絶望と人を喰らう者
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第三話 二
それから数時間後。
結月の体力がある程度回復し、天羅達はデセスポワールの居ない安全な街ティアティラに戻る為、家屋から出てから行動していた。
自分達が居た地点から、二時間程歩けば目的の場所に着く為、天羅達は生きて帰る為にこれまで以上に警戒心を強めて歩く。
あともう少しで着く。っという、気の緩みが死を招く事があるから、そんな油断を生まない為にも警戒心を強めるのだ。
銃を構えながら荒廃した道をクリアリングする前衛の天羅と他傭兵三名。
後衛は結月とナナシ、アリス、女性兵士の藍川が担当していた。
「待て」
天羅は前方で何かが横切った影を見て、全員に待機命令を出す。
それから、軽機関銃を持っている傭兵の村野に付いてこいと命令し、二人で先程の影が通った場所を確認する為ゆっくり移動する。
天羅が傭兵達に命令出来るのは、事前に結月から許可を貰っての事、傭兵達も天羅ならっと快諾した。そのおかげで、彼は部隊行動がやりやすくなっている。
「クリア」
「クリア!」
二人で影が通った建物と建物の間にある小さな道を見るも、そこには誰も居なかった。
訝しく思うも天羅は安全が確認出来ると、手招きして後続に集まるよう合図する。
「おっかしいなぁ、何か居たと思ったんだけどな」
村野は頭を掻いて不思議そうに思う。
「あぁ、しかし警戒を緩めない方がいいぞ、大方地面からデセスポワールが奇襲したりするかもしれないしな」
「天羅さん想像力豊かっすね、でも、ありそうだから恐いぜ」
「一度体験したからな」
「マジかよ……」
村野は身震いすると、目を地面の方へやった。
どうも天羅の言葉は嘘臭く感じず、もしかして今にも現れるのではないか? っと思ったからだ。
「取り敢えず移動を再開するか」
天羅はそう言うと、再び行動を再開しようと右足を一歩前へ出したその瞬間。
突然、発砲音が鳴り響いた。
天羅の頬に銃弾が掠め、肉を貫くような音が彼の隣で聞こえた。
「村野!」
彼は隣で撃たれた村野を見る。
村野は眉間に穴が開かれており、そこから血と脳漿を吹き出しながら軽機関銃を落として倒れる。
倒れた村野は何が起こったか全く分からないっというような、驚愕の表情で死んでいた。
「一体どこから撃たれた!?」
天羅は自分が警戒していた小道を見る。しかし、そこにはやはり誰も居ない。
背後も確認するが、崩れた建物群が見えるだけだった。
「きゃああああああ!!」
小豆の叫び声が聞こえ、天羅は振り向く。
すると、いきなり小豆の居た地面から穴が現れておりその穴から何かの手が飛び出し、彼女の足を捕まえて地面の中に引き摺りこんだ。
「ひっ……!」
小豆の近くに居たアリスは、恐怖で顔を青くして、結月の方へ小走りで近づき彼女の腰にしがみつく。
アリスが危険だと判断したナナシは、急いで人間からデセスポワールの形態に変身すると、聴覚になっている傘を広げる。
音を探知して敵の居場所を探る為だ。
「天羅、お前の近くに透明の敵が居るぞ、目の前だ」
「なんだと、了解だ!」
天羅は突撃銃を構えて、引き金を引き銃弾を発射口から飛ばす。天羅は見えない敵に一発でも当たるよう、扇状に弾をばら撒くよう撃ち続けた。
すると、ナナシが言っていた通り、肉を穿つ音が目の前から響き、唐突に胸を撃たれてのたうち回る軍服を着た人間が姿を現した。
「な…… 化物じゃなくて人だと?」
「お前らが呼称する『適合者』だろう、次が来るぞ、足下だ」
天羅はナナシの言葉を聞いて、すぐにバックステップして立っていた場所から素早く離れる。
彼が立っていた地面にボコッと穴が現れ、そこからモグラのような爪を持った血まみれの以前の死んだ人間と同じ軍服を着ている男が飛び出してきた。
だが、既に現れる事を察知していたナナシが素早く男に近づくや、尻尾の刃で首を飛ばした。
頭部の無くなった男だった肉体は空中から落下して真っ赤な液体を地面に撒き散らしながら倒れる。
「何故適合者がデセスポワールになってもいないのに俺達を襲うんだ!? それにこいつらが着ている服は、俺達と同じ軍服!?」
「集中しろ、二人だけじゃ無いようだ」
天羅達の目の前にはいつの間にか、複数の軍人が銃を構えてこちらへ近づいて来ており、全員が何故か殺気立っていた。
「クソッタレ、俺達は敵じゃない! お前達と同じ人間だ!」
彼は毒づきながらも、自分達に危害を加えないよう説得しようとする。
だが、相手は彼の言葉を無視し、全員引き金を引いて彼らに向けて一斉射撃をした。
「ぐっ」
「ナナシ!?」
天羅達を守るようにナナシが前に出て、傘を広げて甲殻のように固める。銃弾を防ぐ防波堤の役割を果たそうと立ち塞がった。
銃弾は彼に直撃し、ナナシは衝撃で少しだけ呻く。
「相手が何だかサッパリ分からないが、確実に俺達を殺そうとしているのは明確だ! 反撃しつつ後退するぞ!」
天羅は銃を構えて、相手が人間でも躊躇わずに引き金を引いた。
彼が撃った弾は敵の胴と頭に命中し、一人倒れる。しかし、一人倒したとしてもまだ敵の数は多く、仲間をやられた敵が今度は天羅へ狙いを定めて銃を撃つ。
天羅はその場からすぐに下がり、転がって回避行動するも、不運にも流れ弾が彼の左肩と右足に命中してしまう。
「ぐはっ!?」
「天羅大丈夫!?」
腰撃ちで身体を引き摺りながらも、何とか壊れている車を遮蔽物に、避難できた。
彼に遅れて急いで結月達も彼の下へ行く。
「怪我の具合はどう!?」
「いや、平気だ。致命傷では無い」
結月は血の気の引いた顔で彼を心配し、傷口を持っていた包帯で押さえる。
「あのデセスポワールのおかげで何とか逃げ切れたが、このままでは手榴弾を投げられて全滅しちまうぜ!」
新田は車から身体を出して敵に向かって銃を撃ちながら、天羅へ命令を促すように言った。
「仕方ない、一人ここに残って戦って敵を引き付ける。他はここから後退していき、敵の側面に回り込むんだ」
「よっし、じゃあ俺が……」
「いや、ここは怪我をしている俺が引き受けよう。命令権は結月へ渡すから彼女に従うんだ」
「えっ!? な、何を言ってるの!? 貴方怪我をしているじゃない! ここはまだ元気な私が引き受けるよ!」
「いや、駄目だ。おっと先に言っておくが、新田に藍川。お前らも駄目だからな。俺は足を撃たれてかなり動きに支障をきたしているからな…… お前らより俺の方が適任だ」
「だ、だって……」
結月が未だに彼に対して思いつめぐずっていると、天羅は彼女の肩に手を置く。
そして、結月を心配させないよう自信をたっぷりと含んだ不敵な笑みを彼女に見せて、口を開いた。
「大丈夫だ、俺は悪運が強いからな。さあ、早く行け! 作戦は始まってるぞ!」
彼はそう全員に激励すると、すぐに身体を車から出して銃をボンネット越しから構えて引き金を引く。
結月は拳を握って、自分のしないと行けない事を弁えると、そっと彼に耳打ちをした。
「天羅、必ず生きててね」
「あぁ、そっちも、それにアリス嬢ちゃんも気をつけろよ」
「うん、あまらもぜったい、ぜったいにしなないでね!」
「じゃあ、皆行くよ!」
「おう!」
「はい!」
全員、行動開始する準備が出来ると、その場は天羅へ任せて背を低くしながら後退した。
数分後。
彼らには地図等が無いが、今までここら都市みたいな一帯を歩いてきた土地勘みたいなものがあり、天羅達が戦っている場所から迂回できる場所等も把握している。
建物群のおかげで迂回をするのがバレない代わり、回り込むには少し距離を要するのが難点だが。
「敵が真正面から攻めて来ていて助かりましたね、迂回する時に敵が居るかと冷や冷やしましたよ」
「あいつら、良くも仲間を殺りやがって、絶対に俺が殺り返してやる!」
「えぇ、私達に銃を向けた事を後悔させてやるんだから」
結月達が行動しているその一方。
ナナシは彼らが居なくなった事で甲殻化を止めて、敵の銃弾の雨を掻い潜ると、敵の集団に突っ込んだ。
そして、彼は跳躍して前両足のブレードを使い、近くの二人の首を同時に掻っ切ると、尻尾の刃で三人目の胴を飛ばす。
「お前が例のデセスポワールか!? 司令官の言う通りだな!」
「司令官とはお前らのリーダーか?」
「ほう、喋るのか、ますます興味深い。お前ら、こいつを捕らえるぞ! 生死は問わないらしいから存分に弾を撃ち込んでやれ!」
「了解!」
兵士達はナナシに向かって銃を構え、躊躇わずに引き金を引く。
ナナシは敵の攻撃を素早く横にステップして回避すると、滑るように相手の懐に飛び込んで、一閃。
縦から裂かれた敵は左右にまるで魚の開きのようにして、倒れると地面に臓物や脳、大量の血液をぶちまけた。
「数が多いな」
ナナシは前方の敵に向かって突進し、切り裂く。そして、左右に居る敵も捌こうと動くが背後から兵士が現れ、一瞬だけどうしようか考えて固まってしまった。
後ろを取った兵士はナナシに向かって銃口を構え、引き金を引こうと指に力を入れる。
だが、突然彼の額から何か小さな穴が突然開き、そこから血と脳漿が溢れた。
彼の頭部を撃ち抜いたのは、天羅で、彼はナナシを援護する為に敵に狙いを定めて銃弾を放っており、ナナシは何とか敵の奇襲を受けずに済んだ。
「ナナシ、暴れるのは良いが少しは背後に気をつけろ!」
天羅が彼にそう注意をし、再びナナシへ狙いを構える兵士に向かって射撃。敵を倒す。
「もしかしたら、奴が暴れている間にもう全滅するかもな…… そうなってくれたら何より良いんだが……」
彼がそう願望を口にしながら銃のマガジンの交換をし、再び射撃態勢に入って狙いを定める。
その時、彼が兵士達の中にとある人物を見て、身体が凍った。
「おいおい、嘘だろ? 司令官…… だと?」
天羅が口を開けて呆然としていると、彼が見た司令官が天羅の方へ顔を向ける。
そして、ニヤリと笑うと、自分の側頭部に向かって銃の形の指を向けて、まるで銃を発砲したかのようにくいっと上げた。
「な、何だ? ハッ!?」
彼がいきなりの司令官の行動に戸惑っていると、突然背後に何かの気配を感じて、銃を構えながら素早く構える。
すると、目の前に右腕がナナシのようなブレードになっている兵士が既に剣を振っていて、敵は彼の銃を持った両腕を切り飛ばし、左手のピストルを構えて彼の頭を撃ち抜いた。
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