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新米提督お仕事日記

作者:ぜおぅ
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よん。

 
前書き
新米提督が着任しました。
敵艦のデザインに興味津々。 

 
「うーわ。なにあれキモい。キモいっていうかキショい。煮ても焼いても美味しくなさそう」
 なんだあれ。あれが敵? あんなのが敵? エイリアンとかそういうの?
 ───ヨコスカ鎮守府『正面軍港』。
 私は電ちゃんに連れられて、太平洋側に開けた大きな港へと訪れていた。何に使うのか知る由もないありとあらゆる機材や装置、施設などが散見されるが、肝心の『軍艦』が一隻も存在しないのが気になる。というか島の反対側がこんなになっていたとは。私が頑張って歩いた山道からは想像できないほど人の手が入っててビックリ。下宿と思っていたあの建物そのものが鎮守府とか言われて二度ビックリ。
「……本当に何も知らされていないのですか」
 100キロ先の米粒でも見逃さないハイテク双眼鏡を覗く私の横で、電ちゃんが苦々しく呟いた。私の視界には、なんかもう、いっそ清々しささえ感じるゲテモノデザインの敵艦が数機。
「深海棲艦」
 双眼鏡から目を離し、彼女の言葉に耳を傾ける。
「もう何百年も前から存在している敵だと聞きます。ただ、昔はそこまで出現頻度は高くなかったらしいのですが」
「なによそのオカルトみたいな話。何百年って、何次大戦前?」
「少なくとも第二次後から、という情報なのです」
「ふーん。で、そういうのはいいから説明してくれない? どこの国の艦隊なのあれ。というか、海軍なんて世界中どこ探したってない筈なのに」
「知られていないだけで、世界中の国々に海軍は今も存在しています。この世界に存在を許されないのは実質空軍のみですね。ちなみにアレら深海棲艦はどこの国にも属していません。見境なく攻撃しては人間を食い尽くします」
「わーおメルヘン。海賊なんだか怪獣なんだか」
 なんだか色んな情報が一気に出てきて困るなぁ。海軍が秘密裏に存在してるとか、空軍がどうのとか、このシンカイなんちゃらいう敵だとか。まぁ海軍に所属しちゃった自分が既にオカルト圏内に居る現状、これまた困った事に現実なんだろうなぁ。
「それで、どうするんです?」
 落ち着いた様子で電ちゃんが訊いてくる。あ、これアレだな。試されてる感があるな。ちゃんと指示できるかどうか、とか。
「じゃーとりあえず電ちゃん」
「はい」
「あいつらとっちめよーか」
「………………」
「あ、ちょっとヤメテその目ヤメテ。考えてる、ちゃんと色々考えてるってばさ」
 なんとも言えない冷たい瞳に気圧される。全然信頼されてないのがまる分かりでちょっと切ないですよ?
「色々と現状を把握した上での発言なんだよ」
「説明してもらえますか?」
「ようしよく聞いてね電ちゃん。まず敵が来てるのは間違いないワケだ。不可解だけど、あの警報は冗談で鳴らしていいものじゃない。で、電ちゃんは真っ先に自分が出撃しようと行動した。という事は君はあの敵をどうにかできる手段、方法を持っている、または知っていると推測できる」
「それで?」
「それで、だね。ええと───」
 そこから先が考えられない。敵艦を見るに、一隻一隻が全長100メートル程。それが数機迫ってきているのだ。相対するにはそれと同等か、それ以上の戦力が必要になる筈。だが先に言ったようにこの港には『軍艦』が存在しない。更に付け加えれば、電ちゃんは私にこうも言った。『この鎮守府に軍人は私以外に居ない』と。あんなの相手に非武装でどうしろってんだ。説得か。説得なのか。
「まあ、そこまで考えられているのなら合格としましょう。司令官さんの考えている事は分かります。『戦う艦も乗組員も無いのに、どうやって敵に立ち向かうのか。対抗手段が考えもつかない』」
 語りながら、すたすたと埠頭──海へと向かって歩き出す。
「電ちゃん?」
「答えは簡単、単純明快。そのものずばり、電が単身、彼らをやっつけに行くだけなのです」
「はあぁ!?」
 彼女は言うだけ言ったとばかりに海に飛び込んだ。なにやってんだこの子。私はついてきてくれない思考を置いて泡を食って駆け寄り───

「技術はどこまでも“縮小”と“集約”に突き進みますよね」

 悠然と水上に直立する彼女の姿を見て、あんぐりと口を開いた。
「艦が海上に浮くなら人間だって浮きますし、艦が砲撃するのなら、人間だって砲撃できるのです」
「……あー、ええと」
 これっぽっちも理屈になってないし。
 ……ええい、この際どうでもいいわ。
「電ちゃんが言いたい事を要約すると、だ。
 君は一人で海上を進め、かつあのよく分からないエイリアンチックなオバケ共に勝利が可能と」
「そういう事になるのです」
「───ふむ」
 悪びれずに肯定される。……あ、訂正。戸惑ってる私見てこの子すんごい笑ってる。超笑顔。うわーくやしー。
「ま、それだけ分かれば十分かな」
 無理矢理に思考を詰める。事態はそれなりに切迫しているみたいだし、考え事は後回しだ。
「そんじゃー電ちゃん」
「はい」
「やっちめぇ」
「了解なのです」
 習いたての『海軍式』敬礼で見送る。電ちゃんは自信に満ちた表情で敬礼を返してから、とんでもない速度で水面上をぶっ飛んで行った。なにあれ。レーシングカーも真っ青の超加速なんだけど。
「まー、勝つでしょあの子なら」
 だってあのバケモノ共より電ちゃんの方が百倍おっかないし。
 ……とりあえず、資料ちゃんと読み込んでこよう。
 
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