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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十二章
  降伏した理由

陣幕で区切られた本陣、久遠の座所。床几に腰掛けた久遠を挟むように、俺と鞠が護衛として立っている。他の仲間達も、久遠の傍に整然と並び立ち、不明の客人を待ち受けていた。やがて・・・・。

「松永弾正少弼様をお連れ致しました」

そんな言葉と共に、麦穂と雛、そして妙齢の女性が座所に入ってきた。

「・・・・おう、これはこれは。主要な者共が勢揃いか。苦労であるな」

「お黙りなさい。あなたは最早降将である事を忘れないように」

「ほっ。米五郎左はなかなかに手厳しい。恐れ入る」

口ではそんな風に言うが、その女性はふてぶてしい態度を崩さなかった。というか、あれってヌーブラか?この時代にまだなかったはず。まあ、恋姫世界でも現代の水着があったくらいだ。

「良い・・・・座れ」

「ふむ。では甘えようぞ」

言いながら、妙齢の女性は優雅な所作で、地面にふわりと腰を降ろした。長く艶やかな髪を惜しげも無く地に広め女性は、背筋を伸ばして真っ直ぐに久遠を見つめる。

「まずは接見の機会を与えて頂き、深くお礼言上仕る。織田上総介殿」

「貴様が松永弾正少弼か」

「如何にもにも。三好家の家宰、いや織田衆にとっては三人衆と語り、畿内の覇権を手に入れんと公方に楯突く大謀反人、と言った方が意に沿い申そう。大和信貴山城主松永弾正少弼。通称、白百合。見知りおき願おう」

久遠の瞳から一切視線を外さず、悠々と名乗りを上げる松永久秀。その姿はさすが、乱世の梟雄と呼ばれるだけはある。堂々とした姿だった。堂々とした名乗りも、久遠にとっては修辞の多いだけの名乗りでしかない。返事はいつも通り、素っ気なかった。

「デアルカ」

「松永弾正少弼は、坂本城に進駐しておりました我らのところへ、手勢五十ほどと共にやって参りました。陣笠を掲げておりましたので、話を聞いた所、織田に頭を垂れたいとの話を聞き・・・・」

「我に早馬を出した、という訳か」

「御意」

「・・・・おい梟。何を考えているか、みな言え」

「言え、とはまた、言葉の刃が鋭いの。・・・・なかなか小娘であるな」

「無礼なっ!」

「麦穂、構わん。今は話を聞く方がいい」

「しかし!」

「良い。下がれ五郎左」

「はっ・・・・」

俺が言った後何か言おうとしたが、久遠に言われて渋々と下がる麦穂。

「で?」

相変わらずとでも言おうか、端的なとしか言いようがない言葉で、久遠は白百合との問答を進める。

「うむ。我に思う所あり。三好と手を切り、上総介殿を頼る決意を致した」

「信じろと?」

「然り!・・・・上総介殿とて、三好、松永党と戦うよりも三好のみの方が与しやすかろう?」

「ふむ?織田、松平の連合の兵は三好、松永よりも多い。別に大して変わらんが」

「上洛のみならば、上総介殿の言、まさに正論。だが小谷、そして越前を思うならば・・・・どうだ?」

「・・・・・・・」

ニヤリとした笑みを浮かべながら、交渉を始めようとする白百合に、周囲の将が口々に異を唱え始める。俺はこの白百合の心を静かに見ていたが、何か揺れているな。何かがあったらしい。

「全員、静粛せよ!口を閉じろ」

「しかし、一真様!我らは河内のヘッポコ武士に負けるほど、尾張兵は鈍っておりません!」

「そうだぜ一真!いくら尾張兵が弱兵揃いだからって、今は美濃とか三河の兵がいるんだぞ!上方のぼんぼり野郎何か負けるかってんだ!」

『ズキューン!ズキューン!』

俺は銃を斜め上に向けて発砲した。しかもサイレンサー無しだから相当うるさいけど。

「誰が発言許可無しで言えと言った!次発言したら、お前らの脳天に当てるから黙ってろ。ボケが!」

と殺気と覇気をあてたら大人しくなった将達。白百合も少しだが、震えているのか?

「・・・・弾正少弼」

「・・・・はっ」

「・・・・何があった?」

「・・・・・・・・・・・」

久遠の短い問いかけに、先ほどまで俺の殺気と覇気を浴びたのか、それとも周囲の戯言をスルーしてたはずの白百合の顔が少し強ばったのは見逃さなかった。

「三好と手を切らなければいけない状況になったのか?」

「そこではなかろう。恐らく気に入らないような事が起こったのであろう」

「そうだといいがな」

「で。どうだ梟」

久遠というより俺の方を向いていたけど。やはり当たっているのか、それともただの天人だと思ってないのか。

「織田の子倅はうつけと聞いていたが、世間の雀に惑わされていたのは、自身であったようだな」

「そうか。認識を改められて良かったではないか」

「ふふっ、確かに・・・・」

肩を竦めて笑った白百合が、再び姿勢を正し、今度は慇懃な様子で久遠に向き直った。

「鬼との戦を決意された、織田上総介様に、松永弾正少弼、謹んで言上仕る」

「受けよう」

「三好三人衆、外道に堕ち申した」

「外道?」

「はっ。あれは織田衆が観音寺を攻め落とした日。我らは勝竜寺に参集し、抗戦の準備をしておった。そこに一人、南蛮僧が尋ねて参ったのだ」

回想(白百合が思い出して言っているので誰だか分からんと思うので名前を付けさせてもらいます。なお、ザビエル本人かは????と表示されてますがザビエルにしときます)

????『お目通りが叶い、恐悦至極に存じ奉りまする・・・・』

三好長逸『おお、おお。おぬしが例の南蛮僧か。噂は聞いとる』

三好政康『何でも飲めば百人力となる妙薬を売って歩いているらしいな』

岩成友通『名は何ていうんや?』

ザビエル『はっ。フランシスコ・ディ・ザビエルと申しまする』

三好長逸『ほう。異人のくせに日の本の言葉が上手いな。どこで習ったんや?』

ザビエル『知人に日の本の生まれの者がおり、その者より伝授され申した』

三好政康『ほーか。まぁそれはええとしてや。おぬしの売っとる薬を飲めば、誰でもえらい強なるいう話を聞いたんやが』

岩成友通『おう、それやそれ。その話はホンマなんか?』

ザビエル『はっ。この薬は我が祖国で使われております、マンドラゴラの根を・・・・』

三好長逸『ああ、その辺はどうでもええねん。ホンマに強くなるんやったらそれでええ』

岩成友通『それ、買うたるさかい、お寄越し』

ザビエル『御意。おいくら程ご入り用でしょうか?』

三好政康『せやな。ひとまず儂らの衆、三千でええわ』

岩成友通『松永の。どうするよ?』

白百合『・・・・必要あらず』

岩成友通『さよか。ほんならまぁ三千や。安うせいや?』

ザビエル『それはもう・・・・』

三好長逸『ぐふぐふぐふ、それを足軽共の飯に混ぜておいたら、織田のゴロツキ共何ざ、敵やないな!』

岩成友通『ほんまやで!三好衆三千、強うなったら・・・・素敵やん?』

三好長逸『素敵やなー!めっちゃ素敵やんけー!』

三好政康『儂らの勝ちは確定やな!おい、祝杯あげんぞ!』

白百合『・・・・・・・・・・・・・・』

回想以上。

「その後、南蛮僧が何やら怪しげな丸薬を運び込んだ所までは、確認したのだがな。己の力で戦わず、訳の分からん薬に頼るような外道と共に歩く事は出来ん。早々に引き上げて今に至る次第」

「デアルカ・・・・」

「なるほどな」

「そんな・・・・」

「ん?そこな異人、どうかしたか?」

「ザビエル・・・・その南蛮僧は、確かにザビエルと名乗ったのですかっ!?」

「然り。天守教の司祭、フランシスコ・ザビエルと申しておったが・・・・何じゃ?知り合いか?」

「敵ですっ・・・・ザビエルは今、京にいるのですか!?」

「さて、つい先日まではいたであろうが、今はどこにいるのやら」

「・・・・っ!」

「一真!」

「分かっている!」

久遠の言葉と同時に、俺は動き駆け出そうとしたエーリカの前に立ち塞がる。

「退いてください!私が奴を・・・・・」

「馬鹿者!お前が一人で行った所で何が出来る!ザビエルや鬼についても協力してやろうと決めたではないか!」

「それはっ!そう、なの・・・・ですが・・・・」

「金柑。目の前に標的がいるからと、貴様が焦る気持ちは分かる。だが・・・・」

「急いで焦れば逆に鬼に喰われるぞ!今は一つ一つ物事を進むのが、いいと思うのだ。分かってくれ、エーリカ」

「・・・・・・・はい」

頷いたエーリカだったが、表情は暗いままだ。焦りや苛立ちを抑え込むには、ターゲットの距離が近いからであろう。

「ふむ・・・・異人殿に聞きたいのだが。あのザビエルとやらはどのような者なのだ?」

「どういう事だ?勝竜寺で会ったと言っておったではないか」

「然り。しかしそれが初見だ。大和の宗門から夷狄排除の要請があり、何度か事を構えた事もあるが、あれ程流暢に日の本言葉を操る者が居るなど、聞いた事もなかった。だが、どうやら三好は知っていたらしい」

夷狄・・・・夷狄とは、ここでは天守教の司祭や信徒の事を指す。

「三好が知っていて、畿内を牛耳る貴様が知らんとは、また面妖な話だな」

「畿内全ての事を知り通す程の目もなければ耳もないが、京の事ならば、目も耳のあった。だが私は、奴を知らなかった。だから異人殿に聞いているのだ。奴はどのような者なのだ?と」

「・・・・・・・・・・」

「梟が知らず、だが三好は知っていた。・・・・これは何を意味する?」

「三好氏の本拠地は阿波。となれば、恐らくは湊周りで繋がりがあったと見て間違いないでしょう」

「海を活用している三好と、内陸が活動範囲の私とでは、情報網の違いがあったという事か」

「湊で名前が知れていて、かといって洛中では特に話題になっていない所からして、船をねぐらにしている可能性が高いでしょう」

「船か。それは盲点だったな」

船があればどこにでも行けるからな。

「これは行方を掴むのは無理そうだな」

「だが今、奴がいる可能性が一番高い場所は分かる」

「越前か」

鬼の楽園を作るための拠点として越前を落としたのなら、次の手を打つのも拠点を確たるものにしたいと考えるはずだ。

「次の手を打つ前に、こちらの状況を整える必要がある。今は出来るだけ早く一葉と合流せねばならない」

「うむ・・・・」

頷いた久遠が、白百合に向き直った。

「弾正少弼」

「はっ」

「以降、我が手足となって働け」

「ふっ・・・・御意」

「と、殿っ!こやつの投降を、本気で受け入れるおつもりですかっ!?」

「それは余りにも危険。松永弾正少弼といえば、附子さえも恥ずかしくなって身を隠す程に、強力な毒を持つ梟雄。向後の事を考えれば、今、ここで禍根を断っておくが上策かと思います」

「・・・・だそうだぞ、梟」

すると、白百合は爆笑していた。まあ気持ちは分からんでもない。鬼柴田や米五郎左という大層な二つ名を持ちながら、何やら臆病千万な物言いだからな。俺だったら大笑いした後に、なめてるのか?と確かめる。

「何だとぉ!?」

「いくら大器の主君とて間違いは犯すもの。主が、大きな間違いを犯そうとしたのならば、例え臆病のそしりを受けようとも止めるのが臣下の務め。あなたに笑われる謂われはありません」

「なるほどなるほど。至言最も。・・・・しかし己が主君を大器と信じるならば、毒の一つや二つ、腹中に置く程度で狼狽えるのは笑止千万なり」

「く・・・・言わせておけば!」

「聞けぃ。・・・・そも今の日の本の現状を見よ。鬼という異形の病禍に苛まれ、苦しんでおる状況だ。そんな日の本を快癒するためには、少々の毒を身中に含んで薬と為す、その勇気が必要だと思わんか?」

「いけしゃあしゃあと・・・・っ!」

俺は壬月が言おうとした瞬間に、壬月の首に剣を当てる。

「気にするな。前に出るな!」

「しかし、一真様!」

「気にするなと言ってるだろうが!人間が!」

「・・・・・・・・・申し訳ありません、一真様」

苛つき、柄に手をかけた壬月を止めたのはこの俺。本来は久遠だけど。つい、言ってしまった「人間が」というキーワードで、周りにいる将は異を唱える。が、俺が殺気と覇気を込めた視線を向けると皆俺の眼を見ないようにそらした。

「弾正少弼」

「はっ」

「裏切りたければ裏切れば良い。その時は一真の持っている鉄砲にて貴様を成敗してやろう。だが、真に日の本の事を大事に思うならば、その力、しばし我に貸せ」

「御意。松永弾正少弼久秀。不惜身命の覚悟で織田殿に寄騎致そう」

「許そう」

「はっ!」

「麦穂。白百合は貴様に預ける」

「・・・・御意」

「これにて松永の一件は落着する。一真も苦労であった。が、一真」

「何だ?久遠が言う事を当てよう。久遠達は後続を待って態勢を整える。白百合が織田に降ったとすれば、三好が焦って動く可能性大。俺達の部隊で先行し、一葉と合流する事だろ?」

「そういう事だ。頼む、繋ぎは・・・・」

「小波が居てくれるから心配いらん。本隊の到着までに二条館を死守する。だろ?」

「そうだ。我も出来る限り早く態勢を整えるつもりだが、今しばらく時間が掛かる。危険な任務だが、頼む。何とか一葉達を守ってやってくれ」

久遠の言う通りでもあるし、自分で言った通りになった。俺は軍人だ。それに守護神いや護法善神の内の一人である創造神が守ってやるよ。

「任せておけ、前も言ったかもしれないが、人間を魔から守るのも俺の仕事だとな」

「済まぬ・・・・」

「じゃないだろ?」

「・・・・ありがとう、一真」

「では、俺はこれで失礼させてもらう。出陣準備完了次第俺達は行く」

「ああ。エーリカ、貴様も一真と共に行け」

「あ・・・・はいっ!」

「連れていく兵以外は私が預かっておこう」

「ありがとうございます!」

「では各々、それぞれの責を果たせ!」

「「はっ!」」

久遠の号令一下、動き出した武将達の間を縫うように、白百合が近づいて来る。

「おお、そこな異人殿よ」

「・・・・はい。何でございましょう?」

「そなた、ザビエルとやらと因縁があるようだが。・・・・もしやそなたが?」

「はい・・・・ザビエルに日の本の言葉を教えたのは、この私なのです。だからこそ、悪に染まり、暴走するザビエルを止めるために、私は・・・・」

「ふむ・・・・そういう因縁か。ならばこれはおぬしに渡しておいた方が良かろうな」

言いながら、白百合は懐中から小さな印籠を取り出し、エーリカに渡した。

「これは?」

「三好と袂を分かつ時にくすねてきた例の丸薬よ。服用するつもりもないが、後で調べようと思ったのだ。だがおぬしに因縁があるのならば、渡しておけば何かの役に立つであろう」

「ではこの中に入っているのが、ザビエルが売りつけたという薬なのですね」

「どのような成分なのか。どのような効き目があるのか、この目で見た訳ではないがな」

「ありがとうございます。調べてみましょう」

「エーリカ、俺の部隊で薬とかの成分を調べる物があるから、分けてもらっていいか?」

「はい。こちらでも調べるよりそちらで調べた方がいいでしょうから。これは一真様に渡しておきます」

印籠をこちらに渡した後、何か嬉しそうな感じであった。恐らく宿敵に繋がる物があってよかったのだろう。こちらで化学的な事で調査後、処分する。今までずっと我慢していたんだ、エーリカがザビエルを倒せるように全力を尽くすか。エーリカと別れた俺は、仲間達が待っている陣幕に戻った。

事態を説明した後、仲間達に潜入準備を指示した後に、トレミーに戻り化学班にこの丸薬の成分調査依頼とマウスで飲ませたらどうなるかを頼んだ。そして調査後は処分するように言ったてから元の場所に戻ったが、急ぎだからもしかしたらこのトレミーを使う時が来るかもと思った。 
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