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無様な最期

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第六章


第六章

 そうした激しい攻撃が続き田中は一敗地に塗れた。これが彼の転落のはじまりであった。
 彼はその後その嘘や捏造が次々に暴かれ書籍でもテレビでも批判が殺到した。ネットでも散々に叩かれ最早大嘘つきになっていた。当然本は売れなくなりテレビにも出られなくなった。そして次にはゴーストライターに書かせていたことも発覚したのであった。
「ふざけるな、そんなことまでやっていたのか!」
「もう生きるのを止めろ!」 
 ネットでは爆発的な批判となった。そうして田中に過去襲われたことがあると告発する女性や詐欺で騙されていた者達が次々に名乗り出て裁判になり実刑判決を受けた。裁判費用や慰謝料、賠償金といったもので彼は完全に破産し家も何もかもを失い家族も去り遂には。
「あの患者はどうだ?」
「相変わらずですね」
 ある病院において。医師達が病院の廊下でこんな話をしていた。
「何も言えませんし動けません」
「そうか」
「何しろここが」
 その医師は話をしながら右手の人差し指で自分のこめかみのところを指し示しながら話した。
「もう駄目になっていますから」
「脳神経がもうズタズタになっていたな」
「ええ。心労で遂に」
「自業自得だけれどな」
 ここでこうした言葉も出て来た。
「それも」
「そうですね。けれど一生あのままですよ」
 彼は言った。
「もう。ずっとね」
「そうか。本人にその自覚はあるかな」
「ないでしょうね」 
 こうも話された。
「それはもう絶対に」
「そうか。やっぱりないか」
 その時田中は病院の廊下で車椅子に座っていた。目は虚ろになっていて何も見えはしていないかのようだった。口からはだらしなく涎を垂らし呆けていた。
 手も足も碌に動きはしない。右手が時折ピクリ、と動くだけになっていた。患者の服を着てそうして。そこに座っているだけであった。
「ああ、その患者だけれど」
「はい」
 その車椅子を引いている看護士に彼の後ろから声がかけられた。
「隔離病棟だったよね」
「はい、そうです」
「やっぱり何も話しはしないかい?」
 声をかけた医師は看護士に対して問うた。
「あれ以外は」
「はい。時々何かを喚く以外は」
「そうか。やっぱりな」
「身寄りもいませんしずっとここでいるんですか」
「そうだよ。ずっとね」
 医師はその車椅子に俯いて座っている田中を背中越しに見ながら述べた。
「このままさ」
「そうですか。ここでずっとですか」
「裁判の時に倒れてそうなるとはね」
 田中は己の婦女暴行事件の時に被告人として発言しようとしたその時に倒れたのである。その時には既に神経的にかなりボロボロになっていた。それが遂に完全に切れたのである。
「無残なものだよ」
「ええ。本当に」
「じゃあ病棟に入れておいて」
 医師はここまで話すと素っ気無く看護士に告げた。
「いつものようにね」
「わかりました。それじゃあ」
 こうして田中は隔離病棟に連れて行かれた。そうしてその廊下で。
「うあああああああああああああっ!!」
 突如こう絶叫するのだった。しかしそれは病棟の廊下に空しく響いただけであった。誰もそれを聞いても何とも思わなかったのであった。


無様な最期   完


              2009・6・30
 
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