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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第二十九話  木山先生と普通に会話


「ここはさすがに涼しいな」

「そうですね」

 セブンスミストに到着して休憩所のような場所でテーブルを確保すると、御坂さんを残して木山先生と俺は自動販売機でジュースを買っている。さすがにホットのスープカレーを飲む勇気など今の俺にはないので、御坂さんには悪いが俺は自分の分だけを買っているのだ。

「ちょっと変わってるけど普通にただの人よ……」

「変わってる……というのは私のことかな?」

 御坂さんが確保しているテーブルに戻ってみると御坂さんは電話中だった。その会話を聞いた木山先生が御坂さんに尋ねる。

「そ……そんなわけないじゃないですかぁ、いやだなぁ。今日初めて会った人に向かって変わってるなんて……。ん?」

 御坂さんは即座に電話を切り、必死になって言い繕っている途中で木山先生がスープカレーを置くと、御坂さんはそれが何か分からないような反応を見せた。

「付き合ってもらうお礼だ」

「あ……いただきます」

 木山先生の説明を受けて御坂さんはお礼を言いつつスープカレーを手に取る。

「な……何でホット……。しかもスープカレー……」

 手に取った時の缶の温度に驚いた御坂さんが思わず呟いていた。

「暑い時には温かい飲み物のほうが良いのだよ。それに、カレーのスパイスは疲労回復の効果があるからね」

「ま……まぁ、理屈は分からなくもないですが、気分的には冷たいものが飲みたいかなーなんて……」

 木山先生がスープカレーを選んだ理由を説明する。しかし、御坂さんも理屈は分かっているけど納得が出来ないようだ。

「気分……か。若い娘さんはそういう選択の仕方をするものだったな。買いなおそう、何がいい?」

「いえ、いいですいいです。お気持ちだけで充分です」

 木山先生は再びジュースを買うために立ち上がろうとするが、そこは御坂さんが引き止めた。

「すまないね。研究ばかりしているせいか、理論的に物事を考える癖が付いてしまってね」

「でも理論的に考えるなら、冷たいスポーツドリンクもアリでしょ」

 木山先生の自己分析を聞きながら、俺は飲んでいるスポーツドリンクの缶を見せて自分の考えを口にしてみた。

「おや、どうしてそう思うんだい?」

「体を冷やさないとか疲労回復とかの部分で言うなら確かにスープカレーもアリですけど、水分補給という点では冷たい飲み物のほうが吸収が早いですからね。吸収効率の高いスポーツドリンクでも充分理論的だと思いますよ。まぁ、疲労回復を取るか水分補給を取るかの違いですけどね」

 どうやら興味を持ったようで、木山先生に聞かれた俺は持論を展開する。まぁ、これは元の世界で日射病と呼ばれていたものが熱中症と名前を変えた頃に、テレビで熱中症のメカニズムや対策などが特集されていた番組を見てから、それを元にして自分なりに考えた理論である。

「ほぉ、君もなかなか考えているんだな。確かに水分吸収の効率を考えれば君の意見も頷ける」

「っていうかアンタ、なんでそんなに詳しいのよ!?」

「えー、普通にテレビ見てたらそんな番組やってるでしょ。『おもいきったテレビ』とか『発掘あるある大百科』とか『世界一受けたい講義』とか見てたら自然に知ってたけど……」

 木山先生に感心されながらも御坂さんには問い詰められたので、俺は普通に答えておく。元の世界での情報とこの世界のテレビ番組で見た情報に、それほどの違いがなかったのは助かった。

「私もたまに見てるけど、そんなこと覚えてないわよ!」

「俺だって自然に覚えてただけで、覚えようと思ってテレビ見てるわけじゃないし」

 俺も別に完全記憶能力を持っているわけではないので、テレビで見たことの全てを覚えているわけではない。ただ、何が基準で覚えている情報と覚えていない情報の線引きがされているのかは自分でも分からないのである。

「君はそういう番組が好きなのかい?」

「まー、そうですね。ところで、木山……教授? は論文とか書かれてますよね?」

 木山先生に聞かれて答えるが、この辺で少しレベルアッパー関連の話に持って行こうと思う。木山先生の反応で俺のことをどこまで把握しているのかを確認するためである。

「教授という立場ではないから、そうだな、先生……ぐらいにしておいてもらえないだろうか。それから、論文は当然書いているよ。これでも研究者だからね」

 一応、木山先生というのはアニメでの呼び名だったので俺は教授と呼んでみたのだが、木山先生自身が木山先生と呼ばれたいようだ。特に「先生……」と言った時の表情はあの子供達の先生をやっている時のようだった。そして、これで晴れて「木山先生」と呼ぶことが出来るようになったわけである。

「確か、俺が見た論文の中に木山っていう名前で出されてるものがあって、しかも名前の読み方が分からなくて“はるなま”って読んでたんですよね。もしかしたら“はるみ”って読むのかなと思いまして」

 恐らく木山先生の“春生”という名前は知らない人から見れば簡単には読めない名前なのではないだろうか、ということで俺はそこから話題を振ってみたわけだ。

「ああ、それなら確かに私の論文で間違いないだろう。しかし、君は私の書いた論文まで読んでいたのか」

「アンタ、何でそんなもん読んでるのよ!?」

 話題として論文から入り、木山先生には俺が論文を読んだことを知ってもらったわけだが、そこに御坂さんからのツッコミが入った。

「うわぁ、書いた人の目の前で“そんなもん”なんて良く言えるねー」

「えっ!? いや、そういう意味で言ったわけでは……」

 俺の言葉に御坂さんがうろたえる。

「ああ、気にしていないし言いたいことは分かっている。というか、私もなぜ君が私の論文を読む必要があったのか気になるんだが、どうなんだい?」

 木山先生はやはりいい人のようで、御坂さんにフォローを入れている。そして、木山先生に尋ねられたのでここからが本題である。ただ、御坂さんには“レベルアッパー”という単語を聞かせるわけにはいかないので、ここからは慎重に言葉を選ぶ必要があるだろう。

「まぁ、何というか……ぶっちゃけて言いますと、脳に過剰演算をさせるような実験の被験者にされまして、脳のオーバーヒートを防ぐにはどうしたらいいのか探してました」

 この話の元は、最初に暗部活動をした時、施設から子供達を助け出したことだったりするのだが、大半は俺の作り話だ。

「ちょっとっ! どういうことよっ!?」

「ほお、そんな実験をしているところがあったのか」

 御坂さんと木山先生がそれぞれ反応を示す。学園都市の闇を知らない御坂さんには、今後闇に触れるような事件に関わる時の為に、この辺で少し闇に関わるような話をしておいて、実際に関わってしまった時のショックを少しでも減らしておこうと思ったのだ。

「他の論文なんかも色々読んで何とか対策は出来たんで今は大丈夫だよ。俺の場合は何も知らされてなくて実験に参加させられたけど、他の人は危険性まで充分承知して参加してたようだしね」

「な……何やってんのよ!」

 俺は御坂さんに対して説明をしていく。その際に木山先生の反応を確認するが、特に変化は見られない。

「俺はともかく他の人は全員レベル0だったからなぁ。危険性を知っていても実験に参加してレベルを上げたかったんだろうね」

「……」

 俺の話に御坂さんは言葉を失っていた。

「それで、君は大丈夫だったようだが、他の子達はどうなったんだい?」

「そうですね、何人か倒れて病院に運ばれたとは聞いてますけど、後は多少能力の上昇が見られた程度でレベルが上がるまでには至ってなかったと思いますよ」

 御坂さんの発言がなかったこともあり、木山先生が尋ねてきたので俺は答える。ただ、あの施設から助け出した子供達がその後どうなったのかは俺も知らないので、俺の答えはかなり適当である。というか、あの施設に居た子供達が自分から進んで実験を受けようとしたわけではないだろうから、作り話の部分は最初からかなり適当だったりするわけだが……。

「そこまでしてレベルを上げたいものなのかい?」

「そりゃー上げたいでしょ。勉強の成績とは違って、レベルによって生活水準が圧倒的に変わりますからねー。まー、それだけじゃなくてレベルそのものが、身分制度の階級を表すぐらいに感じてる人だって少なくはないと思いますよ」

 俺のことではなく他の子供達のことを聞いてくる木山先生の疑問の方向から、俺がレベルアッパー対策をしていることにはまだ気付いてなさそうだと判断して普通に答える。もしかしたら気付いていて、その上で話の方向をそらそうとしているのかもしれないが、木山先生の気や意識の向け方などを見る限り大丈夫だろう。そう考えていると、今度は御坂さんのほうから声が上がる。

「レベルなんて関係ないじゃない。危険を冒してまでレベルを上げる意味あるのっ?」

「あるんじゃない? 御坂さんには及ばないけど俺だってレベル4なんだからそこまでは分からないし、それに学生の半分以上はレベル0なんだから考え方だってピンからキリまであると思うよ」

 御坂さんはやっぱりレベルに関する劣等感に鈍感らしい。今後の佐天さんのことも考えると、少し釘を刺しておいたほうが良いだろう。

「けど、初春さんや佐天さんには「レベルは関係ない」とか言わないほうが良いよ」

「どうしてよっ!?」

 俺の言葉に御坂さんが食って掛かる。まぁ、今の御坂さんなら仕方ないか。

「じゃー、御坂さんの同級生に巨乳の娘が居たとしよう。その娘から「胸の大きさなんて関係ない」って言われたらどう思う?」

「うぐっ!」

 単なる例え話なのに御坂さんにはかなりのダメージが入ったようだ。

「やはり、若い娘さんというのは胸の大きさが気になるものなのかな?」

「がはっ!!」

 木山先生の何気ない疑問に御坂さんは撃沈していた。

「わぁーっ」

 丁度その時アイスクリームを持った女の子が俺達のテーブルの横を走り抜けていった。当然この展開は次に男の子が走ってきて……。

「わっ!」

 テーブルの横で転んでしまい、木山先生のスカートにアイスクリームを落としたのである。

「ご……ごめんなさい」

 男の子が謝っていると、先に走って行った女の子も戻ってきて一緒に頭を下げていた。

「大丈夫、問題はないさ。なに、この程度の汚れなら洗えばすぐに落ちる」

 そう言いつつスカートを脱ぎ始める木山先生。子供達も一瞬ポカンとした表情になる。

「いや、だから脱ぐなって!!」

 いつの間にやら復活していた御坂さんの声で木山先生の動きが止まり、その時には子供達も顔を真っ赤にしていた。

「え?」

 木山先生がかなで表記するのが難しい発音をしながら首をかしげる。なんかちょっと木山先生が可愛く見える瞬間だった。

 御坂さんが木山先生の対処でがんばっているので、俺は子供達のフォローにまわっておくことにする。

「あれは学園都市第三位の超電磁砲にもダメージを与えられる攻撃の一つなんだ。あの大きいお姉さんは訓練してるから大丈夫だけど、普通の人は自分にもダメージが来るから良い子はまねしちゃ駄目だよ、分かった?」

「うん」

 俺の説明に子供達は頷いてくれた。とても素直でいい子供達だ。

「ちょっ! 子供になんて説明してんのよっ!」

 木山先生を連れてお手洗いへと向かっていた御坂さんから怒鳴られてしまった。結構離れてるのによく聞こえたな。

「あっ、そうだ。木山先生、駐車場に止めた車の種類と色を教えてください。あと、出来ればナンバーも」

「ああ、分かった。だが、手伝ってもらって本当に良いのかい?」

「もちろんです」

 お手洗いへ入る前に木山先生に声をかけて車種と色とナンバーを教えてもらう。あとは御坂さんが木山先生のスカートを乾かしている間にでも車を見つけてしまおう。
 
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