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女の首

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第五章

「こうして覗いているのだろう」
「そうですか。だからですか」
「この女の首が出ていたのですか」
「どうしてかと思えば」
「少なくとも狐やそうしたものではない」
 あやかしの類ではないというのだ。
「狐等ならこれだけ酒や食いものがある店だとな」
「そっちに気が惹かれてですか」
「こんなただ出たり消えたりはしないんですね」
「より派手に諸君等を驚かせて店から出してだ」
 そのうえでだとだ、徐と親父に話す。
「誰もいなくなった店で飲み食いをする」
「そうするからですね」
「狐等ではないですね」
「だとすれば鬼だ」 
 これ以外に有り得ないというのだ。
「そしてこうして穴から出入りするのならな」
「覗きですか」
「そうなりますか」
「そうなる」
 王はこう言い切った、そしてだった。
 そのうえでだ、店の親父に顔を向けて問うた。
「それで親父、聞くが」
「何でございましょうか」
「祓うか」
 王が今親父に問うたことはこのことだった。
「この鬼を。道士ならいい道士を知っているが」
「祓えばそれで」
「鬼はいなくなる」
 そうなるというのだ。
「もうこうして穴から出入りすることがなくなる」
「左様ですか」
 首はまた引っ込んでいた、親父はその首が引っ込んだ穴を見つつ王の言葉に目をしばたかせつつ応える。
「消えるんですか」
「そうなるがどうする」
「いえ、実はですね」
「実は?」
「この首が何なのかは知りたかったですが」
 これは徐達もだ、このことは知りたかった。
「ですが」
「祓うことはか」
「若し祓えばです」
 そうすればどうなるか、親父は王に困った感じの笑顔で話すのだった。
「この首を見にお客さんが来るわけですから」
「店の看板だな」
「はい、それがなくなりますから」
「それではだな」
「はい、それは」
 祓うことはというのだ。
「止めておこうかと」
「そうだな、それがいい」
 王もだ、親父の言葉を受けて笑みを浮かべて言う。厳しい顔が急に綻ぶ様は誰もが驚くものであった。
「ましてやこの鬼は別に悪いものではない」
「鬼でもですね」
「生きている者にも善人と悪人がいるな」
 王は親父にこのことから話す。
「それと同じだ、鬼にもだ」
「いい鬼と悪い鬼がいますね」
「こうした特に何もしない鬼もいるのだ」
「ただ出入りしているだけで」
「まあ春絵でも見せれば目を輝かせるだろうがな」
 覗きが好きで今もこうして出入りいているからだ、そうしたならばというのだ。
「しかしだ、こうした普通の飲み屋ならだ」
「特にですか」
「何もない」
 遊郭でもなければ春絵もないこの店ならというのだ。
「安心していい」
「そうですか、じゃあこのままで」
「いればいい、店が繁盛するに越したことはないな」
「その通りです」
「では道士は呼ばずこのままでいる」
 王は親父にこのことを確認した。 
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