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久遠の神話

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第九十七話 ラドンその十三

「今の戦いで満足しなければな」
「別の戦いもしてですね」
「満足するだけだ」
「そうなのですか」
「そうだ、今はな」
「だからですね」
「今は戦う」
 こう言ってだ、そしてだった。 
 加藤は剣を消した、そのうえで。
 別の戦いに向かうのだった、声はその彼の背に己の声をかけた。
「貴方はまさに戦いの中に生きられていますね」
「楽しいからな」
「戦うことがですね」
「そうだ、だからだ」
 今も向かうというのだ。
「こうしてな」
「そうなのですね」
「しかしだ」
「しかし?」
「俺はギリシアの戦いの神、男の方だったな」
「アレス神ですね」
「おそらくあの神とは違う」
 その戦いに対する考え方がだというのだ。
「戦えればそれでいい」
「殺伐とした血生臭いことはですか」
「戦いには付きものだが」
 それでもだというのだ。
「そうしたものは楽しんでいない」
「全くですね」
「そうだ、俺は戦いを楽しんでいるだけだ」
「流血や殺戮には興味がありませんね」
「命を奪ったことはない」
 戦った相手のだというのだ。
「ましてや弱い者をいたぶることもな」
「されませんね」74
「獣が相手でもだ」
 人でなくともだというのだ。
「俺は戦って勝敗が決すればだ」
「そうなればですね」
「後はどうでもいい」
 他者の命には興味はないというのだ、それも全く。
「命には興味がないからな」
「徹底されていますね」
「そうか」
「はい、戦いのみを好まれるということが」
 まさにだというのだ。
「戦士として」
「そうかもな。しかしだ」
「それがですね」
「俺だ」
 彼のアイデンティティだというのだ。
「それから外れるつもりはない」
「決してですか」
「そうだ、決してだ」
 それはだというのだ。
「外さない」
「美学でしょうか」
「いや、美学と言われるとだ」
「違いますか」
「俺は美学だのには興味はない」
 これもまた加藤だ、彼が興味があるのは戦いでだ。美学やそうしたことには興味がないのである。それで言うのだった。
「ただ俺の考えにないことはしない」
「それだけですか」
「そうだ、それだけだ」
 あくまでだ、そうだというのだ。
「俺はな」
「そうなのですね」
「ではいいな」
「はい、わかりました」
 声も加藤の考えを受けた、そのうえで。
 加藤はその場を去った、彼はただひたすら戦っていた。それが彼にとって無上の喜びであるが故にそうしていた。


第九十七話   完


                              2014・1・25 
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