機動戦士ガンダムSEED DESTINY~SAVIOUR~
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desire 7 カガリ・ユラ・アスハ 2
前書き
続きです
私がオーブに戻った時、私に待っていたのは大西洋連邦との同盟であった。
世界が再び二分化して争いが始まった事を受けて、オーブでもこれに対応するべく首長会議が開かれていた。
カガリはオーブの理念…“他国の侵略を許さず、他国を侵略せず、他国の争いに介入せず”の精神に則り、あくまで中立の立場を貫こうとした。
しかし、そんな事もお構いなしと言わんばかりに大西洋連合から同盟の申し入れが入り込んでくる。
それに反発するカガリであったが、彼女以外の者はそれに応じようと言う気運になっていた。
カガリ「駄目だ!!大西洋連邦との同盟は組めない!!」
ウナト「ですがカガリ様、このままではまたオーブを焼くことになりかねませんぞ?」
カガリ「くっ……しかし、それではオーブの理念に反することになる!!」
カガリにとってオーブの理念は故・父ウズミから受け継いだ大切な形見みたいなものだったのだろう。
それを放棄する事は彼女には考えられなかった。
ユウナ「……代表はオーブの理念と国民の生命、どっちが大事なんです?」
カガリ「……!!?」
頑なに大西洋連合との同盟を拒もうとするカガリに突っ込みが入る。
ユウナ・ロマ・セイランである。
その見た目は長身の痩せ型で身に纏ったスーツが良く似合っていた。
癖のある淡い紫の髪は後ろで束ねられていて、その顔は自信に満ちている。
一目見た印象からはやや軽薄そうな印象を受けるが、彼はオーブ五大氏族の一つ、セイラン
家の長男であり、カガリの許婚でもあった。
そんな彼がカガリを責めるように問い詰める。
ユウナ「今、彼らと同盟を組まなければ、彼らは力づくにでもオーブを抑えようとしてきますよ?そうなれば当然侵略を許さないオーブの理念によってこの国は再び戦場となる……2年前と同じ轍を踏むことになります。代表はそれで宜しいのですか?」
カガリ「……いい訳が無い。だが、それではオーブの理念はどうなる!?お父様が守ってきたものを私に捨てろと言うのか!!?」
カガリが顔を紅潮させてユウナに怒鳴る。
そんなカガリを鬱陶しく思ったのか、ユウナは溜め息混じりに言葉を返す。
ユウナ「ふぅ……いいですか代表?あなたにとって国民の生命と国の理念、秤に掛けた場合どちらの方が重いのですか?」
カガリ「そ……それは……国民の生命に決まっている……」
ユウナ「なら、決まりでしょう。大西洋連合とは同盟を結ぶと言うことで」
ユウナがカガリから視線を外し、他の会議出席者に向き直る。
そんな様子にカガリは慌てて待ったを掛けた。
カガリ「ま、待て!!だからと言って理念を捨てることなど私には出来ない!!もっと話し合って他の道を……」
ユウナ「いい加減にしてください代表。これ以上は時間が待ってくれません。彼らが攻めて来てからでは遅いのですよ?……この国はあなたの玩具ではないのです」
カガリ「くっ……ぅ……!!」
ユウナの言葉にカガリは言い返すことが出来ない。
未だ政治家として未熟な彼女は余りにも理想を抱きすぎていた。
大きな理想を抱いていても、それを実現させる実力を彼女は持っていなかったのだ。
そんなカガリを嘲笑うかのようなユウナの言葉に、カガリは歯噛みして悔しがる。
そして、会議は大西洋連合との同盟を組むと言う形で閉会となった。
カガリは同盟の締結を止められなかった自分の無力さに憤りながら会議室を出る。
私は世話になった艦長に謝罪を言うべくミネルバに足を運んだ。
アレックス「ん?あれはアスハ代表じゃないか」
シン「え?」
カガリ「あ……」
私はシンを見て思わず言葉を詰まらせる。
シン「あの時オーブを攻めた地球軍と今度は同盟ですか?」
カガリ「え…?」
シン「何で地球軍と同盟なんかしたんです。」
カガリ「そ、それは…オーブを焼かないために…」
シン「だったら他に方法があったはずだろ!!中立を保つなら前にオーブを攻めた地球軍の落ち度を突くとか、プラントとの同盟をちらつかせて周りを黙らせるとか方法は沢山あっただろうが!!」
カガリ「だ、だが、オーブを復興したのは大西洋連邦で…」
シン「国を焼いたんだからそれぐらい当たり前だ!!場当たり的な対応ばかりしやがって!!」
その痛烈な言葉に私は何も言い返せなかった。
シン「敵に回るって言うんなら、俺があんた達を討ってやる!!」
そういうとシンはそのままその場を去っていく。
カガリ「あ…シン!!」
アレックス「失礼します。アスハ代表。この処分は後ほど必ず。」
アスランが私に頭を下げるとシンを追い掛けた。
カガリ「あ、待ってくれ、アスラン!!」
私が呼び止める声にアスランはピタリと足を止める。
そして私の方を向く。
アレックス「俺はアレックスだと何度言えば分かるんです?」
アスランはそういうと私に振り返ることもせずシンを追い掛けた。
その後、ミネルバは地球軍の攻撃を受けるが、アスランのセイバーとシンのインパルスが大型MAを撃墜し、状況が一変。
インパルスとセイバーが対艦刀を構えて地球軍空母を堕としていく。
地球軍が撤退していくのを見て、思わず私は安堵した。
そして私はユウナとの結婚式を控えていた。
キラ達に手紙を送り、セイラン家で物思いにふける。
そして結婚式当日。
私はユウナと結婚することになった。
どうして助けに来てくれないんだアスラン…。
ユウナ「カガリ、いい加減機嫌を直してくれないかな?そんなことしても君のお気に入りのお人形は来ないよ」
カガリ「っ!あいつは人形なんかじゃない!!」
ユウナ「はいはい。人形じゃないなら君の傍を離れるわけないからね。いい加減諦めたら?」
私は結婚しようとしている。
政治のために。
オーブで有力な力を持つセイラン家と婚姻することは、これから国を運営していく上で確かに大切なことだった。
結婚の宣誓を聞く。
隣ではユウナが、勝ち誇った笑みを浮かべている。
カガリ「(アスラン…)」
私が思うのはアスランのこと。
助けてアスラン…。
その時、空から見覚えのあるMSが舞い降りた。
カガリ「フリーダム…キラ!?」
フリーダムの掌が私を掴む。
そしてこの場を離れると私はフリーダムのコックピットに。
キラ「よいしょ、大丈夫?」
カガリ「な、何のつもりだキラ!!」
キラ「うわ、凄いねこのドレス。」
カガリ「…!?お前っ…」
キラ「ごめんね勝手に。でももうこうするしかなかったから…」
カガリ「な、何を言ってるんだ!!無茶苦茶だぞ!!国家元首をMSで攫うなど!!」
キラ「うん、でも今は…オーブが他の国を撃つのも、カガリがそれを撃つのも、世界がまたこんな風になっていくのも…止めたいと思ったんだ。黙って諦めちゃったら駄目でしょ?」
カガリ「………」
キラ「…今まで何もしてあげられなくてごめんね。でも今ならまだ間に合うと思ったから…」
カガリ「キラ…」
キラ「また見えてないけど道はあるよきっと…」
私はキラと共にAAに行く。
そして…。
その先で見たものは私の進んだ道の先で倒れ逝くオーブ軍人達の姿だった。
アスランやシン、ミネルバのパイロット達に墜とされていった者達。
私は泣き叫び見届けることしか出来なかった。
そして私はミリアリアからの連絡を受けてアスランと再会した。
アレックス「久しぶりというのかな。キラ、カガリ」
カガリ「アスラン、記憶が戻ったのか?」
記憶を取り戻して私の所に帰ってきたんだと思った私は笑みを浮かべる。
キラ「何で今、僕らに連絡を取ったの?」
アレックス「お前達に言っておきたいことがあり過ぎてな」
キラの言葉にアスランは苦笑していた。
アレックス「まず1つ、何であんな馬鹿な事をしたのかということだ。あれでは戦場が混乱するだけだ」
カガリ「なっ、お前が戦ったのはオーブなんだぞ」
キラ「オーブの戦闘を止めるためにはカガリが行かなくちゃいけなかった。だからこそ、僕達は戦場に出たんだ」
アレックス「ほう、まあ、お前達にどんな経緯と理由があったのかは俺は知らないし知る気もないが、あんな馬鹿げたことは止めてくれないか?」
カガリ「馬鹿なこと…?あれは、あの時ザフトが戦おうとしていたのはオーブ軍だったんだぞ!!私達はそれを…!!」
私が反論しようとした時、アスランから冷たい目で見られた。
アレックス「オーブ軍が無事ならミネルバの乗組員がどうなろうとかまわないのか?陽電子砲を破壊されてどれだけの乗組員が巻き込まれたと思っている!!それにあそこで君が出て素直にオーブが撤退するとでも思ったか!!オーブの主力がここにいるなら、連合を裏切れば簡単にオーブはまた焼かれるだろうに、オーブが連合を裏切れるはずがないだろう!!」
カガリ「う……」
アレックス「君がしなけりゃいけなかったのはそんなことじゃないだろ!!戦場に出てあんなことを言う前に、オーブを同盟になんか参加させるべきじゃなかったんだ!!…まさか、出兵の強要を想像もしなかった訳でもないだろう?2年前、オーブのマスドライバーの使用を強引に求めたのも、地球連合だ。……オーブを焼かないために、他国を攻める選択をしたのだろう、一度」
カガリ「それは……」
アレックス「君は何のためにユウナ・ロマと結婚したんだ?」
カガリ「それはっ……オーブ国民の安全を図るために」
アレックス「そうだ。オーブに住む人を守るためにカガリだけでは力が足りないから、セイラン家との結婚が必要だった。」
キラ「でも、アスラン。あれはカガリの意思を…」
アレックス「黙れキラ。俺はオーブ首長国代表のカガリ・ユラ・アスハと話しているんだ。もしカガリが1人の女であるのであれば、彼女にオーブ軍に命じる権利がない。権利は責任を伴う。国を動かす権利を持ったらそれ相応の責任がある。その責任の負い方がカガリの場合は結婚へと向かわせた。カガリは俺や政治に関して素人のシン達から見ても政治的知識があまりにも足りなさすぎる。国の代表は政治家だ。国の理念を叫ぶだけではない。」
キラ「アスラン!!」
アスランのあまりの非難にキラが叫ぶが、アスランは私から視線を外さない。
アレックス「君は、オーブの国民のための、結婚を拒み、オーブに帰ろうともせず、今までAAでのうのうと過ごしていたのか?オーブ軍がミネルバを攻撃するまで。オーブが連合に出兵を強制されても、オーブ軍が出撃しても、オーブ軍が連合軍と合流しても、何もせずに?」
アスランの言葉に私は目を見開いた。
カガリ「ち、違う!!あのまま戻っても、傀儡にされるだけだった!!私は、私は、オーブを守るために!!」
アレックス「それで?」
カガリ「え…?」
アレックス「さっきも言ったが、君が出て来たところでオーブが連合を裏切れるわけがないだろう。当然だ…家族や友人が暮らす自国を焼かれるのを望む馬鹿がいるものか」
カガリ「それは、それは、でも!!あのままだったら、オーブの中立の理念が…」
アレックス「国民の命と、理念。君はどちらが大切だというんだ?」
底冷えするような視線に、私は戦慄する。
それはユウナにも言われたことだ。
カガリ「それはもちろん、国民の命だ!!だ、だけど、中立を保つことで、国民の危機が減る!!お父様の意思を、オーブを守るために…!!」
アレックス「カガリ…ウズミ様の意思を守る、オーブを守る、それは国民の命とはイコールじゃない」
私の言葉をアスランは冷徹に切り捨てる。
アレックス「カガリはオーブという器だけを守りたいのか。その器に住む国民を守ろうとは思わないのか。政治家は理念を叫ぶだけではいけない。理念は確かに必要だ。オーブのようなのがな。だが、それは時と場合による。理念のために国民が危険にさらされては意味がない。民を守るための理念だ。理念を守るための民じゃない。君はシンの一件で何も学ばなかったのか?」
カガリ「それは…」
私の脳裏に過ぎるのは、自分に向かって叫ぶシンの姿。
だけど、父が守り通した理念を崩してしまうことを認めたくない。
それを見透かしたアスランは失望したように私を見つめる。
アレックス「中立という理念を守れば満足か?オーブという国を守れば満足か?君を敬愛する軍人達や友人達で固めれば、誰も意見せず、君の言葉に頷くだろう。それで君は満足か?」
カガリ「な、にを」
問われても、意味が分からない。
だって、大切なことじゃないか。
中立を守ること。
オーブを守ること。
何故、何故、彼は責めるように言うのだろうか。
アレックス「国民の心は、離れていくとしてもね」
カガリ「何を…何を言ってるんだアスラン!!私は、オーブを守りたかった。それはいずれ国民にも必ず通じる!!」
アレックス「そうだろうな。君が、ただオーブという器だけを守りたかったことは国民に伝わるだろうさ。」
アスランが見下すような視線で私を見つめる。
どうしても私の想いは彼に伝わらない。
キラ「でもそれで、君はこれからどうするの?僕達を探していたのは何故?」
アレックス「探していたのはもうあんなことは止めさせたいと思ったからだ。俺がザフト軍兵士としての義務を果たす羽目になる前にああいう行動は止めてもらいたいんだ。ユニウスセブンのことが問題なのは分かってるが、その後の混乱は、どう見たって連合が悪い。抑えようとすれば抑えられた民間の暴動を煽って、開戦に持ち込んだんだからな……。まぁ、今更そんなことは今言っても仕方がない。とにかく今重要なのはこの戦争を早期に終わらせることだと俺は思ってる。早く終わらせるために俺の出来る事をやろうと…。だがお前達の行動は、ただ状況を混乱させているだけだ。まるで戦争を長引かせたいかのように」
キラ「本当にそう?」
アレックス「……?」
キラ「プラントは本当にそう思っているの?あのデュランダル議長って人は、戦争を早く終わらせて、平和な世界にしたいって」
アレックス「俺はギルを…議長を信じるよ」
キラ「じゃあ、あのラクス・クラインは?」
アレックス「ん?……ああ、彼女か」
キラ「あのプラントにいるラクスは何なの?そして、何で本物の彼女はコーディネイターに殺されそうになるの?」
アレックス「彼女の名前はミーア・キャンベル。あれは混乱を抑えるための一手段だと思うが。何しろ議長以上の影響力を持ちながらも終戦の立役者本人はオーブに引っ込んでしまったからな。まあ、議長に助けられるまでオーブにいた俺も人の事は言えないが、彼女の存在は民衆の混乱の収束には一定の成果は上げているようだな。それに、名前を偽ることがそんなに許されないことか?それを言ったら、俺やお前達も同じだろう。……で、ラクスが殺されそうになったというのは?」
かつての婚約者が殺されそうになったというのに、何の反応も示さないアスランに私は叫びたい衝動に駆られる。
キラ「オーブで僕らは、コーディネーターの特殊部隊とMSに襲撃された。狙いはラクスだった。だから僕はまたフリーダムに乗ったんだ」
アレックス「……何でフリーダムを保管してたんだ?ユニウス条約違反のフリーダムを?」
キラ「彼女も皆も、もう誰も死なせたくなかったから。彼女は誰に、なんで狙われなきゃならないんだ?それがはっきりするまでは、僕はプラントを信じられないよ」
アレックス「キラ…俺達を恨んでいる奴らなんてそこらじゅうにいるんだよ。宇宙にも、地球にも、MSを持ち出してまで恨みを晴らそうという人間がな…では、俺は戻る。ミネルバの動向によってはまたオーブと戦うことにもなるかもしれないな」
キラ「だったら僕達も出るよ。僕達はオーブを討たせたくないんだ」
アレックス「そのためなら条約違反もするというのか?」
キラ「え?」
アレックス「ユニウス条約違反は分かっての行為だな?」
キラ「もしものためだったんだ。ラクスも僕達も平和を望んでいるだけなんだよ。だけど再び戦争は起こった。だから力を手に入れたんだ」
アレックス「そうか…」
キラ「アスラン…君はこれからもザフトで、またずっと連合と戦っていくっていうの?」
アレックス「仲間を、そして大切な人を守るためにな」
キラ「じゃあこの間みたいにオーブとも?」
アレックス「俺は連合やオーブとも戦いたくはない。だが攻撃されるなら、仕方ないじゃないか。」
アスランは踵を返しセイバーの元へと向かう。
キラ「アスラン……僕達だって討ちたくないんだ。討たせないで」
キラの言葉にアスランはぴたっと止まるが振り向かない。
アレックス「カガリ、今ならまだ間に合う。前大戦の後でもアスハ家を慕う者は民衆の中に大勢いる。力ずくでも実権をアスハ家に取り戻せ。お前が覚悟を決めれば、知恵を貸し、協力してくれる者はオーブにもいるはずだ。後はお前の好きにしろ。ありがとうミリアリア」
ミリアリア「えっ、ううん。気にしないで」
アスランはセイバーに乗り込むとミネルバに向かうのだった。
残された私の中で更に苛立ちが込み上げる。
あんな視線を向けるようになったのはあの女のせいだ。
その思いが止まらない。
カガリ「(アスランは私を好きだったんだ!!私を守ると誓ってくれた、口付けだってしてくれたっ!!なのになのになのになのにっ!!あいつが、現れたせいでっ!!)」
私の頭の中はアスランの隣を奪ったあの女が頭の大半を占めていた。
カガリ「絶対に許さないぞ…!!」
私は拳を握り締め、震える声で呟いた。
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