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魔法使いの知らないソラ

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第一章 日常と非日常
  第三話


 「―――お前を、倒すッ!!」


鋭い呼気と共に吐き出しながら、彼は大地を力強く蹴る。

 遠い間合いから右手に持つ刀を横薙に繰り出す。

 狼男はそれを、魔法によって強化された右手に生える爪でぶつかり合わせる。


「はぁぁぁっ!!」

「おぉぉぉっ!!」


二人の雄叫びが混ざり合うかのようにして響き渡る。

刃と爪がぶつかり合うと、火花が散って二人の顔を一瞬、明るく照らす。

金属が擦れ合うような音が響き渡る。

そして、その一撃を始めとして二人の攻撃は加速していく。

最初の一撃は、恐らく一般の人でも肉眼で捉えられただろう。

だが、二回目、三回目と繰り出される二人の一閃は速度を増して、もう何度ぶつかっているのか数えることができない。

そして、肉眼では捉えられない程の速度で二人はぶつかり合う。

一本の刀と、両手の爪がぶつかり、激しい火花を散らす。


「ぐっ‥‥‥!」

「チッ!」


二人の一撃の衝撃で、二人は数m程距離を置いた。

すると狼男は右手を前につき出す。


「行けッ! 俺の下僕達!!」

「ッ!?」


再び狼男は10もの数の狼を召喚する。

狼は素早く翔に襲いかかる。

翔は狼達を一撃で切り裂こうと刀を大きく振りかぶる。


「夜天より降り注げ、闇の槍雨!!」


‥‥‥だが、翔が刃を振り抜こうとしたその時、天から降り注ぐ漆黒の槍によって全ての狼が貫かれて消滅する。

漆黒の槍は、雨のように降り注ぐ。

先ほど放たれた『|夜天貫く闇の聖槍(シュメルツ・ぺネトレイト)』の上位魔法。

――――――『|夜天貫く闇の槍雨(シュメルツ・ドゥーシェ)』

翔はその魔法を使った彼女の方を向く。


「ルチアッ!?」

「狼たちは、私が倒すから‥‥‥相良君は、主をお願い」

「‥‥‥任せろ」


真っ直ぐな瞳で、翔に全てを任せるルチア。

その瞳に見惚れてしまった彼は、返事をするのに少し遅れた。

我を取り戻した翔は狼男の方を向き、再度刀を握りなおす。


「覚悟しろ。 お前のやったことは決して、容易に償えるものじゃない。 だからこそ、俺達が裁いてやる!」


そう言うと翔は、脳からPCの情報のように流れ出る『|魔法文字(ルーン)』を組み合わせていく。

そして組み合わさったとき、力強く大地を蹴った。


「うぉぉぉッ!!!」

「チッ! なら、俺の下僕達d――――――ッ!?」


迫る翔を迎え撃つために、再び狼を召喚しようと右手を前に出したが、狼は召喚できなかった。

なぜなら、突き出した右手は突如、真上から落下してきた漆黒の槍によって貫かれたからだ。

そんなことをするのは、ただ一人――――――ルチア=ダルクだ。


「てめぇぇッ!!」


恨めしそうな声をルチアに向けて放つが、ルチアは無関心の表情で翔に言う。


「トドメを刺して。 相良君」

「ああッ!」


翔は遠い間合いから、狼男のもとへ走ると刀身が白く光りだす。

そして光を纏った刀を、翔を面の構えから振り下ろす。


「せいッ!!!」


気合一閃、翔は狼男の懐に飛び込むと、魔力の溜まった刀を横薙ぎに繰り出す。

 繰り出された刀からは、白い光の残影が残る。

それほどの速度で放たれた一閃は、狼男の防御を抜けて一気に切り裂く。

 光り輝く裁きの一閃――――――『|天星光りし明星の一閃(レディアント・シュトラール)』


「ぐ‥‥‥ぁ‥‥‥」


切り裂かれた狼男はその場で、力なく倒れた。

翔は男から背を向けると、刀は光の粒子となって消えていった。

そしてルチアのもとに歩み寄る。


「ルチア、大丈夫か?」

「大丈夫よ。問題な‥‥‥ッ」


ルチアは、先ほど狼に噛まれた部分の痛みで表情を歪める。

そして激痛のあまり、その場で膝をつく。


「‥‥‥少し、じっとしててくれ」

「え‥‥‥?」


翔は静かにそう言うと、両手に意識を集中させる。

呼吸を静かに、ゆっくりと行ない、集中力を高める。

ここからは難易度の高い業をするからこそ、油断は許されない。

脳に流れる膨大な|魔法文字(ルーン)を複雑に組み合わせ、新たな魔法を発現させる。


「湖より求めよ、癒しの光!」


そう言うと、翔の両手は水色の魔力光に包まれる。

そして両手で、ルチアの両腕の傷口を抑える。


「ッ!?」


すると不思議なことに、全ての傷がシュウウ!と音を立てて塞がっていく。

 湖が与える救済の加護にして、治癒や修復能力を持つ高等魔法――――――『|水星癒す聖なる(ハイルミッテル)

みるみるうちに癒えていく傷口に、ルチアは驚きが隠せなかった。


「相良君‥‥‥どうして‥‥‥」

「え?」


魔法を知るルチアには、翔の発現させた力はあまりにも異常だった。

 魔法使いは一人一つの魔法を使う。

武器を使うか使わないか、攻撃か防御か癒しかなど、それは一つのみだ。

だが相良翔は攻撃と、回復までもを使う魔法使いだった。


「なんで、治癒魔法を使えるの?」

「なんでって言われても‥‥‥なんか頭の中に傷を癒す方法があったから、戦いが終わったら使おうかなって思っててさ」

「‥‥‥」


本人にも分からない、異能の力。

それを初見で使いこなす彼、相良翔。

彼の魔法は、ルチア=ダルクの知る今までの魔法で一番異能だった。


「‥‥‥とにかく、助けてくれてありがとう。 助かったわ」

「いや、魔法で援護してくれてたから、貸し借りなしだ」

「ええ。 そういうことにしてもらえると嬉しいわ」


そう言うとルチアは安堵したように小さく微笑む。


「ッ‥‥‥」

「‥‥‥? どうかした?」

「いや、なんでもない」

「?」


その微笑んだ表情を始めて見た翔は、しばらく見惚れてしまった。

我を取り戻したあとでも、彼女の微笑んだ表情が頭から離れず、言葉にできない不思議な感覚に囚われてしまった。


「‥‥‥と、とにかく、あの男はどうするんだ?」


気を紛らわすために、話題を出すとルチアは冷静に答える。


「警察に出すわ。 警察には、魔法使いを取り締まる部署もあるから」

「‥‥‥そうなのか?」


魔法使い、そんな非現実的な存在を信じて、さらにそれを取り締まるような部署が警察に存在するとは驚きだった。

とりあえず、その部署とやらに連れていけば万事解決と言うことらしい。

それを理解した翔はルチアと共に狼男の方を向いた。


「「え――――――ッ」」


だが次の瞬間、二人の目に映った光景に言葉を失う。

狼男は間違いなく、翔がその手で斬った。

少なくとも起き上がることなんてできるわけがない。

それが常識で、そうでなければむしろ異常だろうと思っていた。

‥‥‥だが、その理解は“人間であることを前提とした常識”であったわけで“魔法使いであることを前提とした常識”ではない。

その違いが、今の現実を驚きのものへと変えたのだ。


「グゥゥゥオォォォッ!!!」

「「ッ!?」」


 全身は黒の毛で覆われ、太く筋の多い筋肉。

 暗闇でもはっきりとわかる、紅く光る二つの瞳。

 鋭く列をなす牙と、長く鋭い爪。

 大地はその存在を支えきれず、穴が空く。

 黒く染まりあがった姿は、まさに黒き野獣。

 その野獣が放つ雄叫びは、大気を揺るがし、空気を振動させる。


「なんでだ!?あいつは倒したはずじゃ‥‥‥!?」

「でも、あの狼男からは意識を感じられない‥‥‥。 多分、魔法そのものに飲み込まれたんだ」

「どう言うことだ?」


ルチアの経験からでた答えは、翔にとって驚くべき内容だった。


「魔法は決して万能なものじゃないの。 使用者の心で強くも弱くもなり、脆くも強固にもなる。 あの人は魔法と言う大きな力に心が負けて、魔法そのものに食われて‥‥‥暴走してる」

「ッ‥‥‥それじゃ今、あそこにいるのは魔法使いじゃなくて、文字通り狼男ってことか!?」

「ええ、そうなるわね」


狼男は魔法を操れず、逆に操られてしまった。

ミイラ取りがミイラになったような話だ。

なんとも哀れな光景だと翔とルチアは思った。

だが、暴走したとなれば哀れんでいる場合ではない。


「とにかく、あの暴走した狼男を止めないと」

「なら、迷うことはないな」


翔がそう言うとルチアは頷いて返し、二人は肩を並べて狼男の方を向く。

そして二人は再びその手に刀と鎌を持ち、各々動きやすい構えを取る。

遠い間合いから、暴走した狼男の出かたを伺う。

‥‥‥そして、その時は来た。


「グォォォッ!!」

「せいッ!!」

「はぁっ!!」


狼男が大地を蹴り上げてこちらに飛びかかったところで、二人も同時に大地を蹴り上げる。

遠かった間合いは一瞬のうちに近距離へと変わり、狼男の両爪と翔とルチアの刃がぶつかり合う。

重なる二人の呼気に、二人は互いの息があって戦えていることを実感する。

だが、その途方もない衝撃に翔とルチアはジリジリと押されていくのを感じる。


「なんて力だ‥‥‥!」

「重い‥‥‥ここまでなんて」


ルチアも、流石にここまでとはと、予想外の力に驚きを隠せなかった。

暴走状態、魔法に飲み込まれてとはいえども、二人がかりでぶつかってここまで押されるとは思わなかった。

ここまで力が増大する要因は恐らく、魔法の力で強化された彼の体にある。

 彼の魔法は、『狼』と言う存在の召喚ともう一つ。

 狼と言う存在を自分の力に加えること。

 先ほどまで戦っていた狼男は、自らを狼と同化させることで並以上の力を発揮していた。

 だがそれは、魔法使いの許容範囲内での力であって、決して限界を超えた力ではないのだ。

 人間が筋力の20%以上も出せないのと同じように、魔法使いにも限度がある。

 ‥‥‥だが、現在戦っている狼男は恐らく暴走状態にあるため、その限界を超えて発揮している。

 先ほどの倍以上の力を発揮しているのも、恐らく暴走しているから。


「‥‥‥ならッ!」


ルチアは鎌を地面に突き刺し、それを軸に逆さまになって独楽のように回転しながら狼男の顔に回し蹴りを食らわせる。

顔面ならば脳に振動を与えて倒せばいけると考えたのだ。


「グ、ゥゥゥアアアア!!!」

「ッ!?」


だが、狼男の体はルチアの想像の数手先にあった。

その暴走状態の狼男は、その全身が鋼以上の強度を誇っていたのだ。

当然、ルチアの蹴りは通用せず、狼男は何もなかったかのような表情で、空いた爪でルチアを突き刺そうとする。


「このッ!!」


迫る爪を、隣にいた翔は飛び蹴りで軌道を逸らす。

その隙にルチアは鎌をもって狼男と一旦距離を取る。


「ありがとう、相良君」

「どういたしまして!」


そう言うと翔は狼男とは距離を取らず、迫る両爪を一本の刀を光速で振って対応する。

防戦一方になるのを予想していたルチアだが、翔は防戦一方どころか攻めと防御の両方をこなして戦っていた。

狭る爪を避け、いなしつつ、隙を作っては魔力を刀身に込めて一撃を放つ。

右から左、左から右、それを繰り返しているうちにもはや目で見るのが辛くなってくる。

それほどまでの速さで翔は刀を振るい続ける。

まるで、昔から剣の道を歩んできていたかのような、そんな熟練者のような素早い動きで。

そして翔自身、自分がここまで対応していることに終始驚きを隠せなかった。

光速の域に達しているであろう速度の攻防を正確に見切り、対応して攻撃まで当てている。

甲高い金属音が何度も響き、白銀の火花を散らしていく。

何度も剣撃を阻まれながらも、諦めることなく振るい続ける。

一度でも動きを止めれば刺されるか切られるかして終わる。

その間に、ルチアが立ち入ることはできない。


「‥‥‥それなら」


ならば、ルチアにできるのは、ギリギリの戦いをする相良翔を離れた場所から支援すること。

たった一人で戦わせたりはしない。

そう心に決め、ルチアは再び意識を集中させる。

脳に流れる膨大な|魔法文字(ルーン)を組み合わせていく。

先ほどよりも強力な一撃のために、先ほどよりも膨大な|魔法文字(ルーン)を組み合わせる。

ここからは、一度のミスも許されない。

速く、丁寧に、正確に作り上げる。


「夜天より舞い降り、我らが敵の尽くを打ち払わん!!」


詠唱を唱えるうちに、足元にルチアを中心に円形の魔法陣が現れる。

紫色に光輝く魔法陣は時計回りに回転していき、力を高める。

そして左手を狼男の方向に真っ直ぐ向ける。

すると手のひらに黒い闇が渦を巻いて集結していく。

そして円形の球体を作り出す。


「(お願い‥‥‥相良君‥‥‥!)」


ルチアは、相良翔の可能性に賭けた。

魔法使いとしては未熟で、まだ何も理解できていないけれど、可能性に満ちている。

彼の力は、あまりにも未知のものだからこそ、賭けるにたる存在なのだ。

そしてルチアは信じる。

今、ルチアが作り出した強力な一撃を直撃させるための隙を作ってくれると信じて――――――。



                  ***



「ぅ‥‥‥ぉぉぉおおおおッ!!」


翔は一人、狼男の左右から迫る爪をたった一本の刀で捌ききっていた。

限界なんてとうの前に超えている。

だが、止まるわけにはいかない。

止まれば間違いなく貫かれて殺される。

一切の雑念を払い、魔法と剣撃に全ての意識を集中させる。

今の速度では、一撃を当てるに達しない。

だから翔は、激しいぶつかり合いの中で、なんと詠唱を始めた。

脳に流れる膨大な|魔法文字(ルーン)を複雑に組み合わせて、魔法を作り出す。

目にも止まらぬぶつかり合いの最中にそれを行えるのは、熟練者をおいてほかにいないだろう。

だが翔は、今の状況ではこれしか生き残る手段がないと判断し、限界まで力を込めて発現させた。


「雷より求めよ、神速の光!!」

「ガウッ!?」


その瞬間、狼男の爪が翔の眼前まで迫った。

だがその一撃は当たることなく、空を貫く。

そして翔を金色の光が包み込み、閃光の如く移動する。

相良翔の持つ、もう一つの力。

金色の雷を纏い、閃光のように駆け抜ける高速移動の魔法――――――『|金星駆ける閃光の軌跡(ブリッツ・ムーブ)』


「せいッ!!」

「ガァァァッ!!??」


そして狼男の背後から、翔の刀が振り下ろされる。

切り裂かれた狼は右膝を地面につけて怯む。

‥‥‥隙ができた瞬間、ここしかない。


「今だ―――ルチアッ!!」

「ええ!」


翔はルチアとは反対方向に下がり、遠い間合いを取る。

距離をとったのを確認したルチアは、その手に集めた魔法を、怯んだ狼男に向けて放った。


「はぁぁぁああああッ!!」


力強い声と共に、黒く収束した闇が真っ直ぐ狼男に向けてレーザーのように放つ。

ルチアのもつ、長距離系魔法。

収束し、放たれる闇――――――『|夜天撃つ漆黒の魔弾(ヴォーパル・インスティンクション)』


「グ‥‥‥ガァァァァッ!!!!」


大地を削り取りながら迫る闇は、狼男に直撃すると、狼男は苦しそうな悲鳴を上げる。

この魔法は破壊力に長けており、強化された狼男の肉体であろうと、容赦なく破壊していく。

そして削がれた強化体は脆くなっていった。


「相良君、決めるわよ」

「分かった!」


左右から挟み撃ちで、翔とルチアは刀身に魔力を込めながら大地を蹴り出す。

魔力を込めた刃は、二人が持つ魔力色の光を放ち、夜の世界を照らす。


「「はぁぁぁぁッ!!!」」


二人の声が重なると、両サイドから同時に剣撃を繰り出す。

翔が放つ、光り輝く裁きの一閃――――――『|天星光りし明星の一閃(レディアント・シュトラール)』

ルチアが放つ、闇を纏わせた一閃――――――『|漆黒を刈り取る者(デス・シュトラーフェ)』


「せいッ!!」

「はぁッ!!」


気合一閃、翔とルチアは左右から斜め斬りを放つ。

完璧と言えるほど、絶妙なタイミングで二人の剣撃がシンクロすると、二筋の光の帯を引いて狼男の体を切り裂く。

激しい衝撃と狼男の悲鳴が響き渡る。


「グ、グォォオオオオッ!!!!」

「行くぞッ!!」

「トドメッ!!」


狼男は最後の力を振り絞って両腕の爪に魔力を込めると翔とルチアを貫かんとばかりに一直線に放つ。

翔とルチアは眼前に迫る一撃を、二人の持つ強力な一撃を対抗させる。

このタイミングのために、二人はすでに脳の中で|魔法文字(ルーン)を組み合わせていた。

別に作戦を立てたわけでもないにもかかわらず、二人は瞳を交わすだけでそれを理解した。

以心伝心と言わんばかりの一体感に、翔とルチアは言葉にできないような官能的な感覚を覚える。

そして二人の一撃は交錯し、新たな一撃を作り出す。


「「はぁぁぁッ!!!」」


白銀と漆黒が交わり、二つの一閃は重なって強力な一閃となる。

交差して放たれたのは、星と闇の一閃。

全てを産み出し、全てを飲み込む、決して交わることのないもの同士が重なり合って放たれる軌跡の一閃。

二人の魔法の合わせ技――――――『|星屑討つ漆黒の一閃(フェアニヒテン・クロイツ)』

放たれた一閃は、十字架を作るように切り裂き狼男を消滅させた。

そして、消滅した狼男を見届けて、翔とルチアの戦いは終わった――――――。



                  ***



戦いを終えた翔とルチアは、元の冬服に姿を戻し、武器も消滅した。

疲れのあまり、二人はしばらくその場に座って動かなった。


「終わった‥‥‥んだよな?」

「ええ。 私達の勝ちよ」


冷静に淡々と翔の質問に答えるルチア。

疲れているにもかかわらず、何事もなかったかのように涼しい表情で答えるルチアに翔は流石は熟練者だと思った。


「‥‥‥さて、そろそろ帰ろう」

「ええ。 そうね」


ある程度疲れが取れた二人はゆっくりと立ち上がり、その場を去ろうとした。


「――――――待ってください」

「「ッ!?」」


突如聞こえた、女性の声に翔とルチアは再び警戒態勢を取る。

今まで気配がなかったが、突然現れたことに驚きながらも暗い影から現れる女性の姿を確認する。


「‥‥‥え?」


だが、翔はその人物に目を大きく見開く。

忘れもしない、この町の学校で始めて声をかけてきた人。


「井上‥‥‥静香、さん?」

「放課後はありがとうございました、相良君」

「生徒会長‥‥‥?」


ルチアもまた、彼女の登場に驚いた。

灯高の生徒会長である井上静香の登場は、二人にとって予想外だった。

そして彼女は恐らく、翔とルチアの戦いを見ていた。

全てを知っている。


「魔法使いになったんですね、相良君」

「は、はい。 その、色々あって」

「分かってます。 お二人とも、激しい死闘でお疲れでしょうけど、申し訳ありませんが私と来てくれませんか?」

「「?」」


静香の誘いに、翔とルチアは頭に疑問符を浮かべた。

どう言う事情なのか、聞く前に先に答えた。


「あなたたちに、会わせたい人がいます。 魔法使いとして、あなたたちには是非会わせたいです」
 
「‥‥‥会長も、魔法使いなんですか?」

「はい。 ルチアさんよりも前から、私は魔法使いでした。 あなたたちに会わせたいのは、私の尊敬する魔法使いです」

「‥‥‥」


ルチアの質問に答えた静香は、二人に背を向けると先に歩きだした。

翔とルチアは互いに見合って、とりあえず会いにこうと決めて、無言で頷くと二人は静香のあとに続いていった。


二人の夜は、まだまだ続くのだった――――――。 
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