王道を走れば:幻想にて
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第三章、その1:冷え込んだ拝謁
見知らぬ異界に放り出されて無我夢中のままに苦難を乗り越えた慧卓青年の眠りは深い。眠りに就いたのは月が頂点に達する前の事。この世界にとってみれば充分深夜であるが、彼にとってはまだ浅い時間帯。疲れ気味の身体はその頃にはすっかりと眠気を覚え、手触りの良い布団の温かみに心を落ち着けたのだ。
時は、小鳥が囀り東方より光が昇る頃。セラム人に曰く、生活が寝具を干す時間である。燦燦とした光が窓から差して寝顔を当てるに関わらず、慧卓は鼾も掻かずに眠りこけていた。趣向を凝らして微細な部分まで粋を通したインテリアに囲まれながら天蓋付きのベッドに眠る彼は今、貴族の贅沢の一つを夢中で味わっていた。
とんとんと、軽く戸を叩く音がする。
「・・・失礼致す、ケイタク殿」
中に入ってきたのはアリッサだ。彼女もまた起きて直ぐなのか鎧姿ではなく、清楚な白のネグリジェに水色のカーディガンをそっと肩に掛けた格好である。彼女はそのままベッドに近付き、慧卓のあどけない寝顔に息を呑んだ。
(これは・・・これで、中々・・・)
思わずまじまじとそれを見詰めていると、両手で握り締めていた桶が傾いて中の温水が毀れそうになる。小さな悲鳴を出してそれを戻し、ベッドの隣に置いてあるサイドテーブルの上に置く。清潔な布に温水を浸せば、寝汗と寝癖取りのタオルの完成である。
何故侍女の仕事をアリッサが代わりにしているかと言うと。
『ケイタク殿は私が起こす。桶を貸せ』
『しかしアリッサ様。これは近衛騎士様のお手を煩わせるような事ではありませぬ。どうか我等侍女の者にお任せあれ』
『いいから貸せ!そ、その、私が彼を起こしてやりたいんだ!』
『どうぞどうぞ、お貸ししますわ!後でちゃんと、あの方の事を私共に話して下さいね!』
口にするのも憚れる乙女心の仕業でもあったのだ。
アリッサは手の水気をさっと払うと、慧卓の肩にそっと手を遣って揺すりながら、寝起きの彼を労わるように優しい声を掛けた。
「ケイタク殿、起こしに参りました。起きて下さい」
「・・・・・・ん・・・アリッサさん・・・?」
惚けたように細目を開けて、慧卓は瞼に指を擦らせながら身体を起こす。むぅと唸りながら起きる様子は幼げのあるものであり、中々に保護欲を煽る容姿でもあった。
慧卓はうつらうつら頭と揺らしながら返事を返そうとする。
「おはようございま...ぐー...」
「寝ては駄目です!朝餉はしっかり取らねばなりません!さぁ起きて!!」
柔らかな布団に倒れ掛かる慧卓に痺れを切らして、アリッサは彼の頭を枕に戻すと一気に布団を除けた。腰を半ば過ぎ辺りで布団が返されて二つに畳まれる。視点を慧卓の顔に返そうとした時、アリッサは余計な物を見て硬直した。
「あっ...」
「・・・ん?どうしました、アリッサさ・・・あ」
今更ながら漸く陽射の眩さに意識を取り戻した慧卓は彼女の視点を追うように目を遣り、しまったといわんばかりに呆けた。侍従の方が用意してくれた薄手の寝巻きの下より、身体の血流に従うように隆起した一物の姿を認めたのだ。
(あー、なんか前にも同じ展開があったような)
「・・・あ、朝からなんでそんなに元気なのよおおお!!!」
「そうそう、こんな風に殴られってえええええ!?」
顎に走る衝撃も、其処から伝わる拳の硬さも感触も全く同じ。そして慧卓は不可抗力の波に攫われ、再び意識を落したのであった。
「さ、さっきはすまない!ついカッとなってしまったんだ!あ、あんなの見せるから・・・」
「いえいえ、此方こそすみません・・・なんか、欲求不満みたいなモノを見せてしまって。結構良い思いをしている癖にこいつは欲張りなもので」
「いやいや此方の方が悪いんだ!殴るのは流石に拙かった!」
「いいや俺が悪かったんです!!」
「いや私こそっ!!!」「俺がです!」「私が!!」「俺が!!!」「私が!!!!!!」
「いい加減にしなさいよ、貴方達!!!!」
熱帯びた謝罪合戦に水を差すように、『バンッ』と、膝を力強く叩く音がして二人は頸を竦める。そろそろと目を遣る先には、呆れと苛立ちを同居させた表情を浮かべた熊美が椅子に座っていた。
「何が俺が私がよ!謙遜の文化も大概にしないと厭味になるわよ!!少しは自制しなさい!!」
「す、すみません・・・」「申し訳ありません・・・」
萎縮して謝る二人に溜息を零した後、熊美は上座に腰を落ち着けているコーデリア王女へ向き直り、頭を下げた。
「朝早くから騒ぎ立てて、申し訳ありません、王女様」
「申し訳御座いません、王女殿下」
「いえいえ、お気になさらず。今日も元気な姿が見られて、私、安心致しましたわ」
朝から心洗われる可憐な笑みを零すコーデリアに、一先ずの安心を慧卓は抱いた。
二度目の起床につきはっきりとした意識を持った慧卓は侍女等に引き摺られるまま、朝食が用意された一室へと招かれていた。テーブルの上には銀の皿が幾つも置かれ、それぞれに朝食が置かれている。コッペパンのような厚めのパンに苺のジャム、玉葱のブイヨン、付け合せに一口サイズのチーズが少々と果実を含んだヨーグルト。
「ケイタク殿やクマミ殿の御口に合うよう、村で出されたものに似たものを御用意させて頂きました」
「御心遣い、痛み入ります」
「有難う御座います、王女様」
朝から血圧を高めるようなものは無理である。コーデリアの気遣いがとても有り難かった。
慧卓は熊美と視線を交わし、同じタイミングで掌を合わせた。
『いただきます』
「はい、召し上がれ」
慧卓は先ずチーズを口に運ぶ。バームクーヘンの断面にも似た黄色のチーズだ。常温にて固体を保ったそれが、咥内では熱と唾液に当てられて俄かに溶け始めていく。咀嚼する度にチーズ独特の芳醇さを抑えながらも香りの良い味が舌に広がり、朝起きの敏感な食感にとってとても優しい味わいであった。
ちらと目を向ければ、熊美はパンから、アリッサはブイヨンから、コーデリアはチーズから朝食を始めたらしい。好みが王女と被っているなと、慧卓は心に僅かに喜色を浮かべた。
「それでは、今日の予定の説明をさせていただきますわ」
四者それぞれが朝食を頂く中、食卓の傍に控えていた侍従長のクィニが、手元の小さな縦開きの巻物を広げながら説明する。
「朝餉が終わりましたら皆様揃いまして、国王陛下を初めとして宦官の方々が集う『王の間』に向かっていただきますわ。其処で王女様がハボック指揮官殿と此度の遠征の結果を報告。その後に、お二人を紹介するといった形になります」
「・・・いよいよ謁見、ですか」
スプーンで味が染込んだブイヨンを嚥下しながら慧卓は呟く。胸中に俄かに緊張が走るのが見え透いていたのか、クィニは優しげに告げた。
「国王陛下は寛容で、慈悲深き御方にあらせられます。ケイタク殿が誤って礼を欠いたとしても、笑って許してくださる御方ですよ」
「しかし心配なのはなんといっても宦官達です。あの方々の老獪な術中に嵌れば、それだけで私の地位も危うくなるほど。精一杯の擁護をする次第ではありますが、どうかご油断なさらぬように」
「・・・宦官ね。要注意といったところかしら?」
「俺の歴史の知識では、その言葉に余り良い印象はありませんね・・・」
彼にとっての宦官で一番記憶を占めるのは、後漢王朝の凄惨な末路における宦官達の暴走である。まさかそっくりそのままの同じ存在が此処に居るとは思えないが、それでも不安が一縷、心に浮かんできた。
「何はともあれ、先ずは栄養補給、エネルギー充填ね!さ、食べましょうか!」
「ですね」
熊美の言葉に従って、慧卓はパンを胃の中に落して不安ごと消化していく。千切ったパンをブイヨンに少々染込ませるのが中々に旨みのあるものであり、これは良いと慧卓は朝食を嚥下していった。
それでも気丈を振舞う彼を心配してか、コーデリアが熊美へ強い瞳を向ける。彼女の心を悟った熊美は僅かに口端を歪めて頷いた。
朝食を終えた後、アリッサは王の間にて宦官警護の任を全うしに消え、残された三人は静かな緊張の下に暫し待つ。衣装は既に整えている。コーデリアは優雅なドレスを、慧卓は『ウールムール』で見繕った学生服紛いのそれを着ている。熊美は元騎士とあってか鋼鉄の鎧を見事に着こなしていた。
(やだ・・・なにこれ・・・鎧一式だけで50キロあるんじゃないか?)
信じ難い世界である。
時が告げられたのは刻五つ目当たり、即ち午前十時頃であった。ハボックがそれを告げに来たのだ。討伐軍の将兵を代表した彼は常の重厚な鎧姿であり、貴族風の格好をした慧卓とは対照的な姿であった。
四者は磨き抜かれた大理石の光沢を目に遣る事無くそれを踏みしめていき、宮殿の中央に設えられた王の間へと足を近づけた。繊細な金細工を施された大扉の前で二名、銀の鎧を纏った兵が油断無く儀礼用の剣を腰に挿して佇んでいた。
「コーデリア=マイン、マイン王国第三王女殿下。ハボック=ドルイド王国第三歩兵兵団大隊長殿。そして異界の方々、お待ちしておりました。陛下や、執政官殿らがお待ちです」
「承知しております。大扉を開けなさい」
「はっ」
衛兵等は凛として扉の中へと向かって叫ぶ。
『コーデリア=マイン、マイン王国第三王女殿下!!ハボック=ドルイド、王国第三歩兵団大隊長殿!!異界の戦士殿!!御参内!!!』
言葉が途切れ、重厚な大扉がゆっくりと中へ開いていく。其処に広がる情景に、慧卓は言葉に言いえぬ感動の念を覚えた。
其処は紛う事無き貴族の心を表した、大きな広間であった。顔の表情、皺一つ一つまで映えるやもと思わせる程の光沢を放つ大理石の床。羆の異名を持つ熊美ですら矮躯に見えるほどの高さを誇る天井は、気品の溢れる白を湛えており、これまた大理石であろう見事な造りである。金色に盛り上がった縁が美麗だ。シャンデリアこそ吊るしてはいないが、横合いに設置された大きな窓から差し込む光はまるで神の威光を纏っているかのようで、玉座に相応しき神々しさである。
高さを誇る広間には二階部分も設置されているようだ。王の間左右の部分から、まるで体育館を思い出すように似た造りをした、通路が延びている。その部分に窓を背にする形で騎士が幾人か立ち、警護に当たっていた。無論その騎士等は王の間の方々に点在している。扉のすぐ近く、壁際、そして玉座の直ぐ脇にも。其処にアリッサが佇んでいるのも見受けられた。皆が皆光り輝く白金の鎧を纏い、怜悧な外観をした剣を帯に挿している。
慧卓は今更ながら思う。
(王の間に入れるって事はそれ相応に凄い騎士・・・詰まりこの人達、近衛騎士だよな?)
ふと二階通路部分に目を遣れば、王都に入った際に見かけた、赤いサイドポニーが印象的な美人騎士が佇んでいる。慧卓を見やってウィンクする姿は、その美貌に似合って中々様になっていた。
そして参内する者を歓迎するように正面一番奥、赤絨毯を敷いた階段を挟んだ先に、銀の縁取りが鮮やかな玉座が構えられている。其処までの道を開くように、十数人近くの年配の男達が左右に立ち並び、一様にして自然体に佇み、微動だにせず正面を見据えている。右方奥には鎧姿の男が二名並び、後は全て絢爛とした貴族の正装、威厳に満ち溢れたローブに身を包んでいた。
(鎧を纏い、玉座の近くで立てる人・・・詰まりあれは騎士の中で一番高位に座す人か。となると後は唯の貴族か文官、或いは、宦官か。そしてあれが・・・)
玉座に座り込む老人。外見でみれば70代後半の弱弱しい老人である。老人は興味無さげに妖しき碧眼で以って見詰めてくる。老いを湛えた髪は短く刈り込んでおり、外観から伝わる気迫の無ささえ無ければ、それなりに活発そうな雰囲気が漂ってくるものである。この場の誰よりも絢爛として美しい刺繍が施されたローブを何の違和感無く着こなし、肘掛に肘をついて頭を支えている。実にふてぶてしくも、厳しさに似合った態度だ。
「止まりなさい」
貴族の列半ば辺りまで歩を進んだところで、コーデリアが四人にだけ聞こえるくらいの小声で言う。彼女以外の三者は立ち止まり、恭しく左膝を床に着けて頭を垂れた。コーデリアは彼等より一歩前に進み、ドレスの裾を広げて華麗な礼を披露する。だが王国随一の美少女に等しき彼女の魅惑に口端を歪める者は此処にはいないようだ。
「コーデリア=マインに御座います、国王陛下。ハボック=ドルイド隊長と共に参上仕りました」
慧卓は興味を引かれて僅かに頭を上げて、後悔した。左の貴族の列、国王に最も近き場に立っていた、頭頂部に黒い火傷の痕が目立つ蛇面の老人と視線が合ったのだ。齢は見るからに60辺りであろうか。思うに、広間に入って視界に納めたときよりも更に瞳が細くなっている気がする。
その老人はいたく無機質な声で、国王に対して悠然と話し掛けた。
「・・・陛下、此処は私めに」
老王は何もいわずに手を振った。許しを得たと解釈した老人は頭を下げ、国王を庇うように歩を進めて、無遠慮な冷徹さを抱いた瞳でコーデリアに向き直る。
「コーデリア王女、ドルイド隊長。よくぞ御無事で帰参された」
「・・・レイモンド=フォン=モートン執政長官」
両者の藍と琥珀の視線が絡み合い、虚空に剣呑な気を散らす。
老人は無感動な口調で言う。
「城の貴族や兵達が口々に言っておるぞ。『蛮勇の鉄斧といえども、王国の武勇と威光の前に、屈服した』と。『山賊に物怖じせず最前線で指揮を執る王女の豪胆さをこそ倣うべし』と。『流石はヨーゼフ陛下の末娘なり』と」
「・・・御言葉ですが、執政長官殿。私はなにもしておりません。もしも讃えるのであれば、どうか私と共に最前線で奮起した兵達を真っ先に賞賛するべく、お願いしたく・・・」
「勿論だ。私も元はといえば最前線で賊を調伏させた者の一人。事の次第を是非にも聞いてみたい」
老人の言葉に対し、鎧を纏った貴族の男が侮蔑の混じった色で小さく鼻を鳴らした。一昔前の時代劇の剣客に相応しき鋭利な瞳と、白い総髪が似合う男である。隣に立つ、豚のような真ん丸とした瞳をした老人が呆れるように瞳を向けるが、男は我関せずとばかりに執政長官を睨むだけだ。
「しかしだ、コーデリア王女よ。それを聞く前に貴女に尋ねたい事が一つある。何故高貴な華であらせられる貴女が、血臭深き戦陣へと参られたのだ?」
「・・・これは、偏に私の浅はかなる思いによります」
王女は後ろめたき口調でありつつも、長官から目を逸らさずに続ける。
「私は幼少の頃より、教会にて礼拝と修行を賜っておりました。深く壮麗な緑と主神の御教示に囲まれたその日々は、厳しくも温かみのあるものであり、それなくば今の私がある事は在り得ませんでした。宮殿に戻った後でも、辛き時はその修行の日々を思い出し、自らの心の支えとして参りました。正統なる王女と認められた後ではその日々を思い出す事は稀となり、唯一日一日、只管に王家の繁栄のためを思って過ごして参りました。もうあの日々を思い出す事は無いとばかりに、思っていました。
ですが此度の乱におきましては違ったのです。討伐の対象となった件の山賊の砦は、私が幼き日々を過ごした教会に近く、戦端が開けばその余波で教会に危害が加わる惧れが御座いました・・・正確には、かの教会に置き去りとなったままの、私の懐かしき日々に。急に不安に駆られた私は誰にも知らせず、村へと派遣される兵隊等の馬車に潜り込んだのです。教会は無事でなくとも、せめて其処に置き去りとなった、思い出と思いの詰まった品々だけは取り戻そうとして・・・。これが事の、原因であります」
コーデリアの長口上が終わる。誰も言葉を継がず、貴族の幾人は同情の瞳で、幾人は非難の瞳で彼女を見据えていた。そして最初に言葉を継いだ者は、後者に与する者であった。
「・・・浅慮な。徒に臣民に動揺を与えたらどうするのだ?」
「これ、アストルヴォ。・・・どうかお許しを、王女様。こやつの五男坊が、その砦の攻略にて命を落されておりまして・・・」
「・・・殿下、御無礼をお許しくだされ」
総髪の老人が頭を下げる。コーデリアは一瞬瞳を開くも、直ぐに冷静に言葉を返した。
「・・・許します。どうか頭を上げてくださいませ、ブルーム様。貴方の御子息は御立派に王国兵としての生を全うされたのですから」
「はっ」
貴族ブルームは頭を上げた。慧卓はふと思い出す。
(そういえば・・・解散式の時に呼ばれたっけな・・・ロバルト=フォン=ブルームだったっけ・・・爵位は何だ?)
顔も見知らぬ若者は老人に似て、逞しくも凛々しき風貌を受け継いでいたのだろうか。
執政長官はコーデリアに再び問う。
「して、其の後は如何なされた?」
「現地に到着する前に、同討伐隊に参加していたアリッサに見付かりまして、自らの思いを告白し、教会まで護衛をしてくれるよう頼みました。彼女は快く私の勝手な願いを受け入れてくれて、私は教会へと参る事が出来たのです。
無事に品々を取り戻せたものの、時同じくして教会に侵入した賊徒と邂逅致しました・・・アリッサの尽力の甲斐の賜物で私は逃れたものの、アリッサは森林に一人残される事に・・・アリッサ」
「はっ」
言葉と共に、アリッサは貴族の衆目を浴びながらコーデリアの横へと進み、国王に向かって膝を突いた。
「之より先は私に代わりまして、私より詳細を知っているアリッサが御説明を申し上げたく存じます。お許しを」
「良かろう、許す」
「有難う御座います。・・・アリッサ」
「はっ!残された私めは、王女殿下より預かりました『召還の媒介』を用いまして、異界の戦士殿を召還致しました。それが彼らです」
視線の数々が慧卓の身に注がれる。レイモンドを始めとした老獪な貴族等が、そして俄かに近衛騎士等がちらと見遣るのだ。僅かの間ではあるが、無言の圧迫感を感じて心が竦む。
アリッサは続ける。
「紆余曲折を経まして、無事に山賊の砦に忍び込んだ我等は王国兵の攻撃に合わせて砦内部から反撃。戦士殿らの機転と武勇に大いに助けられまして、無事に山賊の砦を攻略致した次第に御座います」
「・・・肝心な所を話されてしまったな、ドルイド隊長」
「・・・はっ」
「すっ、すまない」
レイモンドは、頭を垂れるアリッサからコーデリア王女へと話題を戻す。
「私の意見としては、王女殿下の行動は無謀の域に達するものだが、その思いは理解できなくも無い。討伐軍の目標が達成された結果として御身が無事であれば問題無いとも考えておる。よっと此の度の不問と処したい。皆はどう思う?」
『異議無し』『右に同じ』『二度目は無いぞ』
「うむ、その通りだな。・・・王女殿下。言葉の通り、次は無いと思われたい。その幸運も、我等の温情もだ」
「・・・はい、心に刻みます」
「うむ。ではお下がり願おう。・・・ドルイド隊長」
「はっ!」
コーデリアと入れ替わる形でハボックが勇ましく前に出て、敬礼の形をとった。
「戦闘の詳細を聞きたい」
「はっ。先ず我が部隊は斥候を用いまして山賊を偵察致しました。その結果、敵方は我が方に対して数も少なく武装も貧弱で限られたものであるが、山肌に立った要害であるために正攻法は困難と認識。よって我等はその砦に対し夜を徹して攻撃を続けて、山賊等の疲弊を待つのが本来の次第でありました。
・・・ですがお話にあった通り、攻勢開始初日にして山賊の砦は容易く攻略されたのであります」
「其処なのだ。一体如何いう過程で砦が落ちたのだ?」
「・・・それは、後ろの二人から聞くのが、宜しいかと」
「・・・己からは語らんか。まぁ良いだろう。遠征、ご苦労であった。今宵は祝勝会がある。英気を養うといい」
「はっ!」
コーデリアに掛けなかった好意的な言葉に反し、ハボックはその情に浸かる事無くささと下がっていく。レイモンドはそれを気に留める事無く、遂に慧卓と熊美に目をつけた。
「では、彼等の話を聞くとするかな」
「いくわよ」
「っ・・・」
緊張した面持ちで慧卓が立ち上がる。途端に貴族等に加え、コーデリアやアリッサ等、室内の全員の視線の中心に置かれるような気がした。慧卓は震えを来さぬように引き締めた表情を作る。
二人は二歩前へと進み、凛然とした態度で敬礼をした。
「御目に掛かる名誉を頂きまして、恐悦至極に御座います。異界より顕現致しました、クマミ=ヤガシラであります」
「・・・同じく顕現致しました、ケイタク=ミジョーです」
二人の名乗りに、それまで静謐を保っていた宦官達がざわめく。慧卓の名にではなく、熊美の方にこそ注目が集まっているようだ。
『クマミとな?矢張り本物の豪刃の羆か?』
『体躯を見れば分かるであろうが。我等の中で幾人は、三十年前に何度も彼を見た筈だぞ』
『だが余りに昔と違いすぎるぞ。一層と渋みを増しておる。あの時の面影など一つたりとも無いではないか!』
『人は直ぐに変わるぞ、法務の。貴様が一番理解していると思っていたのだがな』
「静まれ」
漏らされた言葉に広間が凍てついた。短き言葉にそれ程の意味は無い。だがその抑揚が欠いた枯れ声を聞くだけで、並居る諸人は己の動きを止めるのだ。
言葉を出した者、ニムル=サリヴァン、マイン王国国王の思いがけぬ行動にレイモンドが驚く。
「陛下・・・」
「レイモンドよ。私が聞いてみたい。良いかな?」
「・・・・・・はっ、承知致しました」
逡巡の後レイモンドは首肯して閉口する。国王は悠然とした雰囲気を醸しながら、先ず熊美に目をつけた。
「そち、クマミ、といったな。初めに聞きたい。そちは本物の、『豪刃の羆』かな?」
「・・・はっ。私めは、三十年前に黒衛騎士団団長の地位を受け賜り、戦地を駆け巡っておりました」
「ふむ。・・・黒衛騎士団結成時の訓示を覚えているか?確かヨーゼフが言った筈なのだがな」
「『戦地に骸を晒すな。一族が囲む寝台にこそ屍を晒せ』。ヨーゼフ閣下は、このように私共に申されました」
「・・・はははは。皆の者、彼は本物だ。間違い無い」
諸人を安心させるように言った心算であろうが、その声色は一分も身動ぎをしていない。もしやするとレイモンド以上に感情を顕さぬ声色であった。それでいて人を威圧して心を追い詰めるような感じがする。果たして本当にこの老人は宦官の操り人形なのだろうか。慧卓の心に疑念が思わず湧いてきた。
「よく還ってきたな。此処の空気は如何かな?」
「・・・相も変わらず、極上の美味で御座います、陛下」
「そうか。それならば良い。・・・して、隣の者は、これはまた若々しいではないか。初めまして、青年。私は国王、ニムル=サリヴァンだ」
「へっ、陛下!」
「良いではないか。私や貴族の家族以外では、久方ぶりの若者との対話だ。愉しませてくれ。青年、名乗り給え」
底冷えするような思いをしながら慧卓は国王と瞳を合わせる。胸中ががくがくと痙攣するように震えるのを感じつつ、旅すがら必死に練習してきた凛々しき若い貴族の口調を貼り付けた。
「・・・拝謁の名誉を受け賜りし事、真に光栄であります、国王陛下。私めはケイタク=ミジョー、異界より参りました者に御座います」
「はは。堅苦しく言わんとも良いぞ。そち、歳は幾つだ?」
「・・・今年にて、十七を迎えます」
「そうか、それならば問題無いな。なに、そちは知らぬと思うが、此処では十七より飲酒や婚姻の許しが下されるのだ。これでそちも、晴れて宴に杯の華を咲かす事が出来ようぞ」
「そ、そうですか。それは有難い話です、ハハハハ・・・」
声色に似合わず冗談も言えるようだ。乾いた笑みを浮かべながら緊張が俄かに解れる。
「して、アリッサが言うには機転と武勇が砦の陥落を助けたという。どちらが機転で、どちらが武勇かな?若いの、もしや君が武勇かな?」
「いえいえ、私の方が機転で御座います、陛下」
だからこそであろう、安堵を覚えて口がやたらと饒舌となるのは。熊美の心配げな視線に気付かず慧卓は口走っていく。
「交戦時におきまして、私は山賊の砦の内にに積み込まれていた多量の手榴弾を、とある機会より敵方から奪いました。それを荷台に乗せ、炎を被せた後に門前へと叩き落したので御座います。結果、砦の門は爆砕し、その用を亡きものとしたのであります」
「すると、そちがブルームの仇かな?」
「え?」
慧卓の表情が固まり、彼は視線を能面の王に向ける。王は淡々と続ける。
「ブルームの倅は、門が爆破された際に飛散した大きな木片に胴を射抜かれて、亡くなったと聞いておる。そうだったかな、ブルーム」
「・・・はっ、其の通りで御座います」
硬い表情で頭を垂れるブルーム。慧卓はわなわなと湧き出た罪悪感と焦燥に苛まされるように慌てて謝罪しようとする。
「ぶ、ブルーム様っ。申し訳ーーー」
「謝るな」
鋭き瞳に射抜かれて慧卓は舌を止める。ブルームは貴族等が横目を向ける中で語る。
「ケイタク殿。倅の死を貶めないでくれ。かの者は貴族の誇りを持って果敢に戦い、そして戦の倣いに従って戦地に倒れた。勇敢な最期を遂げたあ奴は、最期の最期まで己の生を、貴族の義務を全うした・・・私はそう信じておる。
だからこそ、どうか戦の功労者である貴殿には堂々と、胸を晴って欲しいのだ。・・・我が思い、聞き届けてくれるか?」
「・・・はっ!閣下の御子息と共に戦地に立ちし事、誇りに思います!」
敬意と謝意を込めて、慧卓は凛々しき敬礼を返す。ブルームは一つ頷くと、非礼を詫びるように国王に向かって頭を下げた。
「お話を遮りまして、申し訳御座いません」
「構わんで良いぞ・・・良き心構えだな、ブルーム。・・・では次は羆殿かな?鉄斧のカルタスは・・・どのような人物だったかな、レイモンドよ」
「はっ。冷血無比の民殺しであり、豪腕の斧使いに御座います。ついでに申せば、武の何たるかを弁えぬ蛮人でも御座います」
熊美の冷たき視線をするりと受け流してレイモンドは言ってのける。
「ふむ、そうか。ではクマミよ。そちは如何にして敵と戦い、これを打ち伏せたのだ?」
「はっ。ケイタクが砦の門を破壊して双方が交戦していた折に、敵の棟梁、即ちカルタスが一騎討ちを申し出たのであります」
「ほう、一騎討ちとな?」
「はっ・・・それに私が応じました」
レイモンドはそれを聞いて静かに眉を顰める。彼は国王に向かって言う。
「陛下、一つ彼に尋ねたき事が御座います」
「ん?良いぞ」
「有難う御座います。・・・クマミ殿、何故に貴殿は意地汚い、下賎な蛮人の申し出を引き受けたのだ?一気果敢に掃討すれば良かったではないか?」
「かの者、申し出の際、『王国の樫を仰ぐ者として、亡きクウィス男爵殿の名誉にかけて誓う』と申されました。『国を慕い、愁い、仰ぐ者に貴賎は無く、そして格差も無い』。これは黒衛騎士団の副団長の言葉ではありますが、正しく彼の言葉は正鵠を射ていたのです。王国の正義、力、そして臣民の心。それらを量る秤は主神の御心をおいて他に無く、故に我等は一つの血、人間の血によって結ばれた種族であるのです。だからこそ彼らが口にする言葉にも平等に価値があり、其処に大きな意味を認めるべきである、私はそう考えております。
・・・また、王国に忠義を貫いた男爵殿の名の下に行われる決闘とあれば、男爵殿を親しく戦を生き抜いた私と致しましては、受けずには居られぬと思った次第でありました。・・・これが私が、決闘を引き受けた理由に御座います」
「・・・平等・・・そしてクウィス、か。得心した」
レイモンドは無感動な瞳のままに口上に傾注し、一つ国王に向かって頭を下げると、大人しく言動を引っ込めた。
口を挟まぬ余裕を見せていた国王は待っていたとばかりに熊美に話し掛ける。
「それで、そちは一騎討ちを引き受けて、これを勝利したという事か?」
「はっ。神官殿や王女殿下、指揮官殿の御立会いの下、勝利致しました」
「ふむふむ・・・得物は何を使ったのだ?」
「我が身程もあるかというほどの、大剣に御座います」
「ほう、大剣とな?そち、中々やるではないか。のう、アリッサよ」
「は、はっ!!伝説に偽り無き、見事な勝利で御座いました!!!」
アリッサは緊張を湛えながらも、立派な姿勢で熊美を賞賛する。満更でもないのか、熊美も淡く笑みを零しているのが雰囲気で分かった。
レイモンドが国王に時を告げる。
「陛下、そろそろ・・・」
「もう少し良いではないか」
「而して陛下。皆の政務が・・・」
「分かっておる。言ってみただけじゃ」
国王が色の無い言葉でおどけるように言い、掌を軽く振った。その意外性のある所作に慧卓は思わず思う。もしかすると、自分はとんだ誤解を抱いていたのかもしれない。
(この人・・・声色が変わらないだけで、案外茶目っ気があるかも・・・)
彼の思考を妨げるように、レイモンド執政長官は有無を言わせぬ圧迫を利かせて、慧卓達に、そして並居る貴族等に向かって言う。
「残念だがそろそろ拝謁は終わりだ。間も無く我等は政務に戻らねばならん。午後もまた同様。ついては諸君、まだまだ話し足らぬと思うのであれば、夕刻に開かれる晩餐会にてお願い申し上げたい。宜しいかな?」
『はっ!』
「宜しい。晩餐会では、彼らの祝勝会の意味を兼ねている。くれぐれも、粗相が無いように・・・近衛兵!」
大扉近くの近衛騎士が背筋を正した。
「彼らが御退出される」
『はっ!!!コーデリア=マイン、マイン王国第三王女殿下!!バッカス=ドルイド、王国第三歩兵団大隊長殿!!異界の戦士殿!!御退出!!!』
「戻るわよ」
熊美に促されるままに慧卓は国王に向かって再度深き礼をした後、後ろを振り返って退出していく。貴族等の視線は相も変わらず睥睨するような、或いは独特の圧迫感のあるもの。一方で一部からの視線には温かみのあるものを感じつつ、慧卓等は王の間を後にした。
「では、皆も政務に戻ってくれ。御苦労であった」
残された者達も慧卓の後を追うように順々と退出していく。残されたのは直近の近衛騎士数名、レイモンド執政長官、そしてサリヴァン国王のみである。
(ふむ。実直そうな若人だったな。今のところはそれだけだが)
「ふふふふ・・・」
「陛下?」
レイモンドが思いを馳せていると、国王がくつくつと笑みを零すのに気がつく。先には見られぬ、愉快げな色が混じった笑みであった。
「まだまだ、面白い事に尽きぬな。この『セラム』は。のう、レイモンド」
「・・・は、はっ。御言葉の通りに御座います・・・」
他人事のように呟く国王の横顔が、いたく不気味で、それがゆえに底無しの泥濘のように恐ろしく見える。レイモンドは胃の内に寒さを覚えながら返答を返した。
「・・・ふぅ。本当に疲れたわ・・・」
拝謁が終わる頃には昼餉の時間となっていた。朝とは違ってボリュームのある昼食を頂きながら熊美とアリッサは話す。
「あの執政長官、中々食えない相手ね。歴戦の勇士でもあんなに鋭い瞳は出来ないわよ」
「あの方も、嘗ては一人の戦士でありました故」
「へぇ、そうなの」
「尤も、初陣で深手を負い、それが原因で文官に転向せざるを得なくなったようです」
コーデリアとハボックは此処には居ない。拝謁の他にまだ政務があるらしい。事後報告、といったところか。
慧卓が昼食を進ませぬのに気付いたか、二人が話し掛けてきた。
「大丈夫、慧卓君?さっきから何も食べていないわよ?」
「ケイタク殿。お口に合わぬ料理でありましたら、直ぐに作り直すよう料理人に命じます。どうぞ遠慮なさらずに」
「・・・いや、そういう訳じゃ無いんですよ」
「じゃあどういう訳なのかしら?ほら、このスープ美味しいわよ」
慧卓は真剣みのある顔付きで彼らを見返した。一瞬たじろぎつつも、二人は彼の言葉を待つ。
「今晩、晩餐会ですよね?」
「そうだが」
「貴族の方々も一緒に参られる予定なんですよね?」
「当然よ。何せ国王陛下の名の下に開かれるのだから。其処に参上しないのであれば王家に対する忠誠が疑われるんじゃない?」
「時に招待状を贈り、それに応えるというのもあるが、結局のところ絢爛と豪勢を尽くすのには変わりない」
「って事は、出される料理も王国一のもの、って事ですよね?」
「・・・貴方」
慧卓は和気のある笑みを貼り付けて続けた。
「じゃぁそれまで御飯は出来るだけ我慢しなきゃ駄目ですよね!!」
「貴方・・・さっきまで結構ビクビクしてなかった?」
「そうだぞ、ケイタク殿!宴には国王陛下が出席なされるんだ、緊張感というものを持ち合わせてくれ!仇の話をされた後から口を噤んでいたと思いきや、急に御飯に浮き浮きというのは如何なものだろうか!」
アリッサの言葉を受けて、慧卓は溜息と共に笑みを消し、手に持っていたスプーンをスープの皿に置いた。気まずげなアリッサを他所に彼は語る。
「・・・確かに悪い事をしたとは考えました。俺のせいで息子さんを殺したようなものですから・・・。でもブルームさんが『胸を張れ』って言っているんですよ?大切な息子さんを亡くされたというのに。これに応えなきゃ俺、どんな顔で王都を歩いたらいいんですか」
「・・・そんな直ぐに、割り切れるのか?」
「割り切れませんよ、自分のせいで人が死ぬなんて!・・・でも今の俺に出来るのって、これしかないじゃないですか」
「・・・御免なさい、深くまで聞きすぎたわ」
「・・・いえ、此方こそ。怒鳴ったりして御免なさい」
素面を見せた騎士の静かな謝罪に、慧卓もまた謝罪を返す。
アリッサは沈黙を作らぬかのように言葉を紡いだ。
「晩餐会では我等の他、貴族が大勢参上される。上は国王陛下から、下は男爵、そして上級騎士まで」
「上級騎士?」
「あぁ、いうなれば名誉身分の一つだな。貴族として家を興せるほどに功績を重ねつつも、貴族への昇格を拒む者達に付される特別な称号だ。下からの突き上げを回避するために作られた、新しい階級さ」
小さく苦笑を漏らすアリッサを見て、もしや彼女がその上級騎士ではないかと慧卓は邪推する。アリッサは慧卓の視線に気付いて肩を竦めた。
「一部の者を除いて、貴族は自らの権威の拡大を常に狙っている。気をつけくれよ、ケイタク殿。先ず彼らが狙うのは、若い貴方だ」
「な、何故に?」
「いったであろう、権威の拡大と。山賊団の撃滅に貢献した才気溢れる若人で、尚且つ異界の戦士。これに欲の手を伸ばさぬ者が何処にいようか」
熊美に視線を交わすが、うんうんと思い出すかのように頸を振るだけ。どうやら本当のようだ。
「そっ、そうですか。色仕掛けとかなんでもありなんでしょうね・・・」
「それこそ序の口よ。本当に落す気なら、自分や親戚の娘の一人や二人、平然と貴方に嫁がせるわ」
「はひぃ!?」
政略結婚いらっしゃーい、とふざけている場合ではない。自分が与り知らぬうちに事態は深刻化しているのだ。外堀からどんどんと埋められている気がしてならない。
「だけど余り心配をしなくてもいいんじゃない?誰かさんが、確りと守ってくれそうだからね?」
「と、当然です!!私が老獪な宦官共や抜け目の無い貴族達の魔の手から、必ずやケイタク殿をお守り致します!!騎士の誇りに誓って!!」
俄かに期待を孕んだ顔付きでアリッサが誓う。にやりと笑みを浮かべる熊美に対して、慧卓は考えに耽るように顎に手を遣っていた。
「・・・ハーレムもいいかも」
『ふざけるんじゃない!!!!!』
「げっほぉぉっ!!!」
「・・・馬鹿な人」
鉄拳二発を腹と顎に喰らって倒れこむ慧卓を見て、給仕として控えていたリタは呆れ気味に彼を見下ろしていた。
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