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海馬

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第五章

「このことは海軍の上層部にも知り合いの学者にも見せよう」
「航海日誌にもですね」
「書いておこう」
 こうしてだった、この地中海における海馬の目撃例は海軍上層部や学者の世界で知られることとなった。この時はただの新種の動物の目撃例かと思われた。少なくとも海軍上層部や学者達はこう思った。当時は新種の動物の発見が相次いでいたからだ。
「海は広いからな」
「大型の鯨だろう」
「こうした形の鯨もいるんだろう」
「変わった形の鯨だがな」
 海軍上層部も学者達もその殆どがこう考えた。
「恐竜ではないだろう」
「潮を吹くのは鯨だ」
 この生物的特徴と目撃報告からこう考えられた。
「ザトウクジラじゃないのか?」
「大型のゴンドウイルカなのかもな」
 彼等はこんなことも言った。
「だからな」
「特に驚く話でもない」
「そうだな」
 こうしてアガメムノンでの海馬の目撃談は簡単に終わった、この時は。
 しかし二十一世紀になってだ、この話について多くの未確認動物の研究家が注目してこう話すのだった。
「それ普通の鯨か?」
「普通の鯨の形じゃないぞ」
 艦長が残したスケッチや航海日誌に書かれた海馬の記述を見て言うのだった。
「今の鯨じゃない」
「しかもな」
 鯨でない、今のだ。ここでもうこうも言われた。
「恐竜にしてはな」
「ちょっと違うだろ」
「モササウルスとかティロサウルスにも似てるが」
「鰐にもな」
「ナイルワニが海に出たとかな」
 目撃のあった地中海にだ、エジプトから出たということも想定されはした。
「鰐に海に出たりするがな」
「ナイルワニはそんな話あったか?」
「しかも鰐は尻尾だぞ」
 尾鰭ではないのだ、鰐は。
「モササウルスやティロサウルスもな」
「海馬は尾鰭だしな」
「しかも縦のな」
「哺乳類の尾鰭だろ」
 魚類の可能性も否定された、ここで。
「潮も吹いたっていうしな」
「じゃあこいつは鯨か」
「しかし今の鯨の形じゃない」
「昔鯨類だ」
 これではないかという指摘が出た。
「海馬は昔鯨類じゃなかったのか?」
「普通の鯨じゃなくてな」
「そう思うと大変なことだろ」
「とんでもない発見だよ」
 何しろ昔鯨類は既に絶滅したとされているのだ、恐竜と同じく。
「海にはまだ昔鯨類がいるのか?」
「少なくとも十九世紀にはまだいたのか?」
「そこが気になるな」
「この話はな」
 アガメムノン号での目撃談は二十一世紀になって議論の的となった、実際に十九世紀にはこの海馬の他に百足、スーパーラッコと様々な呼び名の未確認の生きもの達がいたという。そのうちの幾つかが未確認生物でありその中に昔鯨類が実際にいたのかはわからない。だが海には多くの謎があり今もその中のかなりのものが確認されていないこともまた事実だ。海にはこの二十一世紀も多くの謎が眠っている。


海馬   完


                      2014・5・19 
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