IS学園潜入任務~リア充観察記録~
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胃に優しくないランチタイム 前編
チョリーッス、毎度お馴染みオランジュで~っす。
え、いきなりどうしたって?現実逃避だよ、現実逃避…
こっちに来てから一週間経過したが、まだ当分は慣れそうに無えよこの生活。改めてセイスが辿り着いた境地とやらは凄いと思う…。
あいつ自身よく言ってたが、本当に何が悲しくてハーレムを築き上げている無自覚リア充の観察をしなければならないんだ。俺は女好きで女癖悪いが、自分が好きになった女には絶対に振られるんだよ、捨てられるんだよ、相手にもされないんだよ。彼女なんて居ないんだよ!!
自分で言ってて悲しくなったが、余計な話はここまでにして、そろそろ目の前の現実を受け入れるとしようか。
俺はセイスに頼まれて、先日の黒兎に衝突されて魔王が放った怒りの鉄槌(出席簿)の余波で壊れたあいつの仕事道具を回収しにいったんだ。あの人外と鬼ごっこで渡り合ったという更識当主、セイスに歩く怪奇現象と言わしめた布仏、そして何より恐怖の大魔王ブリュンビルデにエンカウントしちまったらと考えると恐怖で足が竦みそうになった……てか、完全にガクブル状態だったな…
しかし、俺も妙なところで運が良いもんだ。夏休みに突入したからってのもあるが、目標地点には全くもって誰も居なかった。教員すら居ないし。
俺は速やかに使い物にならなくなった仕事道具を回収し、新たに別のカメラと集音マイクを設置した。隠し部屋への帰り道も特に問題は起きず、俺は意気揚々と戻って行った。
そして、隠し部屋への入り口である消火栓を潜り抜けた時、受け入れがたい現実はやってきた…
「だらっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
さて読者諸君、現在俺が置かれている状況はこうだ。
おつかい完了
↓
ただいま~
↓
セイスの雄叫び
↓
俺の顔面に迫る人外の足の裏←今ここ
―――ねぇ、俺って今日なんかしたっけ?
あぁ…壊れた身体能力を持つ相棒の顔面キックが徐々に俺へと迫ってくる。命の危機を察知したのか、アドレナリンを大放出させた今の俺は無駄に長い現実逃避ができちまったが、生憎これを避けれるような体力は無えよ。せめて…せめて何かしらの悪あがきを試みて意識を周囲に張り巡らす。
そして、俺の足元に全ての元凶を見つけた…
(……最近こんなのばっか…)
―――自分の足元でエムがしゃがんでいるのを確認した瞬間、俺の視界は真っ暗になった…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お、おおおまえっ!! いきなり顔面キックって…!!」
「じゃかましい!! 人様の食糧食うだけ食って帰っといて、どのツラ下げて来やがった!?
「世界最強のツラ(ドヤァ)」
「死ねええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
流石にこれだけ時間が経っていれば、ほとぼりも冷めているだろうと考えていた私が甘かった。コイツのアジトに来た瞬間に開口一番で謝罪したのだが、そんなのお構いなしで顔面キックを放ってきたのだ。
咄嗟にしゃがんで避けたら頭上の方で『メシャアッ!!』という音がしたが、気にする余裕なんて無かった。多分オランジュだと思うが確認する前に、セヴァスが次の一撃をくり出してくる!!
「マアアァアァァドオオオォォォォオォカアアアァァァアァァア!!」
「お…落ち着けセヴァス!! 私が悪かっとぅおあ!?」
いかん、マジでいかん。やはりガラにも無く『テヘぺロ♪』で謝ったのがいけなかったか…
「それを真面目な謝罪と本気で思っているのなら病院行きやがれええええええええええええええ!!」
「ぬおっ!?」
私が避けたセヴァスの拳は床にヒビを入れた…本人曰く、ここはC4爆弾が爆発しても無傷で済む部屋らしいが、それが本当ならコイツのパンチの威力は改めて洒落にならない…。
はっきり言ってセヴァスと素手で殴り合ったら勝てる自信は無い。私はそれなりに格闘センスもあるし、ナノマシンを投与しているのでそんじょそこらの輩には負けない。が、セヴァスの場合は話が別である…
「えぇい、いい加減にしろ!!」
「あ、テメッ!! ISとか卑怯だぞ!?」
やむを得ず、私は『サイレント・ゼフィルス』部分展開させる。流石にIS専用のレーザーライフルを向けられたら、セヴァスも動きを止めた…
「ふぅはは~!! 跪け、命乞いをしろ!!」
「ム○カかよ…」
セヴァスには悪いが、頭を冷やしてくれるまでコレでどうにか耐えさえて貰……ん?何だ、その懐から取り出した変な四脚装置は…?
「うちの技術班が試作品を送ってくれたんだ、護身用に…」
「ほう…」
「何でも、“相手からISを奪う”装置らしいぞ?」
「……え…?」
今、ちょっと耳を疑う言葉が聴こえたんだが?と言う暇も無く、セヴァスはその怪しげな装置をゼフィルスの展開部分にくっつけた。そして…。
「『バル○』!!…じゃなかった、『剥離剤』!!」
「な!?ぬわあああああああああああああああああああ!?」
突然セヴァスの装置が輝きだしたと思ったら体に電流が走るような感覚に襲われ、サイレント・ゼフィルスが強制解除されてしまった。しかも強制解除され、待機状態になったゼフィルスはいつの間にかセヴァスの手に収まっていた…
「な、何なんだそれは!?」
「ほら、お前ら今度の秋頃に織斑一夏と接触するんだろ?その時に使ってほしいんだと」
便利と言えば便利かもしれないが、そんな物が無くとも自分の実力ならば奴を瞬殺できると断言できる。技術班には悪いが、本音を言えば無駄なものを造ったなと言っ……
「さぁて、十六連コンボの時間でーす」
―――目の前で指をベキベキ鳴らしながら言わないでくれ…本当に怖いから……
「ちょ、待てセヴァス!! 私が悪かった、だから少し落ちつ…」
「お祈りは済ませたか? 遺書は書いて来たか? 墓標の手配はしといたか? 葬式は和式でOK?」
「聞 い て !!」
待て待て待て待てぇ!! いくら自業自得とはいえセヴァスのパンチだけはああぁぁぁあぁ!!
―――ゴソッ…
「痛ってえぇ…」
「ッ!!」
突如塞がる視界…どうやら、いつのまにか床で気絶していたオランジュの後ろに逃げていたらしい。そして、タイミングがいいのか悪いのか、奴は迫りくるセヴァスの拳と私の間で立ち上がってしまい…。
「……アーメン…」
「へ?」
セヴァスの拳は吸い込まれるようにオランジュのボディーへと進んでいき…
―――ズドオォン!!
「がぺらてとらッ!?」
「「……あ…」」
オランジュ、本日二度目のブラックアウトである…。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「冗談抜きでお腹と背中がくっつきそうになったぜ…」
「「……すまん…」」
この短時間で二回も意識を刈り取られる羽目になったオランジュ。数分後、どうにか起き上った彼の顔色は明らかに悪かった…。
でも、よく考えたら俺が飢え死にしかけた原因の一人だから別にいっか…
「で、お前は何しに来たんだよ…」
「ん、私か…?」
そういえばそうだ。今度はいったい何をしにきたんだろうね、こいつは?この前の謝罪…では無いだろうな絶対に……何が『この前はやっちゃった♪テヘッ♪』だ…。
ま、ちゃっかりその瞬間を部屋のカメラが撮らえているんだが。今度、スコールの姉御に送ってやろうかな…。
「近いうちに『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のコアを強奪する予定なんだが、しばらく拠点を日本にしていたせいで準備に時間が掛かるそうだ。準備がととのうまでの数日間は自由に過ごしていろとスコールに言われてな…。」
「たまにはスコールの姉御たちと過ごせよ、コミュニケーションは大事だぞ?」
「いや、むしろあの二人にとって私は御邪魔らしい。そして私はノーマルだ…」
「「……。」」
何も知らない奴が聞いたら首を傾げるところだが、俺とオランジュはその言葉の意味が分かった…。スコールの姉御と、マドカの同僚であるオータムは百合である。この準備期間中の間、二人はずっとお楽しみ中のようだ。
「というわけで、とりあえず出掛けたんだが……他に行くところが思いつかなかった…」
「……そうか…」
「むさ苦しい所だが、ゆっくりしていけ…」
お前もまた俺達とは似て非なる苦しみを味わう者だったんだな…。せめて、この滞在時間中に疲れを癒していけ。
「ところで今は何時だ?」
「んあ?……えっと、12時半だな…」
随分と激しい運動をしたせいでもあるだろうが、やけに腹が減って来たと思ったらもうそんな時間だったのか。
「どこかに行かないか?」
「飯食いに? でも、俺達あいつの監視しないといけないんだけど…」
夏休みに突入した現在、多くの生徒たちが実家に帰るなり何なりしたが、織斑一夏は依然として学校に残っていた。自宅に帰ったところで誰も居ないし、唯一の肉親も基本的に学園に残っているので当然といえば当然である。
そんなわけで今も俺達は一夏の監視を続行中である。因みに、今あいつはセシリアを除いた一夏ラヴァーズとランチタイムと洒落込んでいる。セシリアは実家に帰ってやらねばならないことが山積みになっているそうで、やむなく帰国することになったらしい…。
「そんなのオランジュに任せれば良いじゃないか」
「ついさっきの仕打ちを受けた俺にそれは酷くね!?」
「おぉ、その手があったか」
「おいぃ!?」
オランジュが加わったここ最近は偶に交代しながら外に飯を食いにいったりしている。刑事の張り込みみたいなことをやってると、食事も似たようなもんになる。やっぱりコンビニで買えるような食糧ばっか食ってると飽きるしな…
「じゃあ、どこに行こうか?」
「ねぇちょっと…!!」
「割と近くに隠れた名店があるらしいが、行ってみないか?」
「俺の話を聞い…!!」
「隠れた名店…中々に魅力的な響きじゃないか。よし、そこに決まり」
「では、早速…」
「聞けええええええええええええええええええええええええええ!!」
何度か近場の飲食店は巡ってみたが、隠れた名店と呼べるような場所は無かったな。これはマドカの言う店に期待してみよう…
「てめぇら無視してんじゃねええええええええええええええええええええええええええ!!」
「うるさいぞ阿呆専門」
「どうしたんだ阿呆専門」
「阿呆専門って何だあああああああああああああああ!?」
脳内メーカーに自分のコードネーム入れて自身の四字熟語チェックしてみりゃ分かる。それにしても騒がしい野郎だ…別に後で行くか先に行くかの違いだろう…?
「いや、何でナチュラルに俺が独りになることが確定してるの!?」
「私がお前と一緒に行く訳ないだろ」
「んな殺生なこと言わないでよマドカさん!!」
「気安くその名前を呼ぶな、気持ち悪い」
「……セヴァス君、エムさんが冷たいです…」
「オランジュ、お前にセヴァスって呼ばれた瞬間に鳥肌が…」
「お前らって実は俺のこと嫌いだろ!?」
そんなこと無いって。でもこの呼び名ってマドカにしか言われ慣れてないから、他の奴に呼ばれるとちょっとアレなんだよ。
マドカの場合は…そう呼ばせたい相手と呼ばせたくない相手が居るらしい。マドカの素性を知っているスコールの姉御はあえて『エム』と呼んでいるが、オータムとかはどうなんだろうな?
「いやオランジュの場合、名字で呼ぶならまだしも下の名前で呼ばれるのは嫌…という感覚に近い」
「納得した」
「……もういいよ、お前ら。さっさと行ってきやがれ…」
そう言って影を落としながらパソコンに向き合い始めたオランジュ。ちょっとからかい過ぎたかもしれないが、俺達3人が揃うとこんなやり取りになるのはいつものことだ。
「で、その店の名前って何なんだ?」
「あぁ…えっと、確か……」
―――五反田食堂
何か聴いたことあるような…?
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