アラガミになった訳だが……どうしよう
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
派遣社員になった訳だが……どうしよう
13話
はっきり言って、かなりマズい。
いや、正直ウロヴォロスとやり合った方がまだマシだったろうよ。幸い、向こうは気づいていないようなので、全力で逃げたいんだが………万が一あれが起きることになれば、確実に死ぬ。故に足音を立てぬよう細心の注意を払って、ゆっくりとかつ確実に後ろに下がる。
全くもって最悪極まりない状況だ。
遭難だけでも面倒だというのに、ようやく吹雪を抜けたと思ったら目の前にこいつがいやがった。確かにここはゴッドイーターどころか、アラガミもいない土地だとは調査して分かった。だがな、なんでそれが分かった直後にキュウビと出会わにゃならんのだ!!
遡ること三日前、ロシアの滞在期間も半分を越えて調査していない地域も北極圏近くだけとなり、幾分気持ちも軽くなってきた頃だ。特に何をするでもなく、カナメから送られた日本茶を啜りながら窓の外を眺めていると、サカキから電話かがきた。内容は欧州の方の支部が西部の調査を終えてから、それに調子に乗って北部の調査を自分達がやると言い出したらしい。途中までは何の問題もなかったのだが、ある地域に入ると猛烈な吹雪に阻まれそれ以上進めなかった。その後、強引にそこを突き進んだゴッドイーター達から新種のアラガミを見つけた報告と、調査に向かったゴッドイーターの全滅が本部に報告されたとの事だ。
で、欧州は精鋭の全滅ということもあり調査は断念、予定通り俺が行くことになったんだが、新種のアラガミの調査も可能ならば調査するようにとのお達しだ。恐らく、その新種とはヴァジュラの変異種であるプリティヴィ・マータあたりだろうと踏んだ。まだまだ原作には時間があるとはいえ、突然変異的に何匹かはいるだろうし、今現在のゴッドイーターはヴァジュラに苦戦するような状態なのだからな。全滅というのも死んだ奴らには悪いが、ある意味では仕方ないのだろう。
俺はいつも通りカバンと目立たないように着ているコートを持って、その部隊が全滅と言われる地域から調査することにした。幸い、天候は快晴ということもあり移動には困らずこの調子で進めれば二日、吹雪にあっても三日程度で着くだろうと踏んだ。
事実、二度ほど吹雪に遭遇したが目的地には二日目の昼頃には到着し、周囲の調査は開始できた。そこで分かったのだが、新種のアラガミとは随分と強大らしく周囲に散らばっていた神機の破片には、防御用の装甲が砕け散った破片が混じっていた。その段階で引き返しておくべきだと後悔しているのだが、その時は少々欧州のゴッドイーター達を侮り過ぎていたこともあり、彼らの技術に問題があったと考えていたのだ。
いや、それもあったんだろうが、相手がキュウビだったなど誰が想像できるだろうか?その時の俺はどんなに強くてのウロヴォロスが限界だろうと考えていたのだから、まさしく想定外もいいところじゃないか?
それは置いておいて、破片を発見した後、俺は神機の破片やらの写真を撮ってデータをサカキに送ってから、地面に残っていた獣のような足跡を辿って北へ向かった。
で、とんでもない吹雪にあってようやく抜けたと思ったら、最強クラスのアラガミであるキュウビがいやがった訳だ。
ウロヴォロスの時のように逃げられる相手でもなければ、反撃できる相手でもない。下手をすれば初撃で消し飛ばされかねないレベルの火力の持ち主だ、ウロヴォロスと違って進化という概念がないアラガミであるキュウビは、ゲーム通りの能力を持っているのだろう。
一応、上位種であるマガツキュウビもいるのだが………あの時期は色々あったので、それの影響を受けての突然変異したキュウビのような存在だろうから、一概に進化とは言えんな。そんな事はどうでもいいんだ、こちらから手を出さなければなにもしない筈だろうし早いところ退散させてもらおう。
それにこの事をサカキに伝えて、絶対にここに誰も近寄らせないようフェンリルに警告しなければ、下手をすれば現時点のフェンリル程度ならば潰されかねんぞ。原作開始前に人類終了など洒落にもならん、絶対にそれだけは避けさせれもらおう。
だが、もう少し俺は自分の経験則というものを把握しておくべきなのだ、大抵こういう場合はロクでもない方へ事態は悪化するのだ。ウロヴォロスの時やヴァジュラの時も来ないと思えば来たし、雷を警戒したら直撃を喰らう羽目になったりと、大抵最悪のパターンに突き進むのが基本だった。
言うまでもなく、この時もそうだった。
キュウビがむくりと起き上がった。
そして、こちらをジッと見てきた。
背中の圧縮空気でどれだけ逃げ切れるが知らんが、縄張りを出れば向こうから手出しはしないだろう。というか、そう信じるしか他にない。
俺は冷や汗を垂らしながら下がっているのだが、どうやら向こうはこちらに敵意がない事は分かっているらしく、向こうに行けというように耳を動かしてから、猫のように丸まって再び眠りについた。
よし!!さっさと帰らせてもらうぞ!!
二度と来てたまるか!!
さて、ここで人生でタメになる話をしよう。人生、調子にのった後は大抵酷い目に合うんだ………俺みたいに。
俺が即座に回れ右をして全速力で元来たし道を戻ろうとした瞬間、後ろで雷の落ちる音が聞こえた。正直、背筋が凍るとかそんな話じゃなかった。
後ろを恐る恐る振り返ると、俺とは違う方向から来たらしいヴァジュラの群れがキュウビに攻撃しやがっていた。そして、明らか不機嫌そうな唸り声を上げるキュウビの姿を視線の端に捉えた瞬間、全速力でその場から逃げようとした。が、それよりも僅かに速くキュウビの尾から無数の閃光を放ち、馬鹿なヴァジュラの群れ諸共に僅かに前に踏み出すのが遅れた俺の右足が消し飛ばされた。
放たれた閃光の一発一発がヴァジュラ一匹消して有り余る威力、それが雨霰と降ってきたんだ。右足一歩で済んだのは間違いなく幸運だろうし、アラガミの体においては手足を失うということは大した問題ではない。損失箇所の分だけオラクル細胞が無くなるのは痛手だが、生きてさえいれば幾らでも治しようはある。
が、そんな事はどうでもいい。
とにかくこの場から離れなければ足だけではなく、全身消し飛ばされかねないんだ。治しようがあるなど気休めにもならない、今治せなければ俺の移動速度が下がる事には変わりないのだから!!
両腕をサリエルに変化させて宙を移動することで多少はマシだが、それでも走った方が速い事には変わりない。
しかも、どうやらキュウビの怒りは相当なものらしき、先程の閃光の第二射が放たれたらしく周囲がクレーターまみれになっている。こちらに一発来たが右腕を今現在俺の持てる最高硬度の盾である、全身鎧の蠍であるボルグ・カムランの盾に変化させて防ぐ。
結果として防げはしたもの、右腕は肘から先が無くなった。お陰で右半身マトモに使えなくなり、雪に埋れて立ち上がることもままならん状況になってしまった。
ウロヴォロスの時とは違い、こちらには反撃する手などどう足掻いてもない。そして、向こうは疲れどころかただ邪魔な物をどける程度気軽さでこれだけ被害を出したんだ。勝ち負け以前に戦いにすらなっていないし、逃走すらままならないというザマなのだ。
だが、それでも諦めるという選択肢だけは取らない、いや、取りたくない。死ぬことは仕方ないだろう、こんな世界だ命なんて簡単に消える。
でもな、"ただ"死ぬのだけは真っ平ゴメンだ、どんなに無様でも足掻けるだけ足掻いて結果として死なせて貰おう。
空も飛べず、大地を蹴って駆けることができなくても、地を這う事はできる。
左腕と左脚はまだ動く、生きたいという意思もある、それだけあれば何の問題もない。幸いというべきか埋まっているお陰で、キュウビからは見えていないらしく追撃はこないようだ。その間に地面を這いながらなんとか神機の破片が転がっていた場所まで逃げられた、幸い吹雪は止んだらしく時間こそかかったものの迷うこともなかった。
以前腕を潰された時とは違い、オラクル細胞の総量はかなり増えているので、消し飛んだ手足は簡単な戦闘に耐えられる程度まではアラガミを喰わずとも治せる。オラクル細胞の量は消えた手足の分が減っていることには変わりないのだが、その辺りは神機の破片を喰って多少はオラクル細胞は補充できるだろう。それにキュウビが暴れたせいで周辺のアラガミは何処かに逃げたようだし、体を修復する程度の時間はあるだろうしな。
それにしても、ここまでのダメージは本当に久し振りだ。三年、いや四年前にヴァジュラやウロヴォロス以来苦戦などなかったし、傷自体負うことが減っていたからな。だが、これは悪くない感覚だ、理不尽に挑み、不条理に背く………まだまだ上はあるのだ。そうとも、この敗北にすら至れなかったこのザマを糧に俺は上に登らせてもらおう、次は負けない、その意思があれば人は幾らでも強くなれるのだから。
その為にも今は体を癒し、牙を研ぐとしよう。次の戦いの為に、次の次の戦いの為にも……
ページ上へ戻る