懐かしき友
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第七章
今度はサウジアラビアだった、彼は駐在武官として大使館に入った。その空軍の軍服の彼に大使がこう言ってきた。
「今度イラクから引き揚げて来る軍を迎えてだ」
「それで、ですか」
「うん、彼等を迎えてな」
その引き揚げて来る軍人達をだというのだ。
「そのうえでパーティーを開くことになった」
「その規模は」
「兵士下士官は予約したバーベキュー会場だよ」
そこでバーベキューを振る舞い労うというのだ。
「楽しんでもらうよ」
「そして将校はですね」
「バイキング形式はバイキング形式だが」
将校を迎える場所はというのだ。
「この大使館だよ」
「ここですか」
「うん、君にも協力を頼むよ」
「お任せ下さい」
ビッグはここでも敬礼で応えた。
「それでは」
「空軍だからね、今回我々が迎える軍は」
「私と同じですか」
「そう、そしてね」
笑顔でだ、大使はビッグに話してくる。
「君の同期もいるかも知れないね」
「そうですか、ではその同期と会えれば」
「君達だけで楽しくやるといいよ」
大使はビッグに明るく話した、そして。
大使館にイラクから引き揚げてきた空軍の将校達を迎えた、ビッグと同じ空軍の深い青のスーツの軍服の者達の中に。
ビッグは見た、そこにカーペンターがいた。カーペンターもビッグの顔を見てお互いに小さく頷き合った。今は大使もいる公の場なのでそれだけだった。
そしてだ、労いのパーティーの場でだ、カーペンターが笑ってビッグにこう言ってきた。
「よお、サウジアラビアに来ていたんだな」
「ああ、そっちはイラクだったか」
「大変だったぜ、何かと」
カーペンターは右手に赤ワインが入ったグラスを手にビッグに話した。
「テロはあるし出撃だって多かったしな」
「命は大丈夫だったか」
「陸軍で見回ってる面々は大分やられたがな」
しかしというのだ。
「空軍はそこまではな」
「そうか、それは何よりだな」
「ああ、けれど砂にまみれて出撃もやたら多くて整備スタッフも足りなくてな」
「本当に大変だったんだな」
「そうだよ、まあそれでもそれもこれで終わりでな」
そしてだとだ、カーペンターは立食の場に出ているオードブルを自分の皿に取っているビッグに対して話すのだった。
「俺も今度は駐在武官だよ」
「何処だ」
「グアテマラだよ」
その国だというのだ。
「ちょっと行って来るな」
「そうか、あそこか」
「中南米のな、スペイン語勉強してるぜ」
「そっちも頑張れよ」
「ああ、ところでな」
ここでだ、カーペンターは彼に笑顔でこのことを言ってきた。
「約束覚えてるな」
「会った時はか」
「その国で一番美味い酒を飲もうってな」
「そうだな、しかしな」
「ああ、ここはサウジアラビアだからな」
「イスラムだ」
それでだった、イスラム圏では酒は飲めない。少なくともおおっぴらには。
「だから酒はな」
「そうか、ないか」
「ここで飲む位だ」
大使館の中なら大丈夫だというのだ、大使館の中はその国の領土扱いなのでここでは普通に飲めるのだ。
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