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久遠の神話

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第九十六話 剣道家その七

「随分好意的だな」
「そう思われますか」
「ああ、あんた俺に死んで欲しくないのか」
「私が欲しいのは力です」
 剣士達の戦いで発散され彼女が手に入れるそれがだというのだ。声の主であるセレネーは欲しいというのだ。
「それは欲しいです。ですが」
「それでもか」
「命は望んでいません」
「矛盾してるな、俺達は殺し合いをしているのにな」
「そうですね、ですが」
「俺達を殺し合わせても欲しいんだな」
「この戦いを引き出した頃からわかっていました」
 剣士達の命は決して欲しくはない、しかし殺し合いをさせている。このことは矛盾しているとわかっているがそれでもだというのだ。
「私は」
「わかっていてもか」
「はい、例え貴方達を長年に渡って束縛し苦しめても」
「それでもなんだな」
「貴方達は罪人でした」
 神話の頃の彼等のことだ。
「それもどの者もおぞましい罪を犯したので」
「人殺しとかだよな」
「それも一人や二人ではなく」
「大勢の人間を嬲り殺しにした。シリアルキラーか」
 大勢の人間を虐殺した犯罪者のことだ、その中にはカニバリズムやサイコ殺人といった異常性に満ちたものも多い。
「そんな奴等だったんだ、昔の俺達は」
「どの剣士も」
「俺もか」
 無論上城達もだ、中田は自嘲それも強いものを込めて呟いた。
「そうだったんだな」
「貴方もです、多くの罪なき人間を生きたまま切り刻んで殺していました」
「成程、冗談抜きのサイコだったんだな」
 中田は声から神話の頃の彼のことを聞きまた自嘲を込めて言った。
「それこそ本に載るみたいな奴だったか」
「あまりにも惨たらしい殺し方を楽しんでおられました」
「とんでもない奴だったんだな」
「十三人の剣士全員が」
 そうした連中だったからこそだというのだ、声も。
「束縛し殺し合わせても構わないと思っていました」
「極悪人だからか」
「タルタロスに落としても構わないまでの」 
 ギリシア神話において最も罪深い者が送られる地獄である、神話の頃の剣士達はそこに送られるまでの罪を犯していたというのだ。
「ですから」
「構わなかったんだな」
「そう思っていました、ですから」
「だからか」
「貴方達を殺し合わせても罪の意識はありませんでした」
 言葉は過去形だった。
「その時は、ですが」
「魂は同じでもな」
 中田はこの言葉は無表情に出した。
「それでもな」
「はい、人格は変わります」
「人格ってのは形成されるものなんだよ」
「そうです、その環境や人生において」
「出来ていくからな」
「かつては大罪人だった貴方達も」
 次の人生ではというのだ、その魂は同じでも。
「人格は違いました」
「名前も顔も生まれた国も立場も全部変わってな」
「そうです、ただ魂だけが同じでした」
 たったそれだけが、というのだ。同じだったというのだ。
「それ以外は。そしてその貴方達を」
「戦わせていてか」
「苦しいものは感じています」
 このことを否定しないのだった。 
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