十戒
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第一章
十戒
確かモーゼだったと思う。
十戒、神様が定めた決まり。目の前にいる彼もそれに縛られている。
「明日は駄目なんだよ」
「どうしてかしら」
私は彼に醒めた目で返した、外見だけは格好いい彼に。
「明日は駄目かしら」
「ちょっとね」
「確か明日は日曜日ね」
「日曜は何の日か知ってるよね」
「いいえ」
本当は知っている、けれどあえて彼にこう突き放して返した。
「知らないわ」
「日曜は教会に行く日じゃないか」
「家族で?」
「そうだよ、日曜は休息日じゃないか」
一週間のはじめ、その時にまず休んでそれから働く。一週間はそう決まっている。
だからだ、彼もだというのだ。
「家族の皆で教会に行かないと」
「それで明日のデートはなのね」
「出来る筈ないじゃないか」
こう私に言うのだ、、必死の顔で。
「君もわかってる筈だよ」
「私は確かにキリスト教徒よ」
自分の信仰位はわかっている、けれど。
私はそのことについてはだ、こう彼に返した。
「けれどね」
「教会には行かないのかい?」
「日曜に行くこともあるわ」
本当にそうした日もある、けれど普段は。
「けれど気が向いたらね」
「そういうものじゃないだろう?信仰は」
「日曜に絶対に行かないと駄目っていうのね」
「そうだよ、それは絶対じゃないか」
「それで他にもよね」
「そうだよ、そもそも君は学校の決まりだって」
今度出して来たのは校則だった。
「守らないじゃないか」
「守っているものもあるわよ」
「校則は守るものじゃないか」
高校の校則、それもだというのだ。
「ちゃんと制服を着て、ちゃんと靴を磨いて」
「靴もなのね」
「そう、何でもちゃんとしないと」
「それで校則も完璧になのね」
「校則は守るものじゃないか、決まりだから」
「だから全部破ってはいないわよ」
私は必死に説教をする彼にあっさりと返した、まるで牧師さんみたいに説教を続ける彼に対して。
「守っている方がずっと多いわよ」
「だから全部じゃないと」
「堅苦しいことは嫌いなのよ」
私はありのまま言った、私自身のことを。
「教会も何時でも行っていいものでしょ」
「違うよ、教会だって」
「牧師さんは来てくれたら喜ぶわよ」
実は教会は嫌いじゃない、行くと心が落ち着く。
それに行きつけの教会の牧師さんはいい人だ、それでこう彼に答える。
「だからいいじゃない、それにね」
「それに?今度は何だよ」
「私達こうして一緒にいる様になって結構経つわよね」
私の方から言った、交際期間のことを。
「そうよね」
「それがどうかしたのかい?」
「それでもキスもまだじゃない」
このことはくすりと笑ってだ、彼に誘う様に言った。
「そうでしょ」
「キスだなんてとんでもない」
彼はキスと聞いただけで顔を真っ赤にさせた、とはいってもそれは恥ずかしいからではなくて別の理由からだ。
「そんなことは」
「学生のうちはっていうのね」
「そうだよ、とてもだよ」
してはいけないというのだ。
「神も定められてるね」
「汝何とかかしら」
「うん、汝姦淫するなかれだよ」
「「別にいやらしいことじゃないわよ、キスは」
「キスだけで充分だよ、そんなことはね」
どうかとだ、彼はここでも牧師みたいに私に必死に説教をする。
「結婚してからだよ、校則でも書かれてるじゃないか」
「不純異性交遊はっていうのね」
「そう、だからね」
「絶対にっていうのね」
「絶対に駄目だよ」
また言う彼だった、やはり必死に。
「本当に君は」
「不真面目っていうのね」
「そんなことでは駄目だよ」
真面目な人の決まり文句がここで出た。
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