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ドリトル先生と京都の狐

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第三幕その九

「まだ進行していません」
「それではですね」
「助かります、ですが狐ですね」
「はい、そうです」
「狐の肺病を治すとなると」
 どうすべきかとです、先生はここで腕を組んで考え込みました。お母さん狐の枕元で正座をしながら腕を組んでいます。
「人間のお薬や治療でいいでしょうか」
「無理じゃないかな」
 王子が難しい顔で先生に言ってきました。
「人間と狐じゃ身体の仕組みが違うからね」
「そうだね、動物はそれぞれ身体の仕組みが違うからね」
「病気もだよね」
「うん、狐はイヌ科だけれど」
 その意味ではジップと同じなのです、お母さん狐も。
 けれどです、先生はジップの方に顔を向けてこうも言うのでした。
「ジップは結核になるのかな」
「どうだろうね、そこは」
 ジップもよくわからないといった返事です、そのことにつきましては。
「わからないよね」
「うん、そうだよね」
「若しお薬が違うと大変だよね」
 ガブガブが言ってきました。
「人間のお薬が合わないと」
「うん、大変だよ」
 先生もこのことはよくわかっています、それでガブガブに答えるのでした。
「そうなるとね」
「そうだよね、だからここは狐のお薬を探さないと」
「狐のお医者さんいないのかな」
 トートーは狐に尋ねました。
「そうしたことを知っている人は」
「狐のですか」
「うん、獣医さんが駄目でもね」
 それでもだというのです。
「狐のお医者さんは」
「私達狐の中でお医者さんをしている人ですね」
「その人なら知っているんじゃないかな」
 トートーはこう考えてです、狐に言うのです。
「狐の結核に効くお薬もね」
「そうですね、狐のことでしたら」
 狐はトートーの言葉を聞いて真剣に考え込みました、そのうえで。
 暫く考えてからです、顔を上げて言うのでした。
「九尾の狐さんなら」
「その千年生きているっていう」
「はい、私達狐の棟梁です」
 それに当たる狐だというのです。
「この近畿にもおられます」
「あれっ、京都にはいないんだ」
「今はおられないです」
 その九尾の狐はというのです。
「残念ですが」
「京都は狐が多いのに?」
「はい、今は」 
 いないというのです、京都に九尾の狐は。
「京都から旅行に出ておられまして」
「そうなんだね」
「そうです、東京の方に」
 旅行に出ているというのです。
「安倍晴明様の従弟にあたられる方でして」
「そうそう、安倍晴明さんはね」
 王子は安倍晴明と聞いてこう言いました。
「狐が母親なんだね」
「その安倍晴明様の従弟にあたられまして」
「随分長生きだね、だからだね」
「はい、今は安倍の姓を名乗られていまして」
 その安倍晴明の姓を受けているというのです。
「安倍晴正といいます」
「その人が京都の狐の棟梁だね」
「はい、仙狐になります」
 狐はこうも言いました。
「お稲荷様のすぐ下に位置しておられる方です」
「それはまた凄く偉い狐さんだね」
 今度は先生が言いました。
「お稲荷さんのすぐ下って」
「そうです、安倍様ならおわかりかと」
「狐の肺病のお薬が」
「あの方でしたら」
「そうなんだ、ではその安倍さんにお会いしたいけれど」
「ですが今は東京に」
 旅行に出ているというのです、狐はこのことを残念なお顔でお話します。 
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