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ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜

作者:カエサル
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蒼き魔女の迷宮篇
  21.迷宮の真意

 

 祭りで混み合う大通りから外れて、彩斗と友妃は狭い路地裏を走っていた。

「くそっ……! なんなんだよ!」

「落ち着いてよ、彩斗君。まずはあそこを目指さないと」

 目の前にそびえ立つ巨大な建物。逆ピラミッド型のビルの屋上を占拠しているのは、クラーケンを思わせる不気味な触手の群れだ。
 その怪物と特区警備隊(アイランド・ガード)の機動部隊が交戦している。
 那月がいれば簡単に片付く相手かもしれない。
 だが、今は彼女不在の状況だ。
 攻撃ヘリ、地上部隊が屋上の怪物に向かって砲撃を始める。

「……無傷」

「あの“守護者”……魔術的に強化されてるよ」

 砲撃を耐え抜いた怪物が、反撃を始める。
 鞭のように伸びた触手で武装ヘリの一機をとらえ、その機体を一瞬でへし折った。
 制御不能になったヘリは、炎を吹き上げて地上に落下する。地面に激突し爆煙を噴き上げる。

「くそっ……最悪でも姫柊たちと早めに合流しねぇと」

 キーストーンゲートの屋上を眺めながら呟く。
 笹崎と別れた後にキーストーンゲートに接近したのだったが、そのときに空間転移により彩斗と友妃、古城と雪菜に引き離されたのだ。

 このままでは優麻の魔術儀式が完成してしまうのだ。
 何か策はないかと思考する。
 この場で眷獣を使えば、暴動が起こりかねない。さらに普通にキーストーンゲートに向かったとしても先ほどのように空間転移されてどこに飛ばされるかわからない。

「待てよ……」

「どうしたの、彩斗君?」

 詰んでしまったこの状況を打開する策があるならこれしかないはずだ。
 彩斗は右腕を突き上げ、鮮血が噴き出す。

「彩斗君!?」

「──降臨しろ、“真実を語る梟(アテーネ・オウル)”!」

 友妃の驚愕の声を無視し、彩斗は神々しい翼を持つ梟を出現させる。

「何やってるの!? 一般の人もいるんだよ!?」

「大丈夫だ。観光客はこの事件を何かのイベントだとしか思ってない。それにアテーネなら少しくらい魔力の制御がきく」

 そう言いながら“真実を語る梟(アテーネ・オウル)”の背中に飛び乗る。

「早く乗れ、逢崎!」

 友妃は彩斗の考えを察したのか“真実を語る梟(アテーネ・オウル)”へと飛び乗る。

「じゃあ、向かうはキーストーンゲート。しっかり掴まってろよな」

 黄金の翼の梟は、勢いよく翼を羽ばたかせ上昇する。
 空間転移は今までの情報を合わせると扉を開けた瞬間に起きるものらしい。なら扉を経由せずに空中からキーストーンゲートに向かえばいいだけの話だ。
 それに“真実を語る梟(アテーネ・オウル)”の翼は、魔術を無力化する力を宿している、仮に空中で空間転移が起きようとも黄金の翼がそれを拒絶するはずだ。
 特区警備隊(アイランド・ガード)が封鎖している上空を軽々とくぐり抜け、キーストーンゲートの屋上へと目指す。
 屋上に近づこうとした瞬間、斑模様の触手がこちらへと攻撃してくる。

「ちっ! ……蹴散らせ、アテーネ!」

 彩斗の声に応えるように梟は咆哮し、黄金の翼で触手を引き裂く。
 特区警備隊(アイランド・ガード)の攻撃で傷一つつけられなかった怪物を易々を無力化し、消滅させる。

 魔女たちの“守護者”の壁が破れて、その中が露わになる。
 鮮血の魔法陣。その左右に立つ二人の魔女。
 そしてその中央には、黒い礼服を着た少年が立っている。吸血鬼をイメージした燕尾服。

「君のほうが早かったんだね、彩斗」

 振り返った少年。第四真祖の力を受け継いだ吸血鬼、暁古城そこにはいた。

「あぁ……“神意の暁(オリスブラッド)”にあんな小細工なんて効かねぇからな」

「君は古城によく似ているよ。なにもわかってないのに、こんな危険な場所に現れる」

「危険な場所に来させてるのはどっちだよ」

 皮肉を言うように彩斗は苦笑いを浮かべる。
 だが、優麻の手の中にあった一冊の魔道書を確認し、苦笑いから真剣な表情へと戻る。

「──ユウマ!」

 突如として聞こえた声に振り返る。
 そこには、エプロンドレスを着た雪菜と優麻の身体に入った古城がいた。

「早かったね、古城」

 古城の名を呼んだ優麻は、どこか嬉しそうに見えた。

「心配しないで。この身体はすぐに返す。だから、少しだけ待ってくれないかな。もうすぐ見つけられそうなんだ」

 優麻は優しい表情で笑う。

「見つける……って、なんのことだ……?」

「ボクの母親だよ。生まれてから、まだ一度も会ったことはないけどね」

「母親……って……」

 古城は動揺し、彼女に疑問をぶつけようと魔法陣に足を踏み入れる。それを制止するように、笑い含みの声が聞こえた。

「──そこまでだよ、古城。それ以上は彼女に近づかないでくれないかな」

「っ!? なんでおまえがこんなところに……!?」

 古城は驚愕の声を洩らした。
 声のした方向に彩斗も顔を向ける。そこに立っていたのは金髪碧眼の青年貴族だ。

「やァ。古城、しばらく見ないうちに、ずいぶん可愛らしい姿になったじゃないか」

 舌なめずりをするようなヴァトラー。
 “旧き世代”の吸血鬼、真祖に最も近いと呼ばれる青年。

「ヴァトラー……今回の騒動もテメェが関わってるってわけか」

 彩斗が声色を変えて口にする。

「いやいや、ボクはただ待ってるだけサ……彼女たちが監獄結界をこじ開けるのをね」

「監獄結界……!?」

 思いがけない言葉に彩斗は身を震わせる。
 監獄結界の噂なら、この島の人間なら誰でも知ってる都市伝説だ。凶悪な魔道犯罪者を封印する幻の監獄。

「そんなもの、ただの怪談じゃなかったのかよ……!?」

 古城が驚愕に声を洩らす。

「いや。監獄結界は“魔族特区”を流れる龍脈(レイライン)の力を使って造り出された、人工的な異世界だ。その存在は見えない。それを造り出した理事会の連中さえ、どこにあるのかわからない。だが、たしかに存在する。この絃神市のどこかにね」

「そうか、この空間の歪みは……監獄結界の在り処を探るために……」

 歪めた空間の中に隠されたものを見つけるために、優麻は絃神市全域の空間を歪めた。

「そういう……ことかよ」

 優麻は、母親を探してると言った。それは彼女の母親が監獄結界に封印されているということだ。

「楽しみだねェ……異世界の迷宮に封じこめられなければならないほどの魔道犯罪者たち。そいつらが一斉に街に解き放たれたらどうなるか。まァ、安心してくれ。脱獄囚たちは、このボクが責任をもって再び捕まえてみせるとも」

 浮き浮きとした口調でヴァトラーが呟く。

「アホかあぁぁっっ──! 安心できるかっ、んなもん!」

「テメェが自分で楽しみたいだけだろうが!」

 古城と彩斗が絶叫する。
 これでヴァトラーが優麻たちの行動を眺めている理由がわかった。
 言いたいことを言い終わると、お得意に霧で姿を消した。

「──先輩! 下がって!」

 突然として雪菜の鋭い声が、叫んだ。古城の目の前には、巨大な触手が埋め尽くしており、古城の動きを止めている。

「──っ!?」

「“夢幻龍”──!」

 迫り来る触手が一筋の銀の煌めきが薙ぎ払う。さらに迫り来る触手を雪菜の槍と友妃の刀が切り裂く。
 だが、触手は動きを止めない。
 触手を操ってるのは、優麻の左右に立つ二人の魔女。穏やかな優麻の態度と対照的に、彼女たちは暴力的な興奮と喜びで顔を歪めている。

「漆黒と緋色の魔女の姉妹……! まさか“アッシュダウンの惨劇”の……!?」

 二人が使う術式に気づいて、雪菜かすかに眉を動かす。

「なるほど……私たちの“守護者”に牙を剥くだけのことあって、小娘にしてはよくお勉強してるようですわね」

「──察するに巫女の類といったところでしょうか。どうなさいます、お姉様?」

「できることなら手足を引きちぎり、腹を引き裂き、我らが儀式の贄として使いたいとこですけど、“蒼の魔女”の本体にもしものことがあってはいけませんわね……例のものがみつかるまで、せいぜい丁重にお相手して差し上げましょう」

「残念ですわ。死体にしたら映えそうな、綺麗な娘たちですのに──」

 魔導書が禍々しく輝きを放ち、“守護者”の触手が一層襲いかかる。

「ぐっ!」

「──姫柊!?」

 押し寄せる触手の勢いに抗いきれず、雪菜が後退する。

「雪菜、大丈夫!?」

 雪菜を庇うように友妃も後退し、触手を防ぐ。

「……いい加減にしろよな」

 怒りをあらわにした彩斗は右腕を突き出す。爆発的な魔力の鮮血が噴き出す。

「──来い、“真実を語る梟(アテーネ・オウル)”!」

 膨大な魔力が噴き出すとともに辺り一面の触手を吹き飛ばす。
 “神意の暁(オリスブラッド)”である彩斗が使える能力。眷獣を武器に変える能力だ
 彩斗の身体を覆う神々しい光を放つマントだ。

「あなた、何者ですの?」

 漆黒の魔女が怒りの表情を浮かべて彩斗を睨む。

「俺は、こいつらの仲間だけど」

 その瞬間、新たな触手が古城たちと彩斗を同時に襲う。
 その程度の攻撃で“神意の暁(オリスブラッド)”を止められるわけもない。
 彩斗を襲う触手を全て回避し、古城たちを襲う触手の群れを黄金のマントが自らの意思で動いているように貫く。
 すると後方から出現した触手が光によって浄化されたように姿を消す。

「彩斗!」

 聞き覚えのある声に振り返る。
 長い銀髪をなびかせながら、黄金の銃を構える異邦人の少女が彩斗めがけて落下してくる。
 ギリギリで少女を両手で受け止める。

「ら、ラ・フォリア!?」

「また、会えましたね、彩斗」

 ラ・フォリアは天使のような笑みをこちらへと向ける。

「──“煌華麟”!」

 その声とともに長身長髪のポニーテールの少女が銀髪の剣を振り下ろす。

「──紗矢華さん!?」

「えっ! 紗矢華!?」

 思いがけない援軍の登場にこの場の全員が呆気にとられる。

「おまえら、いったいどこから……!?」

 ピンポイントで出現した紗矢華を眺めて、古城が訊く。

「助けに来てやったわよ、暁古城。本当に世話が焼けるっていうか、私がついてないとあなたはいつもそうやって雪菜に迷惑ばかり…………」

 彼女は、立ち上がると古城に気づいて、困惑する。

「えーと……誰?」

 混乱している紗矢華を見て、古城が頭を掻く。そう言えば紗矢華とラ・フォリアは、古城が優麻の身体に入っていることを知らないのだった。

「煌坂……今は古城がその子だ」

 ざっくりと彩斗が説明する。
 ラ・フォリアが、まあ、と彩斗の腕の中で目を大きくする。
 紗矢華は硬直したかと思うと急に叫んだ。

「なんじゃそりゃああああ!?」

「まぁ、そういう反応になるわな」

 苦笑いを浮かべながら彩斗は腕の中のラ・フォリアを下ろす。

「ほ、本当に暁古城なの……わけがわからないんだけど!?」

 監獄結界が出現しそうなこの状況で援軍に来た紗矢華は驚きから立ち直れない。
 でも、今はそんな状況を気にしてるわけにもいかない。
 優麻のほうへと向き直り彩斗は駆けた。
 ラ・フォリアと紗矢華の攻撃で魔女の“守護者”は大きく数を減らしていた。今なら優麻に軽々近づける。
 だが、その時だった。獣の咆哮が響いた。

「なっ……!?」

 その瞬間、武器化しいた梟が眷獣へと姿を戻す。咆哮に反応して自らの意思で武器化を解いたのだ。
 その咆哮に友妃と紗矢華以外は聞き覚えがあった。
 咆哮の主は、彩斗が考える前に姿を現した。暗闇の中、真っ赤な二つの光。その周りを揺らめく陽炎のような漆黒の体毛。
 その姿は間違えなく模造天使(エンジェル・フォウ)の時に現れ、彩斗を再起不能に陥れた漆黒の犬の眷獣だ。

「どうして、あいつがここに!?」

 さらに次の瞬間、濃密な魔力が優麻から流し込まれ、魔導書が発光した。
 大気を軋ませる轟音が爆風とともに襲いかかる。
 爆風の源は、絃神島北端の海上。そこに突然、見たことない島が浮かび上がる。
 小島だ。島の直径は二百メートル足らず。高さは八十程度。人工的に造られた聖堂のようだ。

「なるほど……LCOの狙いは監獄結界の解放か」

 背後から嫌気な声が聞こえる。

「叶瀬賢生……!?」

 声の主は、僧衣のような黒服を着た中年男性だ。
 ラ・フォリアは叶瀬賢生の技術を利用してキーストーンゲートに来たのだろう。
 だが、今は監獄結界や二人の魔女よりもまずいやつを相手にするべきだ。

「古城、姫柊、逢崎! 優麻と監獄結界のことは任せるぞ」

 漆黒の獣のほうへと身体を向き直す。すると背後に誰かが経つ気配がする。

「古城君、雪菜、優麻ちゃんのことは任せたよ」

 友妃は当然のように彩斗の背後に立ち、銀の刃を上空で揺らめく漆黒の獣へと向ける。

「逢崎、おまえ……」

 友妃はいつもの無邪気な笑顔をこちらに向け、当然のように言う。

「ボクは彩斗君の監視役だからね」

「はぁー……」

 深いため息が漏れる。
 それとともに安堵の笑みがこぼれる。

「行くぞ、逢崎!」

「うん!」
 
 

 
後書き
なんやかんやあって再び登場した漆黒の犬の眷獣。
次回、蒼き魔女の迷宮篇完結

 
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