ボロボロの使い魔
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プロローグ
戦いがあった
異形の仮面を着けた三人が、同じく異形の姿をした怪物と相対している
怪物は…強かった
一人の足を負傷させ、そしてもう一人の戦士に切り札を切らせた 緋光を纏い『怪物』を追い詰める戦士
結局のところ三体一では叶うはずもないと判断したのか逃走を図る『怪物』
それは、偶然なのか『怪物』の技なのか 突然の輝く光と共に姿を消す『怪物』
緑の戦士は若い正義感に後押しされて迷うことなく追いかけ、消えた
そして、それまでの激戦による疲労と共に緋光の力を失い膝を突く黒衣の戦士にそれを止める術 はなかった
もう一人、足を負傷した戦士は何とか追いかけようと腕に装着された装備にカードを通そうとし た瞬間 『怪物』を包んだものとは違う しかし、非常によくにた光に包まれ姿を消した
直後、その時驚きにより戦士が落としたカードも別の光が包みそして消える
後に残されたのは、今は『人間』の姿をしている青年だけだった
そして別の世界で
「宇宙の果ての何処かに居る私の僕、 神聖で美しく強力な使い魔よ、私は心より訴え求めるわ、 我がに声に応えなさい!」
もう何度目だろうか、振り下ろした杖は爆発以外何も起こさずルイズ自身をも巻き込み吹き飛した
所々衣服は破れ、愛らしいはずの顔はススまみれ、自慢の髪もボサボサになり、立ち上がる足も おぼつかない
「…ミス ヴァリエール。今日はもうここまでにしておいた方が…」
「まだ…やれます! お願いしますミスタコルベール! 後一度!後一度だけ!」
心配する師に懇願し、再び杖を持つ
そしてまた、繰り返す
春の使い魔召還の儀式
進級試験 も兼ねたこの儀式にルイズは全てを賭けていた 必ず、自身に相応しい立派で偉大な使い魔を召還してみせるのだ
そして自分を馬鹿にしてきた連中を見返してやる
私は決してゼロではない、他の誰が信じなくとも自分だけは信じている
「私は…私の力を証明してみせる!」
疲労に震える腕に力を込め、何度も何度も繰り返し唱え続けた呪文を再び唱える
「いいかげんにしろよ!ゼロのルイズ!」
「お前、いつまでかかってんだよ!」
うるさい うるさい うるさい うるさい。
投げつけられる罵倒の数々は、今またおきた爆発と同じくらいの日常茶飯事
ルイズの人生はボロボロだった
王族にさえ強い影響力を持つ名門ヴァリエール家に生を受けた少女
彼女は、家柄、美貌、知性、全てを持っていた
そして何よりも、誇りあるその立ち振る舞いは自他共に『貴族』として誰もが認めるものだった
だが
トリスティン魔法学園
この学園に入学してから彼女の人生に陰りが差す
魔法が使えない
この、たった一つの事実が彼女の人生を変えてしまった 羨望が軽蔑に変わる
『おちこぼれ』『ゼロのルイズ』
唱えた魔法は爆発ばかり、何一つとして成 功しない
実技を補う為に毎晩遅くまで勉強に励み、実技を伴わない授業では満点をとれるようになった
それでも周囲の評価は何も変わらず彼女は『ゼロ』のまま
クラスメイトにバカにされ続ける日々
すれ違う度頭を下げるメイド達が陰で自分を嘲笑っているのも知っている
彼女を貴族と認める者は誰もいなかった
それでも彼女は挫けず、努力を重ねてきた この使い魔召還の儀式で自分は大物を召還してみせる
そして『ゼロ』の自分と決別するのだ
『私は…ゼロなんかじゃ無い!』
魂から絞り出すかのような叫び
そんな彼女の叫びさえ掻き消し、嘲笑うかの如くおきた大爆発
だが、しかし
ようやく収まった爆煙のなか、心身ともに使い果たし、その場にへたり込んだルイズが目にした ものは。
「…人間?」
見慣れぬ服ではあった
片手には一体何に使うのか長方形のよくわからない物を持っていた
だがそれは、ルイズが切望していた立派な使い魔ではなかった
今の自分と同じ用に、着ている服は所々が破れ、至る所に怪我をし、薄汚れた男
ルイズが人生において初めて成功させ召還した使い魔は
…ボロボロだった。
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