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不細工な王様

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第六章

「全部ね」
「今日のお昼は王宮の田畑の分は夜にたっぷり回して」
「国民の人達が一杯贈ってくれたから」
「それを腐らせたらいけないから」
 今日はハヤシライスにしたのだ、国民からの贈りものを使って。
「そう王様が仰ってね」
「そのお心遣いが素晴らしいわね」
「それじゃあまさか」
「王妃様の仰ったことは」
 そのことはというとだ、ここで。
 アズチェンナはだ、王様とそして王様と仲良くハヤシライスを食べている王妃を見てそれでこう言ったのだった。
「お心かしら」
「王様のお心?」
「お心が綺麗だっていうの?」
「王妃様はそう仰ってるの?」
「そうだっていうの?」
「ひょっとしたらね」
 若しかしてだというのだ。
「そうじゃないかしらね」
「そういえば顔がよくてもとんでもない奴いるからね」
 こうした輩は本当に尽きない。
「ヒモになる位ならまだしもそれで暴力振るう奴とかね」
「いるわよね、そんな奴」
「お酒飲んで奥さんや子供に暴力振るう奴」
「何度も何度も浮気して愛人に子供産ませる奴」
「そうそう、家庭裁判所に行けば幾らでもそんな奴見るわよ」
「顔がいい奴でもね」
 そういう奴がいる、女官達は口々に言う。
「いるのよね、ぱっと見格好よくてもね」
「下衆がね」
「日本の歌舞伎の髪結い新佐みたいな奴」
 歌舞伎における伝説的な小悪党である、外見は粋でありいいものだがその中身はちんけなゴロツキに過ぎない。死んでも自業自得としか思えない典型的な輩だ。
「そんな奴いるからね」
「色悪みたいなのもいるから」
 顔のいい悪役だ、歌舞伎の役の一つだ。
「女でもそんなのいるしな」
「そうそう、悪婆ね」
 歌舞伎にはこうした役もある、艷っぽいが悪党なのだ。
「男も女もいてね」
「そうよね」
「そうした奴がいるから、世の中」
「人は顔じゃないのよね
「確かにうちの王様はね」
 完全に親しみを隠さない、そうした言葉だった。
「顔はよくないけれど」
「ルックスもファッションセンスもね」
 小柄で肥満していて薄毛でガニ股だ、揃い過ぎていると言っていい。
「ついでに言えば音痴でスピーチも不得意でね」
「動作も遅くてね」
「絶対にもてないタイプよね」
「王妃様と正反対よ」
 誰が見ても美人である彼女とはだ、比較にならないというのだ。
「それでもね」
「そう、とてもいい方だから」
「だから王妃様もそう仰ってるのかしらね」
「そうかも知れないわね」
「それだと思えてきたわ」
 またこう言うアズチェンナだった、ハヤシライスの白い御飯とソース、そしてスライスされた牛肉を同時に食べながらの言葉だ。
「王様を見てたらね」
「他人に手間はかけさせない」
「我儘は絶対に仰らない」
「そうしたことでも素晴らしい方だしね」
「そういう方だから」
「だって。お傍にいても見ていてもね」
 そのどちらでもだった。 
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