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戦国異伝

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第百六十五話 両雄の会同その二

 信長は諸将にはこう言ったのだった。
「湯なり蒸し風呂なりに入れ」
「この近くの大きな風呂屋で、ですか」
「若しくは温泉で」
「うむ、そうして身体を清めてな」
 そのうえでだというのだ。
「本願寺との会見に赴こうぞ」
「そうですな、このまま戦の垢や汚れがついたままですと」
 どうかとだ、平手が言った。見れば彼もかなり汚れている。
「公方様の御前ということもあり」
「みっともないな」
「さすればですな」
「そこで身体を清め気を養え」
 それもせよというのだ。
「存分にな」
「畏まりました、それでは」
「わしも入る」
 その風呂にだというのだ。
「それでまずは疲れを癒してじゃ」
「本願寺と会いましょうぞ」
「そうして」
「うむ、さすればな」
 こうして信長は自らも風呂に入りそのうえで顕如と会う前に身体を清めることにした、そして都の近くの温泉でだ。
 織田家の主だった家臣達も風呂に入る、元親は手拭いで己の身体を洗いそのうえで笑ってこんなことを言った。
「これは凄いわ」
「どうされましたか」
「垢が凄いわ」
 そうだとだ、己の弟達に答えるのだった。
「これでもかと出るわ」
「思えば長い間風呂に入っておりませんでしたな」
「しかも常に陣中にあった」
 それではなのだ。
「垢が出るのも当然じゃな」
「ですな、確かに」
「我等もですし」
「それではここでな」
 風呂に入ったこの機会にだというのだ。
「垢を落としておくか」
「ですな、じっくりと」
「戦場の垢を落しますか」
 弟達も応える、そうしてだった。
 皆垢を落とし湯船にも浸かる、それは他の者達も同じだ。
 可児もほっとした顔でだ、湯船に入り言うのだった。
「生き返るわ」
「全くじゃな」
 その彼に生駒が応える、彼も生き返った様な顔だ。
「これでな」
「さて、それではか」
「うむ、本願寺の面々との顔合わせじゃ」
「それじゃな。しかし」
「和議にはじゃな」
「ここで潰しておきたかったがのう」
 本願寺を完全にだ、顕如はこのことを今も無念の顔で言うのだった。
「だが殿は我等を気遣って止められた」
「その通りじゃ。あの時石山を攻めればな」
 どうなっていたのか、生駒も軍師の一人である。そのことがわかっているからこそ言うことだ。
「我等のうち何人が生きていられたか」
「兵達も相当死んでおりました」
 大谷も湯船の中にいる、そこで癒されるものを感じながら言うのだった。
「二十万いても十万残ったかどうか」
「疲れ過ぎておりました、誰もが」
 石田もこう言う。
「せめて紀伊を攻めることがなければ」
「攻められたか」
「それでも多くの犠牲が出ていたかと」
 決して楽観しなかった、石田は冷徹なまでにその時の将兵達の状況を思いだしそのうえで語るのだった。
「少なくとも紀伊の後では」
「やはり無理だったか」
「和議を結ぶべきだったかと」
 石田はこう言うのだった。
「それがしもあの時は攻めるべきだと思っていましたが」
「また実に素直に言ったのう」
 石田のその素直さに驚きながらだ、可児は彼に返した。
「そう言うか」
「嘘はいけませぬので」
 生真面目な声での返事だった。
「ですから」
「だからか」
「はい、それがしは嘘は嫌いであります」
 石田のこの正直さは織田家でもつとに知られている、とにかく彼は信長にもそのまま直言し言葉も飾らない、そうした者なのだ。
 だからだ、今もなのだ。 
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