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東方魔法録~Witches fell in love with him.

作者:枝瀬 景
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33 三日目~Are you a werewolf.

 
前書き
お気付きの方もいるとは思いますが人狼ゲームにおいてまとめ役的なポジにいるクレイ君が能力者に対して何の指示もしてません。ゲームの場合、ルールとしては問題無いのですがまあ、普通はそんなことはしません。 

 
- third day / morning -

「うわぁぁぁあ!」

レノさんを土葬した次の日の朝。僕はお父さんの叫び声で目が覚めた。
叫び声は一階から聞こえたので、二階にある僕の部屋から飛び出した。

「おい…嘘だろ!返事をしてくれ!」

一階に着くと人狼の爪によって引き裂かれたお母さんの変わり果てた姿があった。

………………………………………
……………………………………
…………………………………

僕は村にいる皆をソンチョさんの家に呼んだ。
僕が食事を運ぶ時間より早い時間でまだ少し眠そうだったけど、お母さんが襲われたと知ると眠気も吹っ飛んだみたいで、逆に顔色を悪くする人もいた。

「くっ…アズ…」

お父さんはお母さんが人狼によって殺されたことで悲しみ続けていた。

「お父さん、お母さんの為にも絶対に人狼を見つけよう!」
「…ああ、そうだな…」

僕が励ますと少しだけお父さんは元気を取り戻した。

「クレイ君、大丈夫かい?」
「ありがとうございます、キョウさん。僕は大丈夫です。…誰が人狼なのか、議論をしましょう」

キョウさんは心配そうに僕を見ていた。確かに、お母さんが死んだことで動揺してしまった。でも、僕はこの事件を終わらせなければいけないと言う使命感に駆られていた。


- start the discussion -


「トウキお姉さん、確認だけどレノさんは人狼だった?」

僕は霊能者のトウキお姉さんに聞いた。
ちょっとした余談だけど、死んだ人の霊は一晩経たないと現れない。だから霊能者が能力を使えるのは朝になる。ってトウキお姉さんが言ってた。

「ん…黒。人狼だった」

ソンチョさん、レノさんが人狼として処刑され、残りの夜に住まうものはあと一人。
そして今生き残っているのは、僕、トウキお姉さん、お父さん、ワールさん、キョウさん、イケさん、明希さん、アリスさんの八人だ。

「それじゃあ、ワールさん。昨晩は誰を占いましたか?」
「俺はそこのよそ者の嬢ちゃんを占った。よそ者って言う時点で怪しいからな。だが、良いのか悪いのか、結果は白だったぜ」

占いは相手一人が人狼か人狼でないか知ることができる。
アリスさんが人狼じゃなかったことを喜ぶべきか、人狼を特定出来なかったことを悔やむべきか迷うところだけど、グレーの人数が減るから良かったのだろう。

占い師から占われて白を宣告された僕、アリスさん。人間かどうか疑わしくなるような力を持っているけど、トウキお姉さん、ワールは白確定。
残る明希さん、お父さん、キョウさん、イケさんはまだ、白でも黒でもないグレーだ。

占い師による黒の情報や、能力者の矛盾がない現在、この四人の中から人狼だと思う人を選び出すしかない。ある意味、今回は最も難しい議論になると思う。

僕はその四人の顔を見た。

お父さんはお母さんの死から立ち直れていない。暗い顔で、目にはまだ涙の跡が残っている。

イケさんはすっかり怯えてしまっている。あ、目が合った。

「ヒッ!」

イケさんは僕に疑われているのかと思ったようで、小さな悲鳴をあげられてしまった。

キョウさんは口を真一文字に結び、神妙な顔つきでいた。昨日、自分のことを脳筋と言ってた割には色々考えているようだった。

明希さんは目を閉じてウトウトしていた。夢の中で犯人の推理をしているのかもしれない。

「って、こんな時に寝ないでください。明希さん!起きてください!」

僕が注意しても全く起きる気配が無かった。
明希さんの隣にいるアリスさんが見兼ねて肩を揺すって起こした。

「ふぅ…くぁ~…。ねみぃ…」
「はい」
「サンキュ、アリス」

アリスさんは明希さんに水が入ったコップを手渡した。端から見ると、まるで恋人か夫婦のようなやり取りにも見える。パルしい。おっと、電波が。

水を一気に飲み干した明希さんは眠そうに僕に質問した。

「それで…何を話してたんだ…」
「トウキお姉さんの能力でレノさんの黒確定。ワールさんの占いでアリスさんは白だっ……ああ!また寝ないでください!」

明希さんは再びウトウトして夢の中に旅立ってしまった。

「うーん、調子が悪いのかな…?…そうだ、皆さん朝食がまだですよね。軽くなら僕が作ります」























- third day / afternoon -


頭の中で考えているようで考えてないような変な感覚。だけど直感的に、ああ、寝てたんだなぁとわかる。

覚醒と催眠の間で気持ち良く微睡んでいると、後頭部に柔らかい感触があるのを感じた。いい匂いもする。

寝惚けたまま、無意識に気持ちよさを求めて少しだけ首をひねって頬でその感覚を楽しんだ。
柔らかいけど、程よい弾力があって何時までもこうしていたくなる。その柔らかいものから伝わる温もりは俺に安心感をもたらした。

しかし、一度覚醒に近づいたせいか起きたくないと思いながらも瞼が段々と開かれる。
虚ろな目にはどこかで見たことのある青色が視界一杯に広がった。

不意に天井を見上げるように首を戻すと金髪が目についた。
金髪に青色。この組み合わせはついさっき見た気がする。そう、例えばアリスとか…

「なっ!」

驚いて一気に目が覚めた。アリスが寝ながら俺を膝枕していたのだ。
俺はバッと飛び起きた。

「ふぁ~…。良く眠れたかしら?」

俺が起きた気配でアリスも目を覚ました。

「え、あ、うん。ぐっすりと」

少し混乱しながらアリスの質問に答えた。
改めて状況を確認すると、俺はアリスの膝の上に頭を乗せていた。椅子を二つ繋げてそれをベットの代わりにして寝ていたようだ。テーブルには冷めた紅茶が置いてあった。えっと…

「貴方、寝ながら紅茶を淹れてたわよ。椅子に座った途端に完全に寝てしまったけどね」

うっすらとある記憶を辿ってみると、確かに紅茶を淹れないといけない使命感に駆られていた記憶がある。

「それより、貴方ちゃんと寝てるの?今朝からフラフラだったじゃない」

俺としては何故アリスが膝枕をしていたいのかを聞きたいところだけど、なんかこっちに非があるような罪悪感を感じて自分の疑問よりアリスの質問を優先した。

「昨日…いや、寝たのは多分今日かな…?二時間位しか寝てないと思う」
「はぁ!?それは睡眠じゃなくて仮眠と言うのよ!まさかこの村に来てからずっとなの!?」
「うん…吸血鬼だから夜はあんまり眠くならないんだよ」

それ抜きでも、喉が渇いて何回か起きてしまうのは言わない方がいいかもしれない。これ以上、アリスを不安にさせたくないし、言ったところで何の意味もないだろう。

「ええっと今は…げ。もうこんな時間」

俺は銀時計を取り出して時間を確認した。時計の針は、夕方の推理が始まる時間を指していた。

「次はしゃんと(・・・・)しなさいよ」
「大丈夫だって」

俺はすっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干してソンチョさんの家に向かった。
























- third day / evening -

僕達は遅れてきた明希さんを睨んでいた。自分が何故睨まれているのかわからなかった明希さんは僕達に聞いた。

「ちょっと遅れたぐらいで睨まないでよ。それとも、今朝寝てたのが悪かったのか?」

違う。僕達はそんな理由で睨んでいる訳じゃない。僕達は明希さんが人間でない確実な証拠を見つけてしまった為、睨んでいるだ。
僕が代表して、その理由を言った。

「明希さん。何で貴方には影がないんですか?」


- start the discussion -


「え…?」
「惚けないでください。ほら!貴方の足元に貴方の影はないじゃないですか」

先日感じた違和感の正体は、明希さんに影が無いことだった。
道理で明暗がおかしいと思ったんだ。影が無いから暗さが足りないとか、明るすぎると思うわけだ。

「あーうん。これはマジックだよ、マジック」
「しらばっくれても無駄です。わざわざ常に影を消す必要がどこにあるんですか」

影を消すマジックなんて聞いたことがない。そもそも、物体には光がある限り、影が存在する。空高く飛んでる鳥だって地面には影があるし、ましてや地面に立っている人間に影が無いなんてことはあり得ない。

「あーまずったな。でも仕方ないか、自分でどうこう出来ることじゃないし」
「そんなことを言うってことは認めるんですね!貴方が人狼だと言うことを!」
「俺は人狼じゃないんだけどなー」
「人狼以外に何があるって言うんですか?」
「そりゃあ吸…いや何でもない。もういいよ、人狼で」
「ちょ、ちょっと!それでいいの!?貴方銃で撃たれるわよ!?」

明希さんの変わり身の早さや適当さにアリスさんは驚いた。

「その反応。アリスさんは明希さんが元からそうだと知ってたんですか?」
「あ、いえ…その…」
「大丈夫大丈夫。俺が撃たれれば万事解決だって」

明希さんは撃たれることに抵抗がないのか不思議なくらいに自分から撃たれようとしている。ちょっと不気味だ。流石は夜に住まうもの。

「投票や議論は要りませんね。明希さんを処刑します」
「ちょっと待ちなさいよ!ろくに議論もしないで決めるなんて!」
「いいけどちょっと待って」
「貴方が待ちなさいよ!」

アリスさんのツッコミが冴え渡るなーなんて思いつつ、僕は明希さんのちょっと待ったを受け入れることにした。逃げ出すなんてことはしないだろう。

「何ですか?」
「墓に埋める時は棺の中に入れてから埋めて」

死んだ後なんて棺の中にいようが、そのまま土葬されようが変わらないと思うけど…。何か思うところがあるのだろう。

「わかりました」
「あと、喉が乾いた。飲み物頂戴。飲み終わったらすぐに撃ってもらって構わないから」
「飲み物ですか?」

なんかこれから死ぬようには思えない図々しさだなぁ。まあ、いいけど。
僕は水を入れたコップを明希さんに渡した。
明希さんはコップの水に小瓶の中身をに振りかけて口元まで運んだ。そしてお父さんが明希さんに銃を向けた。
明希さんは水を飲む寸前に一言言って、

「ああ、アリス。間違ってもジュリエットの二の舞はするなよ。あり得ないとは思うけど」

水を飲んだ。

「…そういうこと。大丈夫よ」

口からコップを離すと同時にお父さんが引き金を引いた。

チャキ、パーン 
 

 
後書き
明希君があっさり撃たれちゃいましたね。勿論、東方魔法録はまだまだ終わりません。

吸血鬼には鏡や影が映りません。例えば、鏡に映らない、影がないというのは、鏡像や影は霊魂の一つであり、吸血鬼や悪魔、悪魔に魂を売ったものは魂を持たないから映らないという説や、鏡や影は生きているものしか映さないから生きているか死んでるか曖昧な吸血鬼は映らない、と言った説があります。
作中では初めてその事に触れましたが決して忘れてたわけじゃないんですからね! 
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