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業は消えて

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第三章


第三章

「それは私も同じことです」
「住職さんもですか」
「私はですね。最初からこのお寺の住職をしていたわけではないのですよ」
 穏やかな顔で語るがその目は遠くを見ていた。まるで己の過去を見るかの様に。
「最初は。不動産をやっていましてね」
「不動産ですか」
「表向きはそうですが実際は地上げ屋でした。散々悪いことをしました」
 彼もまたそうだったのだ。過去があったのである。
「闇金も一緒にやってきましたからね」
「そんな過去があったんですか」
「多くの人の恨みを買いました」
 住職は彼にこのことを告白したのだった。
「それで後ろから刺されましてね」
「そうですか。後ろからですか」
「犯人はまだわかっていません。ただ」
「ただ?」
「それで何日も死線を彷徨って何とか助かってからもずっと床の上にあってそこで考えたのです」
 その時にだというのである。
「自分が過去してきたことと。これは報いではないのかと」
「報いですか」
「はい、報いです」
 それだというのである。
「その結果が今ではないのかと」
「そういうふうに考えられたのですか」
「それで悔い改めました」
 そうしてだというのである。その結果として。
「今に至ります」
「そういうことがあったのですね」
「今となっては恥ずかしい限りです」
 遠くを見る目であった。その目で彼に対して語るのであった。
「ああしたことをしてしまって」
「過去があったのですね」
「そしてそれは貴方のですね」
「はい」
 彼もまた告白することになった。やはり遠くを見る目になってそのうえで、であった。
「その通りです。昔はその筋で大親分なんて呼ばれていました」
「貴方もですか。やはりそうだったのですね」
「わかられるのですか」
「感じで」
 それでわかるというのである。今の彼は。
「わかりました。それでよく」
「そうでしたか。感じで、ですか」
「貴方も私も同じです。過去に業がありそれをきっかけで知るようになって」
「そうですね。確かに同じですね」
 彼はここでも住職の言葉に頷いた。頷いてそのうえで述べるのであった。
「わしと住職さんは」
「過去の業を払って」
 住職の言葉は続く。
「そのうえでこれからの残り短い今の人生をいきたいものですね」
「そうしなければいけませんね」
 彼もまたその考えになっていた。今は。
「では」
「はい」
 お互い顔を見合わせて頷き合った。そうしてまた話すのだった。
 
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