魔法使いの知らないソラ
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第二章 迷い猫の絆編
第三話 迷い猫の怒り
<PM0:30>
「雷より求めよ、神速の光!!」
突如、ミウがいた部屋が大きな爆発を起こす。
爆風に飲み込まれる翔とミウだが、翔は魔法の力を使って爆風から逃れる。
全身に雷を纏わせ、目にも止まらぬ速度で移動する魔法――――――『|金星駆ける閃光の軌跡(ブリッツ・ムーブ)』
翔は間一髪、ミウを抱きしめながら魔法を使い、屋上に避難した。
そして屋上には、翔とミウ、そして――――――凶暴化した黒猫のショコラがいた。
黒く、針のように逆立った毛。
刀のように鋭く長い爪。
黄金色に光る眼光。
そして圧巻なのは、人間の更に倍、その更に倍以上に巨大化したショコラの姿だった。
不幸中の幸いと言うべきか、ミウは先ほどの病の疲れで意識を失っている。
もし、今の光景を見たら恐怖に震えてしまうだろう。
「ショコラ! どうしたんだ!?」
翔は声を上げてそう聞くと、ショコラの声は濁ったように聞こえ出す。
『どうして‥‥‥どうして今まで、その子をここの人は助けられなかった!? あなたのようなただの子供ごときに助けれたのに‥‥‥どうして!!!』
「ッ!?‥‥‥お前‥‥‥まさか」
暴走するに至った原因、それは――――――この病院にいる人たちへの怒りだった。
ショコラは誰よりも、小鳥遊猫羽と言う少女のことを知って、誰よりもそばにいた友達だ。
だからこそ、誰よりも、いつまでも願っていたはずだ。
この子が、自由に生きられますようにと‥‥‥何度も、何度も願っていたはずだ。
それなのに、いつまで経っても体の調子は良くならず、病と言う運命に必死に抗うように生きている。
相良翔よりも若い少女が、ずっと耐え続けてきた。
それをそばで、ただじっと見ていることしかできないショコラの気持ち。
それがどれほど苦しいものだったのだろうか、想像するのも辛かった。
なぜなら翔自身も、先ほどまで病魔の苦しみに耐えていたミウの姿を見ていることしかできなかったのだから。
もしそれが毎日、何年も続いていてそれを見続けていたとしたら‥‥‥きっと気が狂ってしまうだろう。
そんな、狂いそうな気持ちを抑えてくれたのは紛れもなく、彼女の笑顔だったのだろう。
だから、この優しい笑顔を守ってあげたかったのだろう。
‥‥‥だが、そんな彼女を救ったのは、まだ出逢って間もなく、どこにでも普通の高校生だった。
これといった医療知識・技術を持ち合わせていないただの高校生が、何年も苦しんでいた彼女をあっという間に救ってしまった。
救うこと自体は決して悪いことではない。
問題は、医者が何もしてくれなかったことだった。
たかが高校生で救える体を、どうしてもっと早く救ってくれなかったのか?
もっと早く手を打てば、今頃彼女は、もっと自由にはばたけていたはずだ。
それなのに、どうして‥‥‥。
それが、黒猫『ショコラ』の怒りなのだろう。
そして今の姿は、今まで抑えてきた怒りと苦しみが解き放たれた姿なのだろう。
『フザケルナ‥‥‥フザケルナァァァ!!!!!!』
「まずいッ!」
ショコラは右手を大きく振り上げると、勢いよく病院の屋上に叩きつけようとした。
翔はミウを離れた位置を優しく置くと、再び雷を身に纏い、叩きつけられる地面に向けて走る。
そしてたどり着いた翔は、脳に流れる膨大な|魔法文字を複雑に組み合わせて、魔法を作り出す。
迫る大きな力を抑え、病院を破壊させないための力。
今まで見せたこのない、新たな魔法の力を翔は発現させた。
「大地より求めよ、巨人の力ッ!!」
『ッ!?』
その時、迫るショコラの右手の動きが止まった。
だが、病院にも被害はなかった。
「ぐ‥‥‥ぉ、ぉおおおおお!!!」
それは、翔によるものだった。
全身に魔力を均等に分け与え、地面もショコラもダメージを与えないようにした。
翔の全身は茶色い魔力を鎧のようにまとっていた。
過去にいた、大地の巨人のように圧倒的な怪力の力をその身に与える身体強化魔法――――――『|土星与えし巨人の鎧(ウィルダネス・シュラーク)』
「やめろショコラ! この病院を壊しても、何の意味もない!!」
『うるさい! お前に何が分かる!? ずっと、ずっと何もできずに、ただ苦しみに耐える主の姿を見ていることしかできないこの気持ちを、お前なんかに分からないでしょ!?』
「ショコラ‥‥‥」
最初は、翔のことをあなたと呼んでいたが、今は怒りと暴走のせいでお前になっていた。
それだけ、怒りが溜まっていたということになる。
‥‥‥だが、翔には理解できることがある。
翔もまた、何もできなかった人の一人だから。
「分かるよ。何もできない‥‥‥無力な自分を感じる日々、俺もそんな日々があったからさ」
『なら、止めないで!!』
「いや、だからこそ止める!!」
翔は思った。
ミウが自分の義妹だと言うのなら、ショコラは‥‥‥相良翔自身なのではないのかと。
どんなに辛くても、辛いことを笑顔で話す姿を何度も見ても、その苦しみを共有できなくて、それをただ見ていることしかできない無力さ。
そんな日々は、翔も経験したことがある。
だからこそ、翔とショコラは似た者同士なのだと思った。
そして、そんな苦しみも、痛みも、怒りも、全部理解できてあげられる翔だから、ショコラを止めると決意できた。
「ショコラがここで病院を破壊すれば、病院にいる人は傷ついて、それを心配する家族や仲間がでる。 その人たちもきっと、俺やショコラと同じ気持ちになって、同じ日々を過ごすことになる。 そんなこと、絶対に繰り返しちゃいけないんだ!!」
翔はそう言うと、右手の空間を歪ませ、魔法使いとしての武器である刀――――――『天叢雲』を召喚する。
そして両手で柄を絞るように握り、ショコラを睨みつける。
「だから俺は、お前を止める! お前と同じ苦しみを知る者として、ミウを守るため、そして――――――魔法使いとして!!」
翔は沈み込んだ姿勢から一気に走り出す。
地面ギリギリを滑空のように突き進む。
右手に持った天叢雲に魔力を込め、脳の中で膨大に広がる|魔法文字を複雑に組み合わせて魔法を発動させる。
ショコラは両手の爪に力を込める‥‥‥込めると、色を紅く変化させる。
恐らくあれは、魔力。
魔力を纏わせて、翔と同じように魔法を発動させようというのだ。
そして魔力を纏わせたショコラは地面に爪を食い込ませて大きな穴を開けながら翔に向かって走り出した。
「せいッ!!」
翔は上段の構えから勢いよく刀を振り下ろす。
白い残影を残し、その一閃は真っ直ぐに振り下ろされる。
光り輝く裁きの一閃――――――『|天星光りし明星の一閃(レディアント・シュトラール)』
ショコラは対するように、両手の爪を勢いよく振り上げ、交差させるようにして振り下ろした。
翔とショコラの一撃は、激しい火花を散らしながらぶつかり合う。
「ッ!? ぐあッ!!」
だが、翔は力負けしてショコラの一撃を受けると、遠くに飛ばされて地面に叩きつけられる。
更に容赦なく、次の一撃が翔に迫る。
「くっ‥‥‥なら」
翔は刀を片手だけで握る。
利き手の右手で握ると、手のひらでくるりとペン回しのように回転させ、持ち方を変える。
柄が上に出て、刀身が下を向く‥‥‥逆手持ちと呼ばれる持ち方だ。
ナイフなどを使った近接格闘などでなどく見られる持ち方だが、刀で逆手持ちと言うのは珍しい。
ただでさえ片手でもって振り回すのが難しい刀を、逆手持ちと言う持ち方で振るうのだ。
だが、翔は何度も片手・逆手持ちの練習をしていた。
だからこそ、この持ち方をしても戦える自信があった。
そして翔は迫るショコラの攻撃をひらりと避け始める。
右、左、右、左、上、下、斜め、真ん中、様々な方向から迫る攻撃を翔は一つ一つ丁寧に見切りながら避ける。
‥‥‥そして、ショコラの右手のストレートを避けた瞬間、待っていたかのようなタイミングに翔は刀身に魔力を一気に込めて、ショコラの懐に潜り込む。
「喰らえッ!!」
翔は大量の攻撃系魔力を外へ撒き散らしながら『|土星与えし巨人の鎧(ウィルダネス・シュラーク)』によって強化された腕力で自身の体をコマのように回転させる。
更に刀身に纏った白銀の技『|天星光りし明星の一閃(レディアント・シュトラール)』が撒き散らされた攻撃系魔力と激しく擦れ合い、膨大な摩擦を発生させて白銀の竜巻を発生させる。
天星と土星を組み合わせた超高等魔術。
全てを飲み込み、切り裂いていく白銀の嵐――――――『|天星吹き荒れる龍嵐(レディアント・シュトゥルム)』
白銀の竜巻は、ショコラの懐を切り裂きながら天に伸びていく。
ショコラは回転しながら宙を舞い、苦しそうに地面に落下していく。
「‥‥‥」
翔は、悲しそうな表情をしながら刀を両手で握りなおす。
そして魔力を刀身に込めながら、魔法――――――『|天星光りし明星の一閃(レディアント・シュトラール)』を発動させる。
いつもなら、勢いよく走り込んで切り裂くはずの動きを、翔はゆっくり‥‥‥ゆっくりと歩きながら発動させていた。
それは、この一撃を放てば確実にショコラを倒せると確信しているからこその迷いだった。
今、この暴走状態のショコラにトドメを刺さなければ、病院が壊れるどころの騒ぎではなくなる。
そうなれば、悲しむ人が増える。
それは絶対に止めたい。
だが、止めるためには、ミウの大切な友達をこの手で倒さなければいけなくなる。
そうなればきっと、ミウは心を痛めるだろう。
そう考えるのは容易だった。
翔の中には、様々な葛藤があったのだ。
そして葛藤は行動にも現れ、翔の進む足を遅くしていたのだ。
「‥‥‥」
だが、翔は決心した。
ここで、ショコラを倒す決意。
翔は勢いよく駆け出し、地面に倒れるショコラに向かって一直線に向かう。
このままなら、間違いなくショコラは切り裂かれる。
そう‥‥‥思っていた――――――。
――――――「ダメェッ!!!」
だが、翔は切り裂くことができなかった。
目の前に来たところで、翔は動きを止めたのだ。
聞こえた、少女の声と‥‥‥目の前に現れた、その少女の姿で。
「ミウちゃん‥‥‥」
「やめて‥‥‥お兄ちゃん」
翔の前に立ちはだかったのは、つい先ほどまで意識を失っていた少女、小鳥遊猫羽だった。
ミウが翔を止めたのは問題ではない。
問題は――――――魔法で強化された翔の脚力を超える速度で翔よりも早くショコラの前に移動できたこと。
病室生活で運動なんて皆無のはずのミウ。
そんな彼女が、年上の男子、しかも魔法使いの速度を上回ることなんてできない。
できるとしたらそれは、彼女が魔法使いとして覚醒したと言うこと。
「そこをどいてくれ。 ショコラを止めないといけないんだ」
「ダメだよぉ! 絶っ対にダメぇ!!」
「ッ!? ‥‥‥ミウちゃん‥‥‥」
『ミウ‥‥‥』
翔もショコラも、ミウのその姿に呆然としてしまう。
弱々しく、脆い体で必死に大切な友達を守ろうとする、その姿。
両腕を左右に広げ、自分よりも大きな友達を守ろうとしている。
恐怖なのか、疲れなのか、ミウの全身はガクガクと震えて、立つのもやっとの様子だ。
そんな彼女を踏ん張らせているのはきっと、大切な友達を失いたくないという、強い気持ちなのだろう。
「ショコラは、私の一番大切な友達なの! 私の、友達なのッ!!!」
「ぐっ!」
叫ぶミウに答えるように、ミウの全身から蒼い光――――――魔力が溢れ出て翔は後ろに吹き飛ばされる。
なんとか着地すると、ミウが蒼き魔力に包まれていくのを目の当たりにする。
「誰も、お兄ちゃんでも、ショコラを傷つける人は許さない!!私が、絶っ対に許さないッ!!!」
ミウを包み込む蒼い魔力の光は螺旋のように渦を巻き、天まで伸びる。
そして天まで伸びると魔力の光は一旦、姿を消す。
‥‥‥だが、しばらくすると天から巨大な竜巻がミウに向かって落下してくる。
「ミウちゃんッ!」
翔は高速移動魔法――――――『|金星駆ける閃光の軌跡(ブリッツ・ムーブ)』でミウのもとへ走り出す。
‥‥‥だが、竜巻の速度は相良翔の移動速度を大きく上回り、あっという間にミウを飲み込むと、翔は落下してきた衝撃と爆風によって吹き飛ばされる。
「ぐ‥‥‥ミウちゃん‥‥‥」
ミウがどうなるのか、それは竜巻が消えなければ分からない。
だが翔は、万が一のことを考えて天叢雲をしっかりと握り、立ち構える。
そして、竜巻が消えると‥‥‥翔の前、とんでもないものが現れた。
「なっ‥‥‥嘘‥‥‥だろ‥‥‥」
ミウを守るようにミウを囲むように渦を巻く巨大な生物。
蛇のように長い胴体と尻尾、肌は鋭く大きな鱗がびっしりと付けられ、まさに鎧のようだった。
そしてその大きな体をソラへと羽ばたかせるための大きく、力を感じさせる翼。
鋭い眼光からは圧倒的な威圧感を感じさせる。
その姿は、まさに伝説上の生物――――――『龍』だった。
その龍は、小鳥遊猫羽と言う小さな存在を守るように翔を睨みつける。
つまり、あの龍はミウが魔力を使って出したもの。
「お兄ちゃん。 お願い‥‥‥ショコラに手を出さないで」
「‥‥‥それでも、俺はショコラを倒さないといけない。 その姿のショコラを、俺はこの手で‥‥‥」
ミウの願いを断ると、ミウは残念そうな表情をした後、全てを覚悟した表情になる。
――――――人を殺す覚悟を決めた表情に。
「だったら、私とお兄ちゃんは敵同士だね‥‥‥」
「ミウちゃん‥‥‥」
翔の剣先が震える。
刀を安定して持つことができない。
心が動揺して、集中できない。
全身から、力が抜けていく。
ミウによるものではない。
龍でも、ショコラでもない。
ただ、相良翔自身が、怯えているのだ。
今、目の前に立ちはだかっているのは‥‥‥相良翔の義妹によく似た少女だ。
そして彼女もまた、翔のことを兄と慕ってくれた。
今も、敵同士である中、相良翔のことを兄と慕って呼んでいる。
翔にとってその姿は、まさしく義妹そのものだった。
相良翔と言う少年の、人生を変えてくれて、人生を変えさせてしまった少女に。
そんな少女、ミウを斬ることなんて翔にはできなかった。
ショコラに対してあった斬ると言う決意もまた、ミウによってかき消された。
文字通り、戦意喪失状態なのだ。
「私、お兄ちゃんが相手でも本気だからね」
「‥‥‥」
ミウはそう言うと、右手を天に掲げる。
すると龍は口を僅かに開ける。
龍の口の中は蒼き光――――――魔力によって光りだす。
光は徐々にその輝きを増し、超高密度の魔力体となっていく。
「天より舞い降りし龍よ、我が命に従い、仇なす敵を倒して」
ミウは脳に溢れる膨大な|魔法文字を複雑に組み合わせ、龍に魔法を与える。
初めて使う魔法にして、最強の魔法。
龍の口から放たれる、逆鱗の焔。
全てを燃やし、打ち倒す――――――『|龍放つ獄炎の焔(アオフ・ローダン・ボルケーノ)』
龍は溜め込んだ焔を一気に吐き出した。
蒼く光る火線が、長い尾を引いて宙を駆ける。
「‥‥‥」
翔に向かって真っ直ぐに迫るそれを、翔は避けることができなかった。
そして放たれた焔は翔の足元にぶつかると、巨大な爆発を起こして翔を巻き込んで吹き飛ばした。
吹き飛ばされた翔は低空に飛ばされると、地面に転がるようにして倒れた。
その手から天叢雲は離れ、地面に音を立てて転がる。
「ぅ‥‥‥ッ」
どうすればいいのか、翔は分からなくなっていた。
今ここで起き上がる意味、立ち上がる意味、武器を手にする意味、戦う意味。
全部‥‥‥分からなくなっていた。
名も知らない誰かのために、目の前にいる大切な人を斬ることへの疑問。
それが翔の中で募り、起き上がる力を削いでいた。
周囲は蒼い炎で包まれ、まさに焼けた戦場のようだった。
その場所で翔は、無力に倒れていた。
「お兄ちゃん‥‥‥ごめんね」
トドメと言わんばかりに、龍は再び口に魔力を集結させていく。
翔はそれを分かっていても、起き上がれなかった。
もう、どうすることもできなかった。
そして――――――再び蒼き焔が翔に向けて放たれた。
全てを諦めた翔は、力なく瞳を閉じて、全てが終わるのを待った――――――。
――――――「夜天より舞い降り、我らが敵の尽くを打ち払わん!!」
「ッ!?」
だが、耳に聞こえたミウとは別の女の声に翔は再び目を開けた。
聞き覚えのある、女の声。
そして翔の真上を通り抜けるように漆黒の闇がレーザー砲のように放たれ、龍の放った蒼き焔とぶつかり合って相殺させる。
収束し、放たれる闇――――――『|夜天撃つ漆黒の魔弾(ヴォーパル・インスティンクション)』だった。
「相良君、まだ諦めてはダメ。 まだ――――――諦めないで!」
「ッ!?」
その言葉に、翔は再び奮い立たされた。
全身に力が湧いてくる。
魔力も、満ち溢れてくる。
そして翔は、立ち上がった。
「理由なんていくらでも見つけられる。 大事なのは、諦めないこと‥‥‥見失わないこと」
「‥‥‥ああ。 そう、だったな」
翔は立ち上がると、 地面に転がったままの刀の柄頭を踏む。
刀は音を立てて回転しながら垂直に飛び上がる。
白銀の光を引いて落ちてくる柄に向け、右手を横薙に振るうと重い音とともに刀が翔の手に収まる。
「見失ってたな。 彼女は、|義妹じゃない。 全く違う子なんだ‥‥‥だから、これ以上の迷いはいらないはずだった。 俺は、魔法使いとしてあの子を止める。 手伝ってくれ――――――ルチア」
「ええ。 もちろん」
翔の声に答えるように、翔の左隣に立つのは、黒い衣を身にまとい、死神のように大きく鋭い鎌を持った――――――ルチア=ダルクだった。
‥‥‥そして、もう一人。
「私も協力します。 3対3なら、フェアです」
「井上‥‥‥静香先輩」
「ええ。 及ばずながら、私も戦いましょう」
右隣に現れたのは、白と桜色を強調した騎士風の戦闘服。
左腰には剣を収める白に桜色のラインが入った鞘。
右手には、その鞘に収められていたであろう剣があった。
刀よりも細身の、エストック型の形状をした‥‥‥レイピアだった。
圧倒的な存在感と威圧感。
その美しく、戦場に現れるその存在はまさに――――――『女帝』だった。
「ありがとうございます、先輩」
「いいえ。 それよりも、詳しいお話しを後でじっくりとお聞きしますから」
「‥‥‥はい」
尋問よろしく、長く話しを聞かされ言わされるのだろうなと思い、苦笑いをする。
だが、静香がミウのほうを向いた瞬間、表情は凛として真剣な表情になり、それに釣られるように翔も意識を集中させる。
「私があの龍のお相手をします。 相良さんは大きな黒猫の相手を。 ルチアさんはあの魔法使いのお相手をお願いします」
「「はいッ!」」
静香の指示に覇気のある返事をすると、静香は嬉しそうにふっと笑い、声を出した。
「行きますッ!!」
「はいッ!」
「ええッ!」
そして3人は、強大な力を持つ少女に向けて走り出したのだった――――――。
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