ロックマンX~朱の戦士~
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第二十五話 恋慕
前書き
第17番精鋭部隊の副隊長として復帰したルイン。
ハンターベースのトレーニングルームでエックスとルインがサーベルとセイバーをぶつけ合っていた。
エックスはハンターベースの量産型レプリロイドが使用するバッテリー内蔵型の低出力ビームサーベルを使用している。
ルインもセイバーの出力をエックスのビームサーベルと同等くらいにまで下げている。
エックス「はっ!!」
ルイン「くっ!!」
サーベルによる鋭い突き。
ルインはセイバーで上手くいなしながら懐に入ると袈裟斬りする。
エックスは跳躍してかわし、バスターでルインを牽制すると、床に着地する。
ルイン「ふう…」
エックス「どうだ?少しは調子が戻ったか?」
ルイン「うん、でもまだまだ前のようには動けないや」
エックス「それは仕方ないさ、数年間機能停止していたんだからな。身体が鈍って当然さ」
ルイン「ありがと、エックス。私は少し休憩したら部屋に戻るからソニアにエネルゲン水晶かご飯よろしく」
エックス「分かった」
そう言うとエックスはビームサーベルを返却するとトレーニングルームを後にする。
ルインはトレーニングルームに持参したライフボトル(敵とかが落とすライフ回復アイテム)のストローを口に含み、中身を一口飲んだ。
ちなみにライフボトルは蜂蜜レモン味であった。
ディザイア「ルイン副隊長、休憩中に失礼します」
ルイン「ディザイア?」
ルインは振り返ると、ライフボトルを飲むのを止めて珍しい来訪者を出迎える。
ディザイアは手に資料の束を持っていた。
ディザイア「資料をお届けに来ました。他の者がお忙しそうでしたので、私が代わりに…」
ディザイアは現在のハンターベースで貴重なA級ハンターのために隊長や副隊長のエックスやルインの次に多忙な職務に追われるディザイアは滅多にルインと会うことはない。
だが、たまにはルインの顔を見たい…。
その気持ちから、ディザイアは偶然廊下で会ったハンターに頼んで、資料を届ける役目を買って出たのだ。
ルイン「ありがとう。ごめんね、ディザイアも忙しいのに面倒かけちゃって……」
ルインが資料を受け取りながら言うと、ディザイアは気にするなと言いたげに手を振る。
ディザイア「いえ、お気になさらないでください。部隊の運用に必要なものですし、副隊長が喜んでくれれば私も嬉しいですから」
ルイン「優しいだね。ありがとう」
ルインは微笑んだ。
それを見たディザイアはその笑顔に胸が高鳴る。
彼はルインに恋をしていた。
ディザイアが知る特A級ハンターは傲慢で部下をゴミのように見る者ばかりだった。
だが、ルインは違った。
明るく、気立てが良く、常に笑顔を絶やさない、花のような可憐な女性。
だが訓練の時は非常に厳しく、部下達の泣き言は一切許さないが、それは立場上仕方の無いことだ。
公私混同しないところも彼が惹かれるところだ。
ルインは、ディザイアが今まで特A級ハンターに抱いていた暗いイメージを払拭した。
ルインに対して感じている感情が恋愛感情というものだと、彼が自覚するのにそう時間はかからなかった。
ディザイア「(しかし彼女は特A級ハンターで、副隊長の身分。それから最初の大戦で多くの戦果をあげた方だ)」
ただのA級ハンターで戦果も並の自分ではあまりにも不釣り合いすぎる。
だが、ルインを見つめ、会話を重ねていくうちに、次第に彼女への恋慕も強くなっていく。
ディザイアはルインがもっと明るく笑える日が早く来るように頑張りたいと、サーベルを振るい続けている。
ディザイア「リハビリの方は順調ですか?」
ルイン「ん、まあまあかな?前に比べればまだまだだけどね……」
ディザイア「あれでまだまだ…?」
ディザイアの目にはルインとエックスの実力は拮抗していたように見える。
ルイン「まだまだ全然駄目だよ。以前のようにはまだ動けない。エックスが本気になってないから互角に見えてるだけ」
事実、自分は休憩をしなければならないのにエックスは休憩なしで仕事に戻った。
今のエックスと自分の実力差を思い知らされる。
ディザイア「…ですが、徐々に勘を取り戻してきているのでしょう?」
ルイン「え?」
ディザイア「大丈夫ですよ副隊長なら、私はあなたを信じていますから…」
ディザイアがルインに笑みを見せる。
それはルインにしか見せない彼の素の笑顔。
ルイン「君は本当に優しいね…ありがとう……そろそろ部屋に戻るよ。仕事があるし、ソニアとエックスも待たせてるからね」
ディザイア「ソニア…あのサイバーエルフですか」
彼が初めてソニアを見た時、あの子はまだ赤ん坊だった。
現在では可愛らしい容姿のためにハンターベースの…主に女性型レプリロイドのマスコットとなっていた。
現在はルインと共に出撃し、彼女のパートナーとして戦っている。
しかしディザイアは常々疑問を感じていた。
傷を癒したり(ライフエネルギーばらまき能力のこと)することが出来たり、あんな小さい身体だと言うのに穴に落ちかけた重量級のレプリロイドを軽々と引き上げたり、火炎弾や電撃弾、凍結弾の嵐をイレギュラーに見舞う。
目下、特殊0部隊隊長のゼロと並んでパワーファイターではなかろうかとイレギュラーハンター達の間で囁かれている。
ルイン「う~ん、まあソニアは少しお転婆だからねえ」
あの戦いぶりをお転婆で済ませられるのは多分エックスとルインくらいしかいないだろうが。ふと、ディザイアが床を見ると1枚の紙切れが落ちていた。
それに気づいたルインは、ディザイアの視線を追うと慌てて拾う。
よく見ると紙切れは写真だったようだ。
写真には、エックスとルインが並び、中央にソニアが写っている。
ディザイア「写真ですか」
ルイン「うん。ケイン博士が撮ってくれたの、家族写真」
ルインは写真を見つめながら穏やかに告げた。
写真の中のルインは明るく微笑んでいる。
ディザイア「副隊長…」
ルイン「何?」
ディザイア「あなたは……その、エックス隊長のこと、お好きなんですか?」
ディザイアは思い切って、ストレートに聞いてみた。
ルインのようなタイプには遠回しに聞くよりもストレートに聞いた方がいいと判断したからだ。
ルイン「…う~ん…エックスは私の憧れの人…かな…?」
ディザイア「憧れ…?」
ルイン「うん、ハンターになった時から…ね」
ルインの言葉の意味が分からないディザイアは首を傾げた。
ルインがエックスより後にハンターになったのは知っているが、当時のエックスはB級でルインは特A級。
ランクは当然彼女の方が格上で実力とて同じ。
ルインがエックスに憧れる要素など何処にも無いはずだ。
ルイン「エックスはね…心が強い人なの。どんなに苦しい時もどんなに悲しい時もどんなに悩んでいる時も最後の最後には必ず乗り越えてしまう人…私はそんなエックスに憧れてるんだ。異性として好きかどうかはまだ分かんないや、でもエックスと一緒にいれば不思議と安心出来て、幸せな気持ちになれるんだ」
ディザイア「(…それが“愛”という感情なんですよルインさん)」
ディザイアは、ルインとエックスを見ると互いが好意を抱いているのではないかと察していた。
この返答は予想していたものの、いざ本人の口から言われると、とても辛くて悲しかった。
内面の辛さを顔に出さないよう、あえて笑おうとする。
ディザイアの胸中など知らないルインは、照れた表情をしながら、写真に視線を戻した。
ディザイア「何となく…」
ルイン「え…?」
ディザイア「何となくあなたの気持ちが分かる気がします。私も同じですから…」
ルイン「君、好きな人がいるの?」
ルインは興味津々といった様子でディザイアに聞いてくる。
第17番精鋭部隊副隊長であり、特A級ハンターとはいえ、こういったところはやっぱり十代後半くらいの年頃の娘である。
ディザイア「あ…はい……」
彼なりに遠まわしに想いを伝えたつもりだったのだが、ルインには伝わらなかったようである。
ルインがディザイアを異性としてそういう対象として見ていないのだから、仕方のないことではあるが。
ルイン「ねえねえ、君が好きな人って誰?」
ルインが目を輝かせて、ディザイアの顔を見上げてくる。
ディザイア「そ、それは……」
こんなに近くで彼女を見たのは初めてだったので、ディザイアは動揺する。
ディザイア「わ、私の好きな人は……」
目の前にいるあなたですと、彼は言おうとした。
だが…。
ディザイア「……黙秘させて頂きます」
恥ずかしくて土壇場で言えなかった。
ルイン「え~?」
ルインは頬を膨らませて怒ってみせる。
ディザイア「す、すみません………」
困った顔をするディザイアがおかしいのか、ルインはクスリと笑う。
ルイン「まあいいや。話してくれる気になったら教えてね?楽しみにしてるからね!!」
ディザイア「……はい。(ルインさん、すみません。今はまだ言えません。もっと強くなったら…あなたの隣に立てるようになったらその時は必ず言います。ルインさん、私はあなたを愛しています…と。)では、私はそろそろ戻ります。ルイン副隊長も頑張ってください」
ルイン「ありがとう。君もあまり無茶はしないでね?ゼロみたいに無鉄砲じゃないから大丈夫とは思うけどね」
ディザイア「はい」
彼は柔らかく笑うと、身を翻す。
ルイン「これからも頑張ってね、ディザイア」
肩越しに見ると、ルインが笑顔で見送っている。
それに応えるように会釈して、部屋から出て行った。
ディザイア「(見ていてください、ルインさん。私はあなたを必ず守れるくらいに強くなってみせます。そしてあなたが幸せに暮らせる世界を築いてみせます)」
ディザイアはサーベルを握り締め、心に固く誓った。
全ては愛する人のために。
後書き
ディザイアはロクゼロのエルピス的立ち位置です。
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