パンデミック
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第五十八話「2度目のブラック・アロー作戦」
―――【爆撃機内部】
支部長の指示で開始することになった、2度目のブラック・アロー作戦。
目的地は旧メキシコ・レッドゾーン"エリア27"。
爆撃機の中にいるのは、クラウソラス、カラドボルグのメンバーのみだった。
しかし、メンバーに混じって当時の新兵達の姿があった。
彼等は自ら志願して参加することになった。
当時の新兵達の介入に支部長は反対したが、ヴェールマンとタガートの説得で許可が下りた。
「…………タガート…………私はお前の判断を認めない。だが、お前のおかげでブランクを戦力に戻せる作戦
が展開された。それは感謝する。………二度と仲間を犠牲にしようとするな」
「…………申し訳ありません」
ヴェールマンとタガートが、お互い小声で言葉を交わす。
「………………懐かしいな、この空気………」
ソレンスがぼそっと呟いた。
ソレンスの言葉に、オルテガとユニは静かに頷いた。
「……………この場にフィンがいりゃあなぁ……」
「………やめろ、オルテガ」
「今悔やんだって………しょうがないよ」
3人が思い出す"フィン"という同期の新兵の存在。
彼はブラック・アロー作戦で死んだわけではないが、共に"エリア27"という地獄をくぐり抜けた。
1度目のブラック・アロー作戦で目の前にいた戦友は、今はもういない。
「大丈夫だよ、君達なら。あの頃とは見違えるほど強い兵士になったんだから」
クレアは3人に優しい穏やかな表情でそう言った。
「そうだぜ、新兵共。いや、"元"新兵共か。暗いツラしてたら実力なんて発揮できなくなるぜ?
それに…………死んでいった奴等に失礼だ」
クレアの隣にいたレックスが、気迫のこもった表情で3人に言う。
「…………そうですね」
「あ~クソ! 悪いなフィン! 俺ぁ暗いツラすんのやめるよ!」
「うん、私も……落ち込むのやめる。死んだ人達に顔向けできなくなるから……」
「……………………アイツら、いい面構えになったな。そう思わねぇか? ブランク」
ソレンス達の様子を見ていたネロは、ブランクの顔を見て問う。
ブランクは安堵したような表情でソレンス達を見ている。
「あぁ、あの時の新兵達が………あんな面構えになるんだな」
「…………頼もしいことだな」
―――【レッドゾーン"エリア27" ゲート前】
クラウソラス、カラドボルグ、そして当時の新兵達が集合し、ゲート前に整列している。
「全員聞こえるな? 本作戦は、失敗したブラック・アロー作戦の完遂を目的とする。本作戦は支部長の
指示でクラウソラス、カラドボルグのメンバーのみで遂行することになった。
いいか? 精鋭部隊と言えども、所詮人間の集まりだ。油断することもあるし、不測の事態も起こりうる。
前回の作戦で感染者数は半分近くに減らすことができたが……それでも相当数残っている。
囲まれれば、我々でも生存確率は低くなる。それだけでなく、突然変異種も徘徊している。
…………だが、私は諸君の実力を信頼している。必ず生きて帰ると信じている。
クラウソラス、カラドボルグ、そして志願して自ら来た兵士諸君。…………………これは命令だ。
全員で必ず、生きて本部に帰還せよ!!」
「「了解!!」」
こうして、2度目のブラック・アロー作戦は開始された。
―――作戦開始
チーム編成は以下の通り。
クラウソラス メンバー合計32名
1チーム4人で、8つのチームを展開。
カラドボルグ メンバー合計15名
1チーム3人で、5つのチームを展開。
志願兵 合計24名
1チーム6人で、4つのチームを展開。
―――作戦開始から5分
ブランクとレックスは、周囲を警戒しつつレッドゾーンの中心部に近づいていった。
ふと、レックスはブランクの様子が気になった。
ブランクは周囲をキョロキョロと見回している。見ているのは地面ばかりだ。
「ブランク、何してんだ?」
「………………俺の、もう一つの義務を果たしたい」
「もう一つの義務?」
「………死んで置き去りにしてきた新兵達の遺品を、少しでも多く回収したいんだ」
その言葉を聞いた瞬間、レックスはブランクが何を考えているかを理解した。
「ずっと………悔やんでたんだな………新兵達の死を」
ブランクは否定しなかった。
「…………力を持った者は、他人を助けるためにその力を使え………司令の言葉だ。でも俺は……………
力を持っていながら、新兵達を助けてやれなかった。……それが悔しくて仕方がない」
「……………この作戦はお前の進退だけじゃない。新兵共の無念と屈辱も懸かってるんだ。………頼むぜ」
「あぁ………分かっている」
2度目のブラック・アロー作戦に参加した兵士達は、主に3つの思いを抱えてこの作戦に参加している。
ブランクの今後のため。
生きて本部に帰還するため。
新兵達の無念と屈辱を晴らすため。
全員が同じ思いを胸に、作戦の完遂を目指す。
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