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つまらないもの

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第一章


第一章

                          つまらないもの
 柳生連はその転校生を見た。
 見ればすらりとした身体に整えた茶髪、そして何もかもを見越した様な目、自分だけを高みに置いた様なだ。そうした雰囲気の転校生だった。
 その転校生は前の学校のものと思われる随分と洒落たブレザー姿で教壇のところにいてだ。すかした感じの声でこう名乗るのだった。
「管実です」
「ああ、管君はな」
 彼の横にいる担任の先生がこう皆に言ってきた。
「前は東京の学校にいたんだ」
「えっ、東京の!?」
「東京の学校にいたのかよ」
「何か凄くない?」
「そうよね」
 それを聞いてだ。クラスの面々はざわざわとなった。彼等は誰もが野暮ったい黒い詰襟とセーラー服だ。髪型も古く化粧も何もしていない。和歌山市の校外から少し離れた片田舎の高校だ。流行とは離れた世界にいるのだ。
 その世界にだ。急に東京から垢抜けた彼が来たのだ。驚くのも無理はなかった。
 その彼の説明をだ。先生はさらに話す。
「お父さん、警視庁の人がこっちの方に転勤になってな」
「はい、和歌山県警のです」
 管はやはりすかした声で話す。高く澄んだ声だがだ。やはり上からの声だった。
「そこの本部長です」
「まああれだな」
 先生は少し咳払いをしてから話した。
「キャリアだな」
「キャリアってあの?」
「偉い人だよね」
「それよね」
「それになるわよね」
 また皆騒ぎだす。それとだ。
 今度は彼からだ。こう話すのだった。
「宜しく御願いします」
 不敵な笑みで挨拶をしてだ。彼はこの学校に入った。
 この学校は確かに片田舎にあるがレベル自体は高かった。実は県内の公立学校で屈指の進学校でありだ。勉強については厳しかった。しかしその中でだ。
 彼はトップだった。最初のテストでいきなり学年一位になったのだ。そのことにだ。
 クラス、いや校内の面々はだ。こう話すのだった。
「凄いな、いきなりトップか」
「しかも編入試験全教科満点だってさ」
「えっ、満点って凄くない?」
「かなり凄いわよ」
 こうだ。驚きと共にひそひそと話すのだった。
「そんな凄い奴だったんだ」
「うちの学校勉強はかなり厳しいのに」
「それでそうって」
「凄いよな」
「ああ、それによ」
 彼はだ。勉強だけではなかった。スポーツもだった。
「足速いしな」
「サッカーだって得意だし」
「体力検査でも抜群だし」
「物凄い奴だよな」
「こんな田舎に不釣合いな」
「そんな感じよね」
 こう話してだった。皆彼を憧れの目で見る様になった。そしてだ。
 連もだ。周囲の話を聞いて述べるのだった。
「管君ってそんなに凄いんだ」
「うん、凄いよ」
「あんな凄い奴いないよ」
「あんな人はじめて見たわ」
「ううん、そうなんだ」
 学校においては物静かでそうした話題には入らない彼もだ。あまりにも噂になっているので興味を持ってだ。皆の話を聞いたのである。
 それで聞いてだ。次第にだ。
 彼はだ。こう言うのだった。
「それじゃあさ」
「それじゃあ?」
「それじゃあって?」
「管君と一回お話してみようかな」
 こうだ。皆に話すのだった。
「そんなに凄い人だったら」
「うん、そうしたらいいよ」
「それだったらね」
 こうしてだった。連は管と話をすることにした。するとだ。
 
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