東方魔法録~Witches fell in love with him.
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3 幼児~A young child is innocent and curious to know everything.
子供の成長ってめざましいわねぇ。
明希が生まれてから、早くも二年が過ぎようとしている。
生後3ヶ月ぐらいの時は寝返りすらうてなかったのに今では二本足で歩けるようになった。ご飯もトイレも着替えも全部一人でやるようになってお母さんちょっと寂しいわ…。
そうそう。その頃と言えば、あれから例の魔法狩りは襲って来ないわね。危ないことは勘弁してほしいけど合法的に殴…痛め付…可愛がれないのがちょっと残念。
「…シェル、私の家でサンドバッグ使っていいわよ」
「あら、ありがとう。最近溜まってたのよねー」
流石私の親友。私の欲求不満に気付くなんていい勘してるわ。
今、私の家にはフラウとパチュリーちゃんが遊びに来ている。男たちは仕事に行っている。
よく明希とパチュリーちゃんは二人で遊んだり本を読んだりしている。最近は子供が生まれてすぐの頃に比べて忙しさが格段に減り、フラウとは育児の話や二人の遊ぶ姿を眺めたりと非常にゆったりと過ごしている。
「まー確かに。子供が出来てから全く運動していないわね」
「ただ体を動かすだけだったら家事だけでも良いのだけれども、それじゃストレスが発散されないもの」
「そうねー。私もストレス発散方法を考えなくちゃねー」
グテーとフラウが両腕を伸ばしてテーブルに突っ伏する。
「それじゃ家、借りるね」
明希とパチュリーちゃんをちゃんと見ててね、とは言わない。それは当たり前過ぎて逆に口にする方が野暮と言うものだ。
「シェルがサンドバッグでストレス発散しているところを子供たちが見ると怯えちゃうしね。いってらっしゃーい」
フラウは突っ伏したまま反応した。
私はフラウに子供たちのことを任せて、小脇にサンドバッグを抱えフラウの家に向かった。
ばっちり聞こえて意味を理解出来ますよ母さん。中身が見た目通りだったら母さんたちが何を話しているか解らないだろう。このように。
「ねーねー、あきー。おかあさんたちは、何のお話してたの?」
髪の毛は珍しい紫色をしていて、同じ部屋でほぼ同じ時間に生まれたり、親同士が相当な仲良しだったり、すぐ隣に住んでいたり、ほぼ毎日のように遊んでるパチュリーが俺に母親たちの会話について説明を求めてくる。
「んー?スポーツのお話だよ」
とっさに本当と冗談が混じった答を出した。別に間違ってはないはずだ。つーか家にサンドバッグがあるなんて知らなかった…。小脇にサンドバッグを抱える母さん、シュールだ。
「すぽーつ?」
「簡単に言えばいっぱい動くこと」
「へー、あきはなんでもしっているのね!」
凄いと尊敬の眼差しで俺を見る。止めてくれー、俺はただ前世の記憶があるだけで別に頭がいいわけじゃないんだ~。
パチュリーは好奇心旺盛で分からないことがあったら何でも俺に聞いてくる。その度に俺は罪悪感に似たものを感じながらもパチュリーの質問に答えるわけだ。
お陰でパチュリーはどんどん知識を身に付けていく。その影響か二才児にしては頭がよく、精神年齢が高い。その内俺の知識量をすぐに抜いてしまいそうだ。
「ま、まぁねー…」
「どうしたら、あきみたいに物知りさんになれるの?」
「ほ、本をたくさん読めばいいんじゃないかな」
「じゃ、本よむー」
とことこと本棚に向かっていき、一番下にある一冊を抜き出す。持ってきた本には「初級魔術」と書かれていた。
床に本を広げ、パチュリーと肩をくっ付けて一緒に本を読む。
1ページ目をめくると魔法使いに関しての記述が少々難しい表現(子供にとって)で書かれていた。
そもそも魔法使いとは
魔法使いとは膨大な魔力を持ち、魔法全般を扱うことが出来る種族であり、妖怪の仲間である。ただし純粋な身体能力は人間と大差ない。赤子からある程度成長すると個人差はあるが途端に身体の成長が緩やかになる。
へー、初めて知ったよ。それに魔法使いってのは妖怪の仲間なのか。…え、妖怪?
「むー。なんて書いてあるか全然わからないよー…。あきー、ここには何がかいてあるの?」
パチュリーは唇を尖らせ不満げだ。そして俺に説明を求めてくる。
「えーとね、ここには僕たち魔法使いのことが書いてあって…」
パチュリーにわかるように言葉を一つ一つ選んで説明した。だが、一つだけこの世界に転生して聞き慣れない言葉を説明することが出来なかった。そう、妖怪だ。
魔法使いとか魔法とか魔力はある程度わかっているから説明できたが、妖怪についてはどう説明していいか検討もつかなかった。魔法使いが妖怪の仲間ってことも初めて知ったし。
どう説明するか悩んで本から顔をあげるとこの本があった本棚が目についた。もしかしたら本棚にあるかも…
「ちょっと待ってて」
俺は本棚の一番下の段を漁った。えーなになに?「本当は近い月の裏側」著・八雲紫、これは違うな。「拷問日記」著・エリザベート・バートリー。…これは母さんの本だな。「幻想郷縁起」著・稗田阿一、他。なんだこれと思いページをめくるとビンゴ。妖怪についての記述と挿し絵が書いてある。これを見せようとパチュリーの元へ向かい、再び本を開こうとすると激しい音が聞こえてきた。
バス!ボス!ドス!
「ねえ、あき。何のおと?」
「スポーツをしている音じゃない?」
きっと母さんがストレス発散にサンドバッグを殴っているのだろう。それにしても大きいな。
メキィ!ボキィ!ドゴッ!
「このおとは?」
「さあ?ゴキブリでも出たんじゃない?」
母さん。ただサンドバッグを殴っただけじゃそんな音は出ないよね。何してるの?
ギュイーン!バキバキ!ゴー!
「これは?」
「ち、近くで工事でもしているんじゃないかなー…」
母さん!サンドバッグを殴っただけじゃそんな音は出ないよね!!何してるのさ!?
母さんの行動にゲンナリしながら今度こそパチュリーに説明すべく本を開く。
「ほら、これが妖怪だよ。妖怪っていっぱい種類があるんだ。これが吸血鬼で人間の血を…」
ふぅ、いい汗かいたわ。久しぶりだったから少しはしゃぎ過ぎてしまったけど。まぁ、壊したものとかは何もないし別にいいでしょう。片付けを済まして家に帰った。
「お帰りなさい、シェル。ずいぶん楽しんだんじゃない?」
「ええ、おかげさまで」
家に帰るとフラウは晩御飯の支度をし始めている。明希とパチュリーちゃんは肩を並べて仲良く本を読んでいる。あらあら、これからが楽しみね(意味深)。本と言えば私の「拷問日記」はどこにいったのかしら?読むたびにゾクゾクして面白いのよね。子供たちにはちょーっと刺激が強いかしら?
「ただいまー」
「あら、修造さん。それにエドワードさんもお帰りなさい」
「お帰りなさーい」
「ああ、ただいま」
仕事に行っていた修造さんたちが帰ってきた。エドワードさんはフラウが家にいるときはいつも家に修造さんと一緒に帰ってくるの。
もうこんな時間?やっぱり楽しいことをしていると時間が立つのは早いわね。晩御飯の支度をしないと。私はフラウと一緒に晩御飯を作り始めた。
「いないいない…ばあぁぁん!!」
帰ってきて早々修造さんは子供たちとはしゃごうとする。その氷で出来た銃、無駄にリアルね。と、言うか普通はいないいないばあ、でしょうに。
「……?」
パチュリーちゃんは何をされたのか良く分からなかったらしく首を傾げて頭にハテナマークを浮かべてる。
「うっ!」
明希は胸を押さえて苦しそうに倒れた。
「え?嘘だろ!?」
「うひひ、父さん引っ掛かった~」
どうやら明希は修造さんを騙す為に派手な演技をしたようだ。無駄に上手ね。血は争えないってことかしら?
「はは、流石修造の息子だな」
「くそぅ。…そうだ明希!今度はエドワードを嵌めよう!」
「うん!いいよ!」
「いいぞ、いつでも仕掛けてこい」
「よし!パチュリーちゃんも一緒にどうだい?」
「あ、修造!娘を巻き込むな!」
「なんだ?娘に騙されると泣きそうなのか?」
「ねーねー、あきー。おじさんは何を言ってるの?」
「えーとね。今度、一緒に遊ばない?って」
「うん!私もみんなと遊ぶ~」
「な!?くっ、もういい!まとめてかかってこい!」
「はーい、そろそろご飯が出来るから皆座って」
やっぱり家族っていいものね。出来上がった料理を運びながらそう思った。
後書き
パチュリーはこのときはまだ子供で知識がありません。なのでとても無垢で無邪気です。いや、別に成長したパチュリーが汚れている訳じゃないんですけどね。
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