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フォーク

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第三章


第三章

「銀のフォークだ」
「そうだな、間違いない」
「これは」
「一緒になったんだな」
 ここで市民の一人が言った。
「あの連中もな」
「一緒になった?」
「それはどういうことなんだ?」
「一体」
「銀の食器は貴族達が使っていたな」
 このことを言ったのである。
「そうだったな」
「ああ、そうだったな」
「そういえば」
「それと同じだ」
 そうだったというのである。
「貴族達と同じになっていたんだ」
「そうだったのか」
「あの連中も」
「自分達が憎み倒した連中と同じになっていた」
 彼はそのフォークを見ながらさらに話す。
「お笑い草だな」
「そうだな」
「けれどな。またこんなことになったらな」
「もっとお笑い草だな」
 皆このことを思うのだった。そのフォークを見ながらだ。
「それこそな」
「どうする?それで」
「このフォークは」
「こんなものはもう作らない方がいいだろう」
 最初にそのフォークを見つけた彼の言葉だ。
「二度とな」
「じゃあ捨てるか」
「こんなものは」
「それか戒めに飾っておくかだな」
 こうした考えも出されたのだった。
「博物館にでもな」
「二度とこんなことにならないようにか」
「その為の」
「ああ、戒めだ」
 まさにそれだというのである。
「もう貴族も監獄国家も御免だ」
「全くだ。どちらももう沢山な」
「どちらもいらない」
「こんなものもだ」
 誰もがそのフォークを忌々しげに見ていた。そうしてそのフォークはというと市民革命博物館と名付けられたこれまでにこの国で起こった二度の革命における歴史的資料を集めた博物館に収められた。そうしてそこにはこう書かれたのである。その文章というと。
『腐敗した貴族、そして堕落した革命の象徴』 
 こう書かれていた。今この国では銀の食器を使うことは法律で禁じられている。そしてその歴史も教えられている。二度と貴族の専制も監獄国家も起こらないようにする為にである。それがこの国の歴史であり博物館に収められている銀のフォークの話である。


フォーク   完


                 2010・2・10
 
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