アラガミになった訳だが……どうしよう
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原作が始まった訳だが……どうしよう
26話 イザナミ側
前書き
イザナミの内面を人外のように書けたか非常に不安ですが……
マキナは行っちゃったみたいだし、私も動かないとね。
「行くよ、着いてきてね」
「わかったよ、おかーさん」
本当なら私がこの子の名前を付けてあげたいんだけど、それをやっちゃうとマキナ本当に怒っちゃうから我慢しなきゃね。
短い時間だったけど、もし私が子供を持ったとしたらきっとこんな感じだって体験出来たし、マキナへの愛情とは違う愛情を知れた。人間の言う母性本能ってやつなのかも知れないね、共に在りたいではなく守りたいといこの気持ちはさ。
マキナが人間に抱いている感情もこれなのかな?
少しは人間を守りたいって気持ちを理解できた気がするけど、やっぱり私にとってはマキナが悲しまないことの方が大事。
もしも、それでマキナが私を殺してもいいの、マキナが泣かずに生きていてくれれば、一緒にいられないのは悲しいけれど受け入れよう。それにその時にはマキナを悲しませる相手なんていないんだから。
だから、私は彼の為なら何だって殺してみせる、それが例え私自身であっても躊躇ったりしない。シオ、私はいつかあなたを殺す。あなたの事は愛しているけれど、あなたの心を殺さなければ彼を救えないなら、私はこの心の痛みごとあなたを殺す。
恨まないでとは言わないし、憎んでくれても構わない。それに私は人ではなく化物の類なんだから、そういう感情を向けらるべき相手なんだよ。
そろそろかな?
プリティヴィ・マータが一匹教会に来てるね、あれが最初の一匹のようだね。さっさと教会に入って人間達に殺されなよ、じゃなきゃ話が進まないでしょ?
あれ?どうしてこっちを見るのかな?あ、そっか偏食場パルスも出してないからただの人間と間違ってるのか……ふーん、少しイラついたな。でも、ここで偏食場パルスを出すとこの辺りのアラガミも全部逃げちゃうから……その体に直接躾させれもらうね。
「下がってて」
「はーい」
マキナと違って動きも遅いし、様子を見るってこともしないただの獣を捕まえるなんて、コップの水を零すことより簡単なんだよ?
私は黒い腕でプリティヴィ・マータの足を握り、動きを止めた。必死に引き千切ろうと暴れているけど、君程度じゃどうしようもないんだよ。
だからさ……安心して潰れなさい。
あは、哀れだね。マキナと違って君を生かす意味なんてこれっぽっちもないんだよ、代わりなんていくらでもいるからね。こうやって捕まえるんじゃなくて握り潰すって事も躊躇する必要もないし、君にはそんな事をする価値もない。
「へぇー怯えてるんだ?怖い?ねぇ、怖い?」
私は降参の意思を示すプリティヴィ・マータに近付き、その頭を踏みつける。あはは、こんなに震えてるなんて、本当に怖いんだね。
「じゃあ、生きたいならあの教会の中にいる人間を襲いなさい。もし、殺せたなら助けてあげる、でも失敗して逃げようとしたなら……」
足に力を少しだけ込めると、プリティヴィ・マータの顔にヒビが入る音が聞こえた。それに伴って、プリティヴィ・マータの悲鳴のような肯定の意思が私に伝わってきた。
マキナとは違ってハッキリと言葉として分かる訳ではないけれど、感情を読み取れる程度の大まかな意思だ。理性のないアラガミだった私にとっては随分と懐かしい会話だが、昔を思い出すようで少しだけ不愉快になる。
私が足をのけると、プリティヴィ・マータはボロボロの手足を引き摺りながら、必死に教会の中に飛び込み中にいる人間と戦い始めた。
「おかーさん」
「どうしたの?」
シオが私の服の裾を引いて不満げに訴えてきた。どうやらさっきのプリティヴィ・マータを食べられると思っていたようで、それが叶わず不機嫌のようだね。
「あれ、食べたかったー」
「ごめん、ごめん、けどしばらくしたらたくさん食べれるからね。それまで我慢して、いい?」
「うー……わかった」
「うん、えらいえらい」
シオはこうやって頭を撫でてやると喜ぶ、目を細めて喜ぶ仕草は間違いなく子犬(シオ)みたいだ。と言っても、私は子犬なんて見たことなくてマキナの記憶で見ただけなんだけどさ。
「命令だ!アリサを連れて、アナグラに戻れ」
ん?人間の声……これは……あーリンドウって人間の声かな?どうやら、さっきのを躾けてる間に他のも来ちゃったみたいで、さっきから銃声やらアラガミの悲鳴が少し聞こえるね。
マキナの事だから、ちゃんと数は減らしてるだろうし全滅はないでしょ。まぁ、しちゃったらしちゃったでいいんだけど、マキナ怒るよね?
「少し、おかーさん叫ぶけど我慢できる?」
「できるよ」
よし、じゃあ少しだけ偏食場パルスを出して……こんな所かな?
うるさい!!
喰われたくなかったら少し静かにしろ!!
うん、これで少しは大人しくなったでしょ?
これで逃げ切れないって言うんだったらどうしようもないし、正直これ以上はやってあげる義理もないしね。
「いやよ!リンドウうううう!!」
うるさいなぁ……早く帰りなよ。大体、君達人間じゃどうにもならないんだよ。それに、愛する人の傍にずっといなくて、別の人間と一緒にさせるからそういう事になるんだよ。
だから、人間は嫌いなんだ。誰かを愛しているのにどうして一緒にいないでいられるんだよ?自分の全てを捨ててでも傍にいなきゃ、周囲が何を言おうと愛する相手に嫌われてでも、愛する者のあらゆる障害の盾にならなきゃダメじゃない。
あ、そろそろシオも準備しないとね。
「ちょっと、こっち来て」
私はシオを近くに呼んで、その体を抱き締める。その華奢な体を壊さないように注意を払って、私はこの時まで私の娘だった存在を愛おしむ。
「どーしたの?」
「ううん、少しだけ眠りなさい」
彼女の着ている私のオラクル細胞で作った旗を媒介に、シオの意識に偏食場パルスで割り込み、以前マキナにやっとことと同じことをする。ただし、今度は一切の容赦無く記憶を消すような強さで。
「ごめんね」
「え?」
私の腕の中でシオの体が一瞬だけビクリと硬直したけれど、直ぐに全身から力が抜ける。
シオは偏食場パルスの強さで言えば私より数段上だけど、精神の成長がそれに追いついていないからこそ、こうして記憶を消せた。だから、私はこの子をマキナにあまり会わせなかった。もしかすると、マキナとコミュニケーションを取ることで精神の成長が進んでしまうかもしれないからね。
そして、ここで真っ新な状態に戻した上で、第一部隊のような悪意をシオに向けない存在に囲まれれば、悪意に対する耐性は皆無になる。そうすれば、最後の最後で私のありったけの悪意をぶつければ簡単に心を壊せる。
そうすれば、終末捕食を止めることなんて出来ないし、私の願いも簡単に叶えられる。
でも……なんだろう?この胸の痛みは?罪悪感ってやつなのかな?
あ、そっか大事にしていた存在が無くなったからか。じゃあこれは喪失感と悲しみか……そっか、マキナを苦しめていたのはこれだね。なるほど、確かにこれは堪えるな……だからこそ二度とマキナにはこんな感情を抱いて欲しくない。
それじゃあ、私の知らないシオが目覚める前に、教会の中が見える場所まで彼女を運ばないとね……バイバイ、シオ。
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