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萌えろ!青春ポッキーズ!

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ツンデレ

 
前書き
毎週月曜日に現れる奇妙な客。その子に近づいてみたくなった矢先に――― 

 
1、
「――へえ、君バイトしてたの?」
「ああ、学費稼がないといけないからさ」
 俺は弁当と水筒を机に出しながら言った。質問をした男子は、今日も購買部で買ったサンドイッチと紅茶だ。
「実家が遠いのは知ってたけど……片道二時間強だっけ?」
 俺は頷く。寮に入れればよかったのだが、そんな余裕はない。こちとら奨学金で通っている身である。
「それで、バイト先に妙な客がいる、と」
手を汚さずにサンドイッチの包みを剥がすことに成功した友人は、楽しそうな目で俺を見た。無意識に目をそらしてしまったのは、その客が俺と同じくらいの歳の女の子だとばれると厄介だったからだ。
毎週月曜日、その女の子は妙な格好で店にやって来る。茶色ベースのアニメTシャツにベージュのパンツ、茶色っぽいサンダル。ファッションに疎い俺もこれはセンスがないって分かった。
その子は、無表情で俺の前を通り過ぎる。本日発売の棚から週刊少年誌を抜きだしこのときばかりは無表情を崩し、楽しげな顔つきで読みふけるのだ。
そして、目当てと思われる漫画をすべて読み終えてしまうと、そのままお菓子コーナーに行ってポッキーをひと箱手に取る。
「これ」
ずいと前に出された箱を受け取って俺はバーコードを読み取る。
「168円です!」
彼女ははぴったり168円を払う。
百円玉、五十円玉、十円玉、五円玉を一枚ずつ。一円玉を三枚。
どうして、こんなに小銭があるのかは聞かないほうがいいのだろう。
「ありがとうございました!」
毎週このやりとり。覚えるなという方が不可能である。
俺は彼女に「ポッキーちゃん」と勝手にあだ名をつけた。もちろん、そのことは目の前にいるこいつには伏せるけど。
「ふーん、確かに不思議なお客さんだね」
目をくりくりさせているやつのサンドイッチの具が少しはみ出る。それを器用に指ですくって舐めると周りの女子が静かに悲鳴をあげていた。
――ああ、そうだった。イケメンだったんだ、こいつ。
「まあ、そこまで気にしてるわけじゃないんだけどな」
 雑談のように締めくくると、イケメンが顔を覗き込んできた。そ、そんな目で俺を見るな、嘘だってばれるだろうが!ただでさえ顔に出やすいというのに!
 そんなわけで、高校一年の春。なんだか知らないが、ちょっと近づいてみたい女の子ができた。
 そんな矢先、だ。




「―――会いたいな」
 呟いた声は静まりかえった寮の一室によく響いた。テキストを睨んでいた俺は声の主を見て、ずいずいと寄らずにはいられなかった。
「なになにー?」「恋バナか、恋の話か!」
 それは隣のイケメンも同じだったようで俺たちは声の主に思いきり近づいた。
「恋バナと言えば恋バナだけど………まず君はやりなよ」
俺の方を向いて呆れたように言う。
――ちぇっ、どうせ俺は課題真っ白ですよ。
 夏休み。来週帰省する寮組に合わせて本日は勉強会だ。
「じゃ、僕は問題ないよね?」
 この間騒がれていたイケメンはにっこりと微笑んだ。
「―――――そうだね」
 会いたいなと爆弾を落とした本人は、イケメンスマイルに顔が引きつっている。まあ、そりゃあそうだろう。
なんせ相手は入学以来学年トップを譲ってないやつだ。宿題なんて鼻歌まじりでできるんだろうし、だったら続きを話してもらう余裕もあるんだろう。
かくいう俺は、毎回ギリギリ上のクラスにしがみついているレベルだ。トップなんてとんでもない。
「ねえ、会いたいな、って。誰?」
 笑顔を崩さずに尋ねる。黒髪が面白そうに揺れた。
「――答える必要を感じません」
無表情を崩さずになおも答えを言い渋る。茶髪が面倒くさそうに揺れた。
「ということは恋バナなんだね、了解」
悪戯っぽく目をクルリとさせて綺麗な黒髪をかきあげる。
「どんな子?かわいい?」
「どうして女子だって確定してるのさ」
「え、だって君はホモじゃないだろ?」
 始まった修学旅行ネタ。俺はくぎを刺されてしまったので大人しく課題に戻った。
 もはやイケメンを凌駕するほどの残念さを発揮しているやつの言葉を聞いていたら、茶髪の方が諦めたのか情報を追加してきた。
「美人で、ファッションセンスは皆無。出かけるときは兄さんにコーディネートしてもらってる」
 へぇえ、ファッションセンス皆無か。俺の頭の中には自然とポッキーちゃんが思い浮かんでいた。茶色一色でまとめたあの格好。 ――いかんいかん、課題に集中…………分かるか、こんな問題。
集中力がかけらもない俺は、諦めて恋バナに加わることにした。
「なあ、その子がファッションセンス皆無って、どれくらいだよ」
軽く睨まれたのでひらひらと白紙の問題集をふってみせた。
 茶色い髪を揺らして溜息をつくと、俺の質問に答えてくれた。
「茶髪のポニーテールにアニメの茶色いTシャツ。ここまではいいとしてもズボン、サンダルも茶色」
 ―――――あれ?
「ポニーテール、茶色――――ポッキーちゃん!?」
 いや、まさかな。そんな偶然あるわけない。ないない、他人の空似だ。
「あ、そういえば。毎週少年誌を読みにコンビニ通ってるって言ってたな。まったく、菓子ひと箱で三十分も粘られちゃ迷惑だからやめろって言ってるのに………」
 ――――決定打きちゃったぁ………
 どういうことだ。俺が気になってる子がこの大人しい奴の幼馴染みって!こんなハプニングいらないよ!?なんで俺の人生をもっと平穏無事にしてくれないのさ、もう夏休みの課題が終わらないのも神様のせいにしたくなるよ!
「ねえ、どうしたの?」
 俺はイケメンが肩を揺さぶっているのにも応じず、考え込んだ。
「え、なになに?」
茶髪が寄ってきたらしいけどそれどころじゃない
 たぶん、俺の顔は酷いことになってるんだろう。心なしか周りの温度が下がった気がするし冷や汗が止まらない。
「ただでさえ性能が悪いのに、暑さのせいでその脳みそ溶けちゃったの?返事してよ、ねえ」
あれ、今結構ひどいことを言われた気がする………
「君がいなかったら僕は、僕は―――――このからかいたくなる気持ちをこっちにぶつけなきゃいけなくなるんだよ!」
イケメンがきょとんとしている茶髪の方を指差した。次の瞬間、俺の腹に強い衝撃。
「ぐふぉっ!?」
 目が覚めた。ていうか我に返った。
横を見たら、殴った犯人とイケメンは黙って握手を交わしていた。
「―――っ、てめえら………!」
どういうことだ、人の腹にパンチいれておいて、という俺の言葉は双方から伸びてきた手によって封じ込められた。
「ねえねえ、なんで固まってたの。まさか本当に脳みそ溶けたわけじゃないよね」
「溶けたわけではなさそうだよ、そもそも溶けるほどの脳みそがこいつに詰まってるとも思えないし」
 おいこら、確かに学年2トップのやつらに比べたら俺の脳みその性能なんてたかがしれてるよ!だがしかし、言いすぎだコノヤロー!
「フリーズしながらぶつぶつなんか言ってたよね。あれなに?」
「呪いでもかける気かな、そんなもの僕らで跳ね返せるのに」
 そんなことはしない!だって絶対効かないじゃん、特にイケメンの方!
最後に二人は、
「で。なんで君はそんなに暴れているの?」と同時に言ってパッと手を離した。俺は解放された瞬間、大きく息を吸い込んだ。
「てめえら!人が黙ってたら言いたい放題言いやがって!俺がフリーズしたのは脳みそ溶けたわけじゃねえし、性能に異常があったわけでもねえよ!」
「じゃあ、なんだったの?」大人しい方が首を傾げて尋ねる。
「―――なんでもねえよっ!」俺はぷいっと顔を背ける。
その女の子知ってますなんて言えない。ましてその子が気になっているんですなんて言えるわけがない。
――しかし……
「なあ、その子俺がもらうっていったらどうする?」
俺は首を元に戻して聞いてみた。
「―――やっぱりこいつ壊れたよ。修理に出そう、コンビニ行こう」
 普通のテンションで言われて、俺は慌てた。
「待てよ!壊れてなんかないから!純粋に興味が湧いただけだから、お前に!」
――あれ、今俺なんて言った?
「そんな気持ち悪そうな目で俺を見るな!今の言い方には語弊があった!ただお前は本当にその幼馴染みが好きなのかって聞こうとしただけだ!」
 うん、そうそれ!興味があるのは目の前でゴミ虫を見るような目をしているこいつじゃなくて、こいつの幼馴染みであるポッキーちゃん(暫定)だ!
「今なんて言った?」
 目をゴミ虫から友達に向けるものに変えて、聞き返された。目に若干影っぽいものが含まれてるのは気のせいだろうか。
「だから、話を聞く限りお前はその幼馴染みを好いているように見える。そしてそんなようなことも言っている。でも本当のところはどうなんだろうなと思っただけだ」
「それ、僕も聞きたい。恋バナかと思ってたのにこいつが溶け出したせいですっかり話が逸れてたから」
 のそのそやって来たイケメンが俺の上にのっかった―――のっかった!?
「重い、お前男子にしては軽いんだろうけど俺の軽い頭で支えられる重さじゃな――ぎゃああ!」
 俺が床を叩いてギブアップを求めている間、イケメンは俺の代わりに答えを促していた。
「―――ねえ、どうなの?」
 イケメンは俺の上でニンマリと笑った、んだろうな。ここからじゃ見えない。
「そもそも質問の意図が分からない」きょとんとした顔で言われて言葉が出ない。
 ―――こいつ、たまに本気でわざとじゃないかと思うときがあるんだが。
 めんどくせえな、と俺は頭を掻きむしる。
「じゃあたとえ話!俺がもしその子を好きになってもうアタックを始めたらどうする!」
少し間が開いた後、ポン、と手をうった。あ、今ので分かった。間違いない。
 ―――こいつ素でこんな感じだ………!
「――彼女の意見を尊重、かな」
 ―――――は?
「え、なにがなんでも彼女を自分のものに!じゃないの?」
 俺の中で生まれた疑問をイケメンが先に口に出した。
「ぐほぁ!」頼むから……身を乗り出すな。
「え、だって―――彼女が君の方を好きになっちゃったらしょうがないじゃない?」
 またまたやってきたすっとぼけたような答え。この、天然がっ!
「はいそれ!それですよ」
俺はイケメンの下から這い出して解説を始めた。
「そんな弱気の発言が『こいつ、本当にその子のこと好きなのかな?』なんて思われる材料になっちまうんですよ、分かりますかぁ!?」
「―――もう一回潰して」
▽大人しい奴が、反撃に出た。
▽イケメンの、のしかかる攻撃。
▽俺に十のダメージ。
「―――いやほんとにシャレにならんからやめてくれ……」
「でも、それは僕も気になるな」
イケメンはいつのまにか真面目な顔になって天然の方を見ていた。俺を押しつぶしてなきゃ本当にいいタイミングなんだけどなお前―――
「君、本当にその子のことが好きなの?幼馴染み=好きな人って勘違いしてるだけじゃなくて?」
 俺がイケメンに押しつぶされるまでの間、そいつは考え込んでいた。
そして―――
「分からない。から、今度確かめてみる。ので、次回にご期待ください」
「ええ―――」
俺は脱力して床に倒れ伏した。
「それって確かめるものなのかよー」
また考え込んでしまった天然に言うが、聞こえてないらしい。
「ねえ、十秒以内に転がるのやめないと教えてあげないよ。僕が教えなかったら次の試験でついに君もAクラスに落ちるかもね」
 ――人には条件反射というものがある。
俺は瞬間的に起き上がって「夏休みの友」を開いた。
 
 

 
後書き
初投稿です!まだうまく使いこなせてませんがよろしくおねがいします 
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