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久遠の神話

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第百三話 幻術の終わりその十三

「生徒に死んで欲しいと思う教師はいません」
「いい先生ならですか」
「そうです、ですから君はです」
「死なずにですね」
「生きて帰って下さい、待っています」
「待ってくれるんですか」
「当然です、こうしてこれからも学校に来て下さい」
 今も優しい笑顔で言う高代だった。
「僕は待っています、暫くして新たな場所に趣ますが」
「今度新設される学校にですね」
「そうです、孤児の子や障害を持った子供の為の学校に」
 高代はそこに入ることがもう決まっている、それで暫くして、と言ったのだ。
「転勤します」
「前にお話してくれましたね」
「はい、ようやくです」
 高代は微笑み目を輝かせて語る。
「私のすべきことが出来るのです」
「先生が夢の為にですね」
「働ける様になります」
「そうなんですね、いよいよ」
「それではです」
「はい、僕はですね」
「戦いを終わらせ」
 そしてだというのだ、上城は。
「そのうえで生きて帰って下さい」
「わかりました、それじゃあ」
「僕は待っていますので」
「こうして朝で、ですね」
「お会いしましょう」
 戦いが終わった次の日の朝にというのだ。
「そうしましょう」
「ただ僕は」
 ここでだ、上城は明るい笑顔から真剣なそれになって高代にこうも言った。
「加藤さんは」
「彼の命を奪うことはですね」
「出来ないです」
 それはというのだ。
「絶対に」
「戦うことは出来ますけれど」
 決意は出来ている、それへの。
 しかしだ、相手の命を奪うことはというのだ。
「それはどうしても」
「そうですね、そのことはいいことです」
「人の命を奪わないことは」
「命は大切なものです」
 今の高代の言葉だ、かつての彼ではなく。
「これ以上はないまでに」
「だからですね」
「こうした戦いでもです」
「誰かの命を奪うことはよくありませんね」
「そうです、私もそう思います」
「だから僕も」
「彼の命を奪わないでいたいと考えていることはいいことです」
 このこと自体が、というのだ。
「非常に。ですが」
「それでもですか」
「はい、彼も人の命を奪う趣味はありませんが」
「けれどあの人は」
「戦っています、そしてその戦いの中で」
「相手の命を奪ってもですね」
「それは当然のことだと考えています」
 これが加藤だ、それでなのだ。
「ですから。どうしても相手の命を奪いたくない貴方とは違い」
「そこにハンデが出ますか」
「精神的なそれがです」
 確かにあるというのだ。
「そして精神的なこのハンデが戦いに影響してはなりません」
「その分だけ僕が遅れを取るからですね」
「確かに命を奪わないことは大事です」
「それでもですね」
「そのことを戦いの縛りにはしないで下さい」
「じゃあどうすれば」
「そのことを戦いの際には忘れることです」
 そうしろと言うのだった。
「雑念を払い、そのうえで」
「戦うことですか」
「そうして下さい、貴方が死なない為に」
「わかりました」
「それでは」
 こう話してだ、そしてだった。
 上城は高代のその言葉に頷いた、そのうえでだった。
 彼は最後の戦いに赴こうとしていた、加藤との最後のそれに。十一人の剣士達が去り遂に戦いは最後の局面に入っていた。


第百三話   完


                            2014・3・20 
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