Eve
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第一部
第一章
プロローグ
前書き
特に性的な描写があるわけでもない、自分の能力を試す目的を持った自己満足作品です。更新頻度は多ければ週2ほど。少なければ1,2週間空けることもしばしばあると思いますが、どうか長い目でお付き合いいただければ、私はとてもハッピーハッピーでございます。
足りない点ばかりではございますが、今後の精進のための糧となる作品だと思ってお読みください。
暖かい日差し。小春日和という言葉を具現化したような、そんな眠りを誘う陽気。目を閉じていても、柔らかい春の日差しは俺の目蓋を跨いで、朱一色を俺の目蓋に焼き付ける。あまりの眩しさに目を開けて、その雄大な蒼碧の空へと目を向ければ、真蒼な空と真白なちぎれ雲と、お日様の燦々とした光をその身に受けて純白の輝きを魅せつけるその荘厳な姿が、暖かさと清々しさを感じさせる大入道雲。さらに地上の空と表現しようか、どこまでも続くかのように広がる広大な大草原との4つのコントラスト。世界を舞台とした巨大なコントラストは、その巨大な客席を独り占めする俺の心を引きつけて離さなない。
そんな舞台のひと時に頬を撫でていく涼風は、どことなく辺り一面に青々しく生え揃う若草の香りを孕み、俺の鼻腔を仄かにくすぐる。その俺が背を預ける若草は、俺の重みに負けじと必死に俺を跳ね返そうとしているような、それほどに強く生の息吹と躍動を感じさせてくれるのもまた、この世界の清々しさか。
どこまでも完璧なまでに清々しい世界。俺の理想的な世界。無限の時と世界の可能性を感じさせてくれる、そんな世界がここにはあった。
俺は若草の上に手をつき、ゆっくりと上体を起こす。さっきまで体の芯から表層までを蝕んでいた重たい疲労は、いつのまにか消え去っていた。
そりゃあ、これほど清々しい場所で数時間も寝ていれば体も軽くなるってもんだ。毎度のことながら、今さらどうこう言うようなことでもない。
手を上に伸ばし、両の手のひらを組んだまま左右に体を曲げると、ポキポキッと腰骨やら背骨のコリが少しばかりほぐれていくような気がした。
「相変わらず疲れているね。」
ふと背後から聞こえる、小さく柔らかな声。今にも風が若草を靡かせる音にすらかき消されそうな……。それでも、しっかりと俺の鼓膜を震わせる。
「ああ、やっと来たんだ。」
「ん。ちょっと用事があってね。」
徐々に若草を踏みしめる音は大きくなっていき、やがてその音は俺のすぐ隣で鳴りを潜めた。少しだけ、涼風に流れてくる香りが変わったような気がする。ちょっとだけ、甘い香り。慣れ親しんだ、落ち着きのある仄かなラベンダーを彷彿とさせる香りだ。俺はいつものように隣へとゆっくりと腰を下ろした一つの小さな影へと視線を向けた。
「おつかれさま。」
優しい微笑み。俺の方に向いているその微笑みの主。空色をもう少し白に近づけたような、プラチナブロンドのロングヘアー。顔立ちは……なんて言ったらいいんだろう。よくわからないけど、とりあえず好み。白い肌はこの春の日差しに晒されているのにもかかわらず、俺がこの虚実の世界と現実の世界を行き来できるようになってから、ほとんど変わっていない。そしてその柔肌を隠す、白と水色のコントラストがシンプルで可愛らしいJSK。今日は珍しくこの服を着てるけど、普段よく着ている白いワンピースは、どことなく手作り感を漂わせる。JSKに包まれた細くしなやかなその体躯は、お日様の光を浴びて白く透き通るように輝いていた。
そんな少女のような人。でも、あくまで少女のような人。本当に少女なわけではないけど、見た目はどうしても少女にしか見えないから。実際にはもう二十歳にはなるという、なんというか不思議な女性。そして、この世界での、俺の……。
「恭夜?」
「え……あ、なに?」
「なんか、ボーっとしてたから。」
少女は俺の顔を覗いて、どことなく心配そうな顔をしている。多分、純粋に心配してくれているんだろうと思うけど、そんな俺は彼女の容姿の妄想に精を出していたなんて、とても言えたことじゃない。
「……いや、ちょっと考え事してて。」
そう答えるほかなかった。でも少女はまだ俺の顔を覗いていて……。その顔はさっきまでの心配したような顔ではなく、怪しい人を見るようなジト目で……。
「……ふーん?」
「……」
俺は何も答えられずに、ひたすら俺の顔を覗いてくる少女から顔を逸らすだけで精いっぱいだった。
そんな他愛のない時間が過ぎていく。本当に何の他意もない、本来あるべき幸せな時間。永遠の時を感じさせてくれる、そんな万人に与えられるべき、素晴らしいひと時。
「ねぇ、本当のこと言いなよー」
「俺はいつだって本当のこt」
「そういうのいいから。」
「」
……幸せな時間なんだと思う。こんな会話でも、他愛のない会話ができるだけでも幸せなのに、こんな美しい世界で安らぎを得られることが。こうしてじゃれていたり、近くのちょっとした丘の上に生える一本の柳の下で一休みするのも。
「……」
「恭夜?」
だけれども、こんな世界を知ってしまった俺が現実の世界を直視しなければならないなんてこと、あまりにも過酷で今すぐにでも忘れ去りたい。忘れ去りたい、現実世界の記憶。消し去りたい、現実世界との因果律。でもすべては定められた運命の下に、結局は俺だって現実世界からの強い因果律から逃れる術なんてないんだ。
その瞬間、俺たちの間を一際強い風が吹き抜けていった。その風は俺の背後にそびえる一棟の廃ビルの方へと突き抜けていき、廃ビルに雄々しく茂る草木や蔦を、ざわめかしく揺り靡かせた。
「……そろそろだね。」
彼女が小さくつぶやいた。俺はゆっくりと背後を眺めていた身体を元に戻し、眼前の大平原を見据える。
「……戻りたくないな。」
ふと、本音が漏れる。無意識のうちに心の底から漏れ出た、小さな本音。
「わかってる。けど、もう起きる時間。」
そういうと、彼女は俺の頭の上にポンと手を乗せてくれた。小さな小さな手だけれども、確かなぬくもりと重みが俺の頭から体の芯にまで伝わっていく。それを俺は自分の左の手で優しく掴み、ゆっくりと彼女の三角座りをしている膝の上に戻した。今度は逆に俺が、彼女の頭の上に手を乗せた。
「イブがやるよりも、俺がやる方がまだ自然だから。」
「……ボクが励まそうと思ったのに。」
イブの三角座りのまま、ぷくっと小さな頬を膨らませた姿を見て、俺は笑った。イブのそれを見ているだけで、俺の憂鬱な気分も軽くなっていく。これから待つ、現実世界での半日を乗り越えるだけの元気をくれる。
やがて徐々に視界が暗転していく。
「明日も、待ってるから。」
イブのつぶやき。俺の耳には届いた。
「俺も、またすぐに戻ってくるから……」
俺のつぶやき。イブには届いただろうか。ほとんど真っ暗で何も見えない視界の片隅に映る大平原と、イブの小さな微笑みも、意識の混濁とともに薄れ、やがてすべてが意識の外へと放り出されていった……。
………
……
…
「……」
大平原を眼前に、ボクはついさっきまで隣で腰を下ろしてぐだぐだしていた恭夜に思いを馳せる。すぐ隣の青々とした若草はぐったりと倒れ、さっきまでここに一人の人間が座っていたことを如実に物語っていた。ボクは再び視線を虚空に向ける。いつもと何変わらない空が広がり、何食わぬ顔をしたお天道様がボクをじりじりと照り付けていた。
「……あと、一年くらいかな。」
ぼそりと呟いたボクのつぶやきは誰の耳に届くこともないまま、この広大な緑と青と白の織り成す虚空へと吸い込まれて、やがて消えた。今、この世界には限られたモノしかいない。知らぬモノの耳に届くこともない。
「後一年で……頑張ってね、恭夜。」
その呟きは、この世界に吹き渡る涼風に流れ、廃ビルの方へと流れていった。
後書き
読んでくださった方。まだ全然書き進んでいないので、今後もっと更新が進んでからでも構いません。どうかこの作品の評価をお願いします。どんな辛口評価でも、お褒めの言葉でも大歓迎でございます。ここがダメだとご指摘くだされば今後、私が執筆する作品の糧ともなりますし、ここがいいと言ってくだされば私の口元が緩みます。どうかよろしくお願いします。
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