かけら
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きみを待つ
洗ってないカーテンと、ガタガタ鳴る窓を開ければ、頬を抓るような、つんとした風が入り込んでくる。
長袖越しでも唐突なその冷たさに身震いしつつ、空を仰いだ。眼下のごみごみした街並みなんて気にも止めずに、高く高く、澄んだ空は、ああ、あいつに似ている。
一瞬、そんなことを考えて我に返った。
ごまかすように煙草を取り出し火をつけたけれど、それでも脳裏に浮かぶのは、やはりあの少年だった。
そうだ、あいつと一緒にいたころは、あまり吸わないようにしていたんだ。大人びて見えるけどガキはガキだし、俺の吸った煙草なんかで、あいつの身体になにかあったらって思ったら、気が気じゃない。
それに、煙草の臭いなんて、あいつに染みつけたくはなかったから。
そういえば、あのくそ暑い夏を過ぎてから、この窓もほとんど閉めっぱなしだったっけ。
夏はずっと窓を開けていた。この部屋にクーラーなんて高等なもん、ついてないから。でも、それだけじゃなかった。いつでもあの少年が戻ってこられるようにと、どこかで望んでいたのかもしれない。
灰色のサッシをなぞってみた。指の先が、長年積もった埃に塗れた。親指で挟んで、それをぐにぐに揉み伸ばした。
いいや、確かにここにいた。あの少年は存在した。
黴臭いアパートの、埃塗れの窓枠に座って、俺に笑いかけていたんだ。
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