素顔は脆く
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第三章
第三章
「本当に」
「まあああいう人なら」
「正面から堂々と告白していいんじゃない?」
「そうよね」
皆それぞれ視線を上にやってそのうえで考える顔で述べるのだった。
「もうね。いきなり好きですって」
「兎の性格だとそれが一番楽でしょうし」
「そうなの。正面からなの」
兎はその皆の言葉を聞いて真剣な顔に戻って言葉を出した。
「正面から告白するのね」
「ええ。ああいう人にはそれがいいわね」
「兎にとってもね」
「わかったわ。じゃあもう単刀直入に行くわ」
ここまで一気に決めてしまった兎だった。
「一気にね」
「頑張りなさい」
「恋せよ乙女」
こんな言葉も出された。
「だからね。気合を入れてね」
「やりなさいよ」
「やるわ。もう特攻する気持ちでね」
まさにそうした顔になっている兎であった。その額に日の丸鉢巻を巻きかねない勢いだった。広めの額にそれは似合いそうではあったが。
「行くわ。今日早速ね」
「じゃあ頑張ってね」
「戦果は聞かせてもらうわ」
「それじゃあ」
もう席を立つ兎だった。そうしてすぐに教室を駆け出る。皆まさかいきなりこう動くとは思わなかったので呆気に取られてしまった。呆然となってしまって言葉を出した。
「ええと。いきなりって」
「それは想定の範囲外だったけれど」
「まさかもうって」
呆然としながら言葉を出すことしかできなかった。今は。
「どうしたものかしら」
「今頃安永君のクラスよね」
「っていうかもう告白してるんじゃ」
「まさに特攻隊」
こんなことを言っているとその兎が帰って来た。今回もまさに特攻隊の如き勢いだった。その勢いと満面の笑みを見て皆すぐにわかった。
「やったわ!いいって!」
「わかったわ。けれど」
「何ていうかね。凄い流れだったわね」
皆苦笑いでその彼女の戦果報告を受けた。何はともあれこうして彼女と昇の交際がはじまったのである。
昇は背が高く引き締まった身体をしている。量の多い黒い髪を上にあげている。すっきりとした頬をしており目は細くやや横に切れている。眉毛はその目に対して斜め上にあがっている。小さな口がその顔立ちをさらに印象付けている。そうした顔である。
性格はやはり優しくそれでいてひたむきな性格である。評判通りの人柄であり兎はいつもクラスの皆に彼のことを明るく話すのだった。
「昇君がね、その時ね」
「はいはい、わかったから」
「もう。彼なくしてはって感じね」
「だって。本当に優しくて気が利くし」
のろける言葉が出続けるのだった。
「もう昇君が何時でもいてくれてる。それだけでね」
「幸せだっていうのね」
「そういうことね」
「ええ、そうよ」
満面の笑顔で答えさえした。
「もうね。とてもね」
「幸せになったのはいいことよ」
「その幸せ大事にしなさいよ」
「わかってるわ。何があっても捨てないわ」
そんなつもりは最初からない兎だった。だからこそはっきりと言葉を返したのだった。
「絶対にね」
「それだけは約束してね」
「いいわね」
皆もここでは真面目に彼女に言うのだった。これだけは、ということで。
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