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5部分:第五章


第五章

「あの歌でよかったな」
「そうだよな」
「何でだ?涙が出るな」
「私も」
「僕も」
 観客達は泣いてきていた。そしてだった。
 彼女にまた拍手を送る。声援もだ。そして言うのだった。
「さようなら!」
「これで!」
 何度もアンコールが行われその都度舞台に戻り。万感の拍手が舞台を何時までも支配していた。
 それからだった。彼女はロンドンを発ちオーストラリアの我が家に戻った。夫と共にだ。
 そしてそのうえでだ。夫に顔を向けて話した。
「只今」
「おかえり」
 にこりと笑い合ってだ。そのうえでのやり取りだった。
「それじゃあこれからはね」
「この家でね」
「ずっといるわ」
 そうするというのだった。
「我が家にね」
「だから勧めたんだ」
 夫はここで話した。
「あの歌をね」
「そうだったの」
「あの歌からこの家に戻って」
「歌手から普段の生活に戻って」
「そう、だからね」
 それでだというのである。
「あの曲にしたんだ。それに」
「それに?」
「生まれたのはこの国だったじゃない」
 オーストラリア、この国だというのだ。
「その国で、家で生まれてね」
「そうして戻って来るから」
「だから。あの歌を勧めたんだ」
「家に生まれ家に戻るから」
「だからだよ。それじゃあね」
「ええ、それじゃあ」
「あらためて。おかえり」
 また告げる夫だった。家に戻ったその挨拶を再びだった。
「これからはね」
「ええ。この国、この家に」
 妻もだ。微笑んでの言葉だった。
「いるわ。ずっとね」
「僕達でね」
 これがオーストラリアを代表するディム=ジョーン=サザーランド=ボニングの引退の時の話である。そして夫のリチャード=ボニングはその妻を笑顔で迎え入れたのだった。その最後の歌はだ。この歌だったのだ。温かい家族の、家の歌だったのだ。


ホーム=スウィート=ホーム   完


                 2010・10・30
 
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