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久遠の神話

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第百三話 幻術の終わりその六

「この様な歌ははじめてだ」
「神でもです」
「例え貴女達でもだな」
「この様な歌は歌えません」
「絶対にだな」
「そうです、ですから」
 それ故にとだ、またマガバーンに言う声だった。
「貴方は余計に」
「しかし勝つ」
 マガバーンはここでも剣を振った、そうして。
 花にニンフ達、それに歌だけでなくだ。
 セイレーン達に美しい翼の少年も向けた。彼はというと。
「エオスですか」
「愛を結びつける神だ」
「そして全ての女性を魅了する」
「この神ならばだ」
 セイレーン達も、というのだ。
「魅了出来る筈だ、これまでのエリュシオンに加えてな」
「はい、確かに」
「彼女達もこれで」
「魅了されます、ですが」
 それでもだというのだった、声は。
「彼女達が魅了される前に」
「その前にだな」
「貴方が。この歌声に魅了されれば」
「それにより我を失えば」
「力を失い」
 それによって、というのだ。
「貴方は海の底に落ちてしまいます」
「そうなるな」
「最早一瞬です」 
 マガバーンがセイレーンの歌に我を失うのは、というのだ。
「一瞬でもです」
「私が魅了されれば」
「それで終わりです」
「どちらが先か、だな」 
 マガバーンは強い声で言った。
「魅了されるのか」
「どちらが先にそうなるかです」
「そうなるな、しかしだ」
「それでもですか」
「私は勝つ」
 必ずとだ、まだ言うマガバーンだった。
 そしてだ、そのエオス達を見守った。すると。
 セイレーン達はエオスに惹かれ彼の周りで舞いはじめた。まるで恋を求めるかの様に。そうしてだった。
 僅か、ほんの僅かだった。だが。
 歌に注意が向かわなくなっていた、エオスに惹かれる分だけ。そしてさらにエリュシオンとニンフ達の歌と舞い、花達と彼に惹かれ。
 歌が止まった、その瞬間に。
 セイレーン達が消えた、そうして。
 歌姫達に代わって夥しい金塊がマガバーンが先程までいた海岸に出ていた、それが出た感覚を感じ取りながら。
 マガバーンは確かな顔でだ、声に言った。
「まさに一瞬だったな」
「はい、確かに」
「あと少しでだった」
「貴方が先に、ですね」
「心を奪われるところだった」
 セイレーンの歌、それにだというのだ。
「危うくな」
「では、ですね」
「私は勝った」
 今確かにだというのだ。
「神さえ恐れる歌にな」
「そのお力で、ですね」
「私の幻は今最高の幻になった」
 マガバーンは振り返らない、海の上に立ったままで言う。
「そして今だ」
「終わるのですね」
「これでな」
 遂に、というのだ。
「そうなるのだ」
「そうですか、それでは」
「これで降りさせてもらう」
 彼もだ、そうするというのだ。
「後は彼に任せる」
「それでは」
「わかっている」
 マガバーンは声の言葉に応えた、そしてだった。
 海の上を剣士の力を出したまま戻ってだ、そうして。
 セイレーンが遺した金塊の前に来てだ、その剣を彼から見て水平に置いて。
 戦いを降りることを宣言した、それと共にだった。
 剣は消えた、こうしてだった。 
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