女々しくて
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第五章
「そっちは許してくれよ」
「ああ、とりあえず踏ん切りつけろ」
「時間をかけてな」
こう俺に言ってくれた、俺も辛いながらも話を聞いた。そうして。
また飲んだ、有給を取って休みに入ると余計にだった。朝も昼も夜も飲んだ。
喫茶店に行くことは出来た、あの娘の店に。実際に店の前まで行ったがそれでもそこで足を止めて引き返した。どうしようもないことがわかっているから。
泣きながら食えるものを適当につまみにして安くても強い酒をラッパ飲みして部屋の中で飲んだくれた。そうして飲んで飲んで飲み倒して。
俺は有給が終わる頃になってやっとだった、ほんの少しにしても。
あの娘を忘れられた、それでだった。
俺は会社に戻ってそれからは少しずつ日常生活にも仕事にも気を入れられる様になった。何とか立ち直ってきた。
そうしてだった、二ヶ月程経つと。
俺は普通に戻れた、そうしてツレ達にも言えた。
「何とかな」
「ああ、諦められたか」
「踏ん切りついたか」
「そうなってきたさ」
こう答えた。
「本当に何とかだけれどな」
「それはよかったな」
「苦労しただろうな」
「随分酒に溺れていたしな」
「抜け殻になっていたけれどな」
「辛かったさ、それにな」
前の俺も振り返って言った。
「女々しかったさ」
「自覚あったんだな」
「そのことも」
「あるから言うんだよ」
それでと返した。
「泣いてばっかりでうじうじ悩んで誰彼なしに恨んでな」
「相当荒れてたからな、御前」
「それはな」
「見ていてもわかったさ」
「女々しくなってたのはな」
「死にたいとは思わなかったけれどな」
これはなかった、俺はそう考える性格じゃない。
「まあそれでもな」
「辛かった」
「それはか」
「本当にな、こんなに辛かったことははじめてだぜ」
生きていてだ、学生時代でも働いてからもここまで辛いことはなかった。それでこうツレ達に対しても言った。
「もうな」
「そうだろうな」
「それもわかるさ」
「御前本当に辛そうだったからな」
「苦しそうでな」
「二度とこんなこと経験したくないさ」
本音だ、紛れもなく。
「もういいさ」
「じゃあ誰も好きにならないのかよ」
「二度とか」
「そこまではわからないけれどな」
それでもだった。
「もうこんな思いはしたくないぜ」
「そうか、じゃあな」
「暫くは一人で落ち着けよ」
「やっと立ち直ったからな」
「それならな」
「ああ、そうさせてもらうな」
もう涙も枯れて酒も本当に風呂に入ったみたいに飲んだ、そうして身も心もぼろぼろにしてだった。
俺はやっとこの恋を忘れられた、そうして暫くしてからあの娘が組の若頭と結婚したという話を聞いた、やっぱりあの娘はあっちの世界の娘だった。
俺はその話をそうか、という気持ちで聞いただけだった。それから。
俺は暫く恋はいいと思いながら暮らしていった、とりあえすもう女々しい気持ちにはなりたくなかった。その気持ちが強くあって一人でいることにした。それが何時までになるのかはわからないが。
女々しくて 完
2014・8・1
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