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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
  第二節 木馬 第二話 (通算第27話)

 サラブレッド級攻撃機動母艦の後継艦である《アーガマ》はエゥーゴの最新鋭艦であり、それまでのサラブレッド級とは違い、オープンカタパルトデッキになっていた。ペガサス級、サラブレッド級ともにクローズドデッキスタイルを採用しており、アーガマ級ともいえる機動母艦だったが、実はアイリッシュ級のプロトタイプであり、アナハイムが実験艦としていたものを艤装し、戦闘用に改修したものである。設計思想はサラブレッド級の流れを汲んでいるが、実質的にはアイリッシュ級戦艦であった。
 現在、《アーガマ》は《ラルカンシエル》にドッキングした状態で、艤装改修の最終段階になっており、ラビアンローズ級に備わっている十六本の工事用マニピュレータアームが忙しなく動いている。それは、まるで、食虫花が捉えた虫を触手で絡めとるのに似ていた。アーガマは艦体前部に接続されているため花芯のように見える。
 シャトルが接舷したのは《ラルカンシエル》の艦体後部シャトル収容カタパルトである。通路での立ち話も、いつまでもできる訳ではない。ブレックスは真っすぐに進んでいく。中央シャフトに出ると、重力ブロックの警告表示があった。
「この先は重力ブロックになっていてな。この艦は月周回軌道上での作業期間が長いため、艦体を回転させ擬似重力をつくっている。人は重力なしでは生きられんことを、こういう時には不便と感じるな」
「はっ。生粋のスペースノイドには重力のありがたみはよくわかるつもりです」
 生真面目に返す若者を好まし気にみやる視線が温かい。ブレックスはこのクワトロ・バジーナという若者がシャアであるかどうかよりも、この若者が好きだった。
 エレベーターホールに入って着地する。微重力が発生しているものの、さして、体は重くなかった。エレベーターの扉が開く。ブレックスとシャアが同じタイミングで動いた。一瞬、躊躇し、ブレックスがシャアを行かせる。ここでは、シャアが部外者だった。
「我々ジオン軍人がこういう所に出入りしてしまって、よろしいのでしょうか」
「大尉、先ほどもいったが、最早時代はそういうことを言っていられない事態を迎えているのだ。バスクのような輩が我が物顔で宇宙を這いずり回っているような……な」
 バスクという名前に呪詛の響きを感じさせる声を出す。忌々しさが滲んでいた。それだけ、ブレックスがシャアに気を許している証拠である。
「バスク・オム大佐には我々は随分と嫌われておりますから」
「レビル大将閣下がご存命ならば、この様な事態にはならなかったのだが……」
 昔を懐かしむような表情をしたブレックスに、シャアは感傷を嫌うかのように黙った。その瞬間エレベーターのドアが開いた。三人の前に通路の向こうから喧噪が聞こえてくる。そこは、モビルスーツファクトリーであった。
 ブレックスは提督と呼ばれる海軍閥である。宇宙軍の殆どが海軍閥であはある。しかし、一年戦争によって派閥は大きく変化した。保守派と改革派に分裂した。しかも、その改革派の領袖は陸軍閥出身のレビル将軍だった。海軍閥で見識高いティアンム大将はレビル大将と組んで、宇宙軍の改革を押し進めることに成功した。モビルスーツの開発とモビルスーツ搭載型改造艦の配備――二人が宇宙軍に残した功績は大きい。しかし、それは反動を含んでいた。
 ジーン・コリニー大将とジャミトフ・ハイマン准将である。
 改革派の両巨頭が戦死すると、海軍閥の改革派は強硬派のコーウェン中将と穏健派のグリーンワイアット大将の二派に分裂した。穏健派と結びついた保守派のコリニー大将はコーウェン中将を失脚させる為に『デラーズの乱』を利用し、グリーンワイアット大将が都合良く戦死すると、コリニー大将とハイマン准将の保守派が宇宙軍の主流派となっていた。
 モビルスーツ工場は無重力ブロックである。通路をグリップもなしに泳ぎ、工場内は喧噪に充ちていた。
「見せたかったのは、実はこっちの方なんだ」
 工場内にはアナハイムのジャケットを着たスタッフに混ざって、シャアにもなじみ深いツィマッドのジャケットを着たスタッフが少なからず働いていた。その向こうには、重々しいツィマッド社製の流れを汲むモビルスーツが並ぶ。
「これは……?」
 それは一年戦争中にツィマッドが開発した重モビルスーツ《ドム》の外観に似た新型モビルスーツである。外装を剥がされてはいるが、シャアとて素人ではない。構造と全体の印象からツィマッド製であることを見て取れる。
「アナハイムがツィマッドから譲り受けたモビルスーツだ。なんでも、ライセンス生産を行うらしい」
(ということは裏で共和国政府を動かしたか……准将ではない。誰だ…?)
 シャアはコーウェン准将とジオン共和国政府の繋がりまでは知らなかった。考え込んだシャアを見ながら、ブレックスはその政治観の鋭さに確信めいたものを感じていた。
「ところで大尉。この重モビルスーツにはまだ名前がないのだよ」
「そうなのでありますか?」
 事実である。ツィマッド社が開発したモビルスーツは《ドワーズ》という仮称があるに過ぎず、《ドワーズ》はジオン共和国軍に制式採用が内定していることもあり、外装の変更をしなければならなかった。アナハイムで開発していた《γガンダム》からグライバンダーやショルダーアーマーなどを流用することにしていた。アナハイムとしては頓挫した計画であっても《γガンダム》というネーミングで行きたかったのだが、ツィマッドから名称変更を打診されているのだという。
「そこで、大尉に命名してもらいたいのだ」
「なるほど……」
 これにはシャアも苦笑せざるを得ない。見るからにツィマッド社製と判るモビルスーツに《ガンダム》の名は相応しくない。ましてや、ジオン系モビルスーツメーカーにとって、《ガンダム》という名前は忌み嫌われていた。これはアナハイムの配慮の無さだ。裏のパイプを通じて両社が協調していくにしても、これはあくまでツィマッドが開発したモビルスーツである。外見は全く《ガンダム》には似ていなかった。 
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