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クズノハ提督録

作者:KUJO
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クズノハ提督始動



葛葉は困惑していた。目の前の二人の少女に。
「えーと、どっちが(いかずち)でどっちが(いなづま)だっけ?」
「私が雷よ!」
「私が電なのです」
「まだ自信が持てないな…こりゃ」

葛葉が間違えるのも無理はない。電と同じ暁型の三番艦である雷だが、この二人非常に似ているのだ。名前だけでなく、姿も双子の姉妹かと思われる程似ている為、よく間違えられるのである。本人達曰く、
「郵便物の誤配なんて日常茶飯事だったわ」
「よく交換してたのです…」
とのこと。

「そりゃ間違えもするだろうな…まぁ、何はともあれよろしくな!えーと、雷!」
「よろしくね!司令官」
「改めて私もよろしくなのです」
こうして新たなる仲間『雷』が艦隊に加わった。




建造ドックから出て三人は桟橋へと向かっていた。
「進水式はいつぐらいに…ってもう終わってるじゃないか!」
「へ?気付かなかったの?私たちが話してる内に妖精さん達が運んでたじゃない。」

葛葉が驚くのも無理はない。船の進水は普通談話している内に済む様な仕事ではないのだ。

「あの妖精さんって…一体何者なんだ…」
「妖精さんは妖精さんなのです」
「しいて言うなら…ご都合主義の塊かしら?」
「お姉ちゃん!?」
「メタ発言よくない」
…経過はどうあれ、これにて雷もいつでも出撃できるようになった為提督としては喜ばしい事なのだが、何とも呆気ない進水に葛葉は納得のがいかない様子であった。





「…さて、早速だが出るか」
「出るってもしかして…」
「出撃だ。鎮守府(ここ)のすぐ近くに敵が来たようだ。見張りによると駆逐艦二隻とのことだが、初陣だからな油断せずに行こう」
「はーい!司令官。行っきますよー!」
「電の本気を見るのです!」
三人は勢いよく飛びだして行った。


「…またこの姿で戦えるなんてね」

「ん?何か言ったか?」
「なんでもないわ!早く行くわよ電!」
「え、えーと燃料よし弾薬よし、準備万端な…あぅ!」
「何もないところで転んだ!?」








ーー天気晴朗なれども波高しーー


「駆逐してやるっ!」
「司令官さん、それ違うのです…」
「一度言ってみたかっただけだ。気にするな」
葛葉は電と共に『駆逐艦 電』の甲板の上に立っていた。ちなみに雷は随伴艦の『駆逐艦 雷』に乗り込みその時を待っている。
「あと、ここにいると危ないのです…」
「敵発見次第司令塔に逃げ込むから大丈夫だ。一人だと寂しいからな…」
酷く情けない提督である。
《電?司令官?聞こえる?》
「はわわわっ!?びっくりしたのです!」
突然電の身体から声が発せられ、電が慌てふためき飛び上がった。
「その声は雷か。通信機能でも付いてるのか?」
《試してみたけど上手く行ったみたいね!実はね…》

雷曰く、艦娘が軍艦の化身であるならばその体内にも通信機器が備わっているのではないのか、と思い試したとのこと。

「便利な機能だな…電、それってどこから声が出てるんだ?」
「え、その…私もよくわからないのです…」
《あんまり女の子の体をジロジロ見ちゃ駄目よ!》
「し司令官さん!?」
「え、そんなつもりは…すまぬ」
本人は気をつけている様だが、もしかすると変態提督の烙印が押されるのも時間の問題かもしれない。


《ん?あ!一時の方向より敵艦隊発見!駆逐艦二隻かしら?》
「来たのです…あれ、司令官…」
電が振り向いた時、そこには既に葛葉の姿は無かった。
「よかったのです…ちゃんと戻ってくださって」
葛葉が聞いたら情けなさで泣き出しそうな言葉を呟きながら、電は敵を振り返った。
「なるべくなら、戦いたくはないですが…」
暫く目を閉じて深呼吸し、覚悟を決め艤装を構える。
「妖精さん達もよろしくお願いします。」
砲塔にてその時を待ち構えている妖精さん達に一言声をかけ、電は前方より迫る二隻の敵艦を見据えた。
「とりあえず左に旋回するのです。」
《左に旋回ね?》
二人は一時の方向より迫り来る艦に砲撃を加えられるよう、左に旋回を始めた。

「…そろそろ射程範囲に入るのです」
《号令は任せたわ》
敵艦隊が射程範囲に入るまで残り三秒

「…もうすぐ」


残り二秒


「あと少し」


残り一秒


「……すぅ…」


残り零び「待て!電!!」


「打ち方やめーーーー!!なのです!」
《まだ始めてすらないわよ!?》

全員の緊張感が一瞬で砕け散った。




「…司令官さん?」
《一体どうしたのよ司令官?電の通信まで使って…》
葛葉は電の艦船の方に取り付けられた通信機器を使い、攻撃を止めさせた。この際、電には体の中から突然葛葉の声が聞こえてくる為、否が応でも飛び上がってしまうのは明らかである。
「前は狙うな!後ろの艦のみを狙え!」
「う、後ろのみ…?」
電が首を傾げていると突然前方から叫び声が聞こえてきた。


「うわぁぁん!!そこの二隻もしかして艦娘っぽいー!?ちょっと助けてー!!」



「…どうやらあの子、後ろの敵艦に追われてるみたいだな」
「はは早く助けなきゃなのです!」

《狙うは後続艦のみ!打ち方始めー!!》
前方の艦娘が二隻を避ける形で進路を変えた瞬間、雷の号令により『駆逐艦 雷』の主砲が火を吹いた。

「なのです!」
電の号令なのか口癖なのかよくわからない一声によって、『駆逐艦 電』も砲撃を開始した。





「これが、戦場…」
葛葉はたった一人で硝煙と弾薬が飛び交う戦場を見つめていた。
戦場はビデオでならカリキュラムの中で何度も見た。しかし、実際に体験するのは無論生まれて初めてである。平成の世に生まれ、戦争とは全く無関係な生活を送ってきた彼にしてみれば、これ程に環境の違いを見せつけられることなどまず無いだろう。
しかし、彼は気を呑まれることもパニックに陥ることもなく、何故か平常を保っていた。
「何だか…非現実的だな。でも現実なんだよな」





一際大きな爆発音が響いた。
葛葉は我に返り、戦場を見渡した。
《あう…》
「い、雷!?」
「お姉ちゃん!?」
《なによもう、雷は大丈夫なんだから!》
煙は雷の方から上がっていた。
《え、火災!?消火しなきゃ!》
火のないところに煙は立たぬとばかりに、雷の甲板からは火の手が挙がっていた。
「ぐ…雷は消火活動に専念!誘爆を防げ!電はそのまま砲撃続行!」
「りょ、了解なのです!」
中破した雷の仕返しとばかりに電の主砲より砲弾が放たれるものの、敵の予想以上の機動力により全て避けられてしまう。
「速い…」
「狙いが定まらないのです!」
敵は一隻こちらは二隻なのにも関わらず、葛葉達は明らかに苦戦していた。それもその筈、葛葉達はこれが初陣であるのに対し、敵の駆逐艦は広大な海より単独でやって来た強者。練度の差は歴然である。
「くそッ!これが練度の差って奴かよ…」
「司令官さん…」
電が声をかけようとしたその時

「じゃあ、動きを止めればいいっぽい?」

「「え?」」
次の瞬間、二人は目を疑った。

先程まで追われて逃げていた筈の船が敵艦に突撃接触しているではないか。
「お、おい!!何やってる!今すぐやめ」
「早く!これあんまり持たないっぽい!」
電は我に返り、全神経を一点に集中させた。


「…命中させちゃいます!」


そして今日一番の爆破音が鎮守府近海に鳴り響いた。





「衝突するなんて初めてっぽい〜!」
「無茶するな!勢いが無かったから軽傷で済んだが…下手すると轟沈だってあり得るんだぞ」
文字通り体当たりな戦い方で敵艦を轟沈させた三人は、途中で合流した艦娘と共に母港へ戻っていた。
「修理、ちょっと時間かかるかも…ごめんね」
「いや…よく頑張ったな。ゆっくり休んで来な」
「ありがと!司令官」
そう言って雷は入渠ドックへ走って行った。
「お前達も休んで来たらどうだ?」
「私は大丈夫なのです」
「じゃあお言葉に甘えて!ごっはん〜ごっはん〜」
通りすがりの艦娘も入渠ドックへと入って行き、葛葉と電の二人だけになった。
「無事に勝てたのです」
「そうだな」
「…皆無事に戻れて良かったのです」
「そうだな」
「でも、沈んだ敵も出来れば助けたかったのです…」
「そうかな」
「…やっぱりおかしいですかね?」
「気持ちは分からなくは無い」

こうして葛葉提督は無事に初陣を勝利で飾ったのであった。
 
 

 
後書き

はい、どうもKUJOです。
前書き、というかあらすじを書くのを早くも断念しました。


さて、今回はかなり更新が遅くなってしまいました…。
第3話にしてこの速度…申し訳ありません。


相変わらず、アドバイスやこここうした方がいいよ、などの声を募集してます。よろしければお願いします。


では。 
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