスに説明を促す。ヘンケンが、艦長席から立ち上がり、副長に後をまかせるといって、会議室へ移りましょうと誘った。ブレックスは無言で頷く。シャアとて異論があろう筈が無い。ブリッジクルーに聞かせていい段階にない話ということだ。
「クワトロ大尉には次の作戦に参加してもらいたい」
「それは構いませんが、どのような作戦なのでしょうか?」
 ブレックスは苦笑いを浮かべる。ヘンケンも笑顔を消して、真剣な眼でシャアを見ていた。
「奇襲だよ」
「奇襲……ですか?」
 沈黙がおりる。
「グリプスへの奇襲だ」
 腕を組み、憮然とした表情のままヘンケンがブレックスの言葉を継いだ。
 グリプスはティターンズの本拠地である。いかに国際平和維持軍であるエゥーゴとはいえ、簡単に近づけるものではない。
「新造艦の慣熟訓練のためと偽って、衛星軌道航路の使用許可は取り付けた」
 衛星軌道航路はルナツー駐留の地球機動艦隊の軍管区である。これで、片道切符は取り付けた。しかし、その先にはルナツー鎮守府が置かれている宇宙要塞がある。
「ですがルナツーは」
「かなりティターンズ寄りだが、いきなり発砲ということはあるまい」
 シャアの言葉をブレックスが遮る。
 ヘンケンが、戦略地図を点けて、カーソルを動かした。
「潜入する時点でのグリプスの予想位置はハロ軌道上、最もルナツーと離れる位置にある」
「とすると、レーダー監視網の間隙を抜けられる可能性もある……と?」
「そういうことだ。逆にミノフスキー粒子を撒布すれば怪しまれるおそれがある」
 シャアが思った以上に作戦は練られていた。
 だが、これには陽動というかブラフが必要ではないのか。ジャミトフ・ハイマンという野心家は策謀を以て敵を陥れるタイプであるが、バスク・オムは過激派である。敵は慢心させておくにしくはない。
「この件は、准将の発案であるのでしょうか?」
 ブレックスとヘンケンが顔を見合わせる。
 この作戦は確かにブレックスやヘンケンの立案ではなかったからだ。
 エゥーゴは、月面恒久都市の防衛を任務とする以上、積極的な攻勢作戦の立案には無縁であり、作戦本部などはなく、基地司令と防衛分艦隊司令官および戦隊司令官たちによる作戦会議によって行われることになっている。そして、この作戦はエゥーゴの総意ではなかった。
「スポンサーからのゴリ押しですか。カーバイン会長は随分と戦争がなさりたいらしい」
「いや、そうではない」
 ブレックスがシャアの洞察を肯定しつつ、笑った。
「准将もオレも、これがいい契機になると踏んだんだ」
「それは、これ以上ティターンズの戦力が増強される前にエゥーゴがティターンズに対して対抗力を持っていることを示したい……そう考えてよろしいのでしょうか?」
 ヘンケンは相好を崩した。
「クワトロ大尉、パイロットなんぞ辞めて、オレの参謀にならないか?」
「ヘンケン大佐……私は宇宙の戦士であることに誇りを持っています。参謀は他の御仁にお任せしますよ」
 キッパリと断られてもヘンケンは嬉しそうだった。
 シャアの先見の明は戦場において戦局を見渡せるということにほかならない。そしてそれは、味方を勝利に導いてくれると思えるのだ。
「准将、私に一つ提案があるのですが……」
 サングラスの奥でシャアの双眸に光が灯った。 
 

 
後書き
 この章からオリジナルMSが登場しましたが、無理のない設定にしたつもりです。
 MS-09S《ドワス》→MS-09N《ドワン》→MS-09Z《ドワーズ》→MS-19A《ディアス》→MS-19J《ディアジェ》という感じで登場しますので、よろしくお願いいたします^^ 
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