ダブルアクション

　　　　　　　　　　　　　　　　　ダブルアクション
　加藤淳は卵の形をした奥二重の大きな目と黒い薄い眉を持っているわりかし中性的な顔立ちの青年だ、薄茶色にした髪をショートにしている。背は一七八程で長身と言っていい身体もすらりとしていてスタイルがいい。
　高校ではフィギュアスケート部に所属している、その彼がある日練習前にコーチである津山良彦にこんなことを言われた。
「御前これまでシングルでやってきたよな」
「はい、フィギュアはじめてからずっと」
　赤のジャージ姿でアイススケートのシューズを履きながらだ、淳は津山に答えた。
「一人です」
「そうだよな、けれどな」
「けれど？」
「ペアもやってみないか？」
「ダブルスですか」
「ああ、どうだ？」
　こう淳に言うのだった。
「そっちもな」
「ダブルスですか」
「実は今女子でそれがしたいって娘がいてな」
「誰ですか、それ」
「御前も知ってるだろう、波崎だよ」
「ああ、麻友ちゃん」
「そう、あいつがな」
　彼と同じ学年の部員だ、特に仲は悪くなく結構話すこともある。
「ダブルスもしてみたいって言うんだよ」
「あの娘もシングルですよね」
「それでもな」　
「ダブルスに挑戦したいんですか」
「それで御前もどうかって思ってな」
「そうですね」
　考える顔になってだ、淳は津山の言葉に応えた。津山のその四十前だがすらりとしたスタイルと顔を見てだ。
「ちょっと麻友ちゃんと話していいですか？」
「本人とか」
「はい、そうしてから決めたいですけれど」
「ああ、じゃあそうしろよ」
　それならとだ、津山はこう彼に返した。
「それじゃあな」
「そうさせてもらいますね」
　こう話してだった、そのうえで。
　淳はその麻友と話すことにした、麻友は白いあどけない顔立ちをした少女だ。鳶色の瞳は大きく白目のところも綺麗だ。大きめの目は少しだけ切れ長で奥が二重になっている。眉は薄い黒で補足なく少し一文字だ。
　黒髪で額を完全に隠し伸ばしており後ろでポニーテールにしている。背は一五四程で小柄だ、胸は小さいが全体的に整ったスタイルをピンクのジャージで包んでいる。
　その彼女のところに来てだ、淳は直接尋ねた。
「あの、ダブルスやりたいって？」
「うん、そう考えるの」
　少女そのものの可愛らしい声で答えた麻友だった。
「実はね」
「本気かな」
「本気よ、完全に」
「それでパートナー探してるんだ」
「そうなの、誰か一緒にって思って」
「俺に声がかかってきたんだよね」
　淳は麻友にこのことも話した。
「コーチからさ」
「それで私のところに来たのね」
「そうなんだ、麻友ちゃんが本気ならね」
　それならというのだ。
「ちょっと話をしようって思って」
「加藤君ダブルスは」
「今までしたことはないけれどさ」
　それでもと返す淳だった。
「特に嫌って訳でもないし」
「それじゃあ」
「ちょっと試しにしてみる？」
　こう言うのだった、ここで。
「今日は」
「そうね、それじゃあ」
　今日は試しにだった、そうして。
　二人で練習してみてだ、こう言ったのだった。
「何かね」
「かなり難しいわね」
「うん、一人とは違ってね」
「一人だったらね」
　二人一緒に試しに滑ってからだ、こう言ったのである。