IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~
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number-15
学年別トーナメント戦。
毎年6月の終わりごろに行われるこの行事は、恒例であれば1VS1のシングル戦が執り行われるわけなのだが……
今年はそうはいかない事情があった。
クラス代表戦で突然乱入してきた正体不明の無人IS。
今の技術で独立駆動と管制人格をISに搭載して動かすのはほぼ不可能といわれており、しかもそのコアが登録されていない物であったために千冬の中では……いや、山田真耶の中でも犯人の目星がついているといっても過言ではない。だが、今はそれを束に問い詰めるわけにはいかない。これはほとんど状況証拠でしかない。そのため分かりきったことであっても聞くわけにはいかない。
話が脱線してしまったが、つまり突然の状況に対応できるように今回は特別処置が行われた。そして、その情報の開示が今日の朝。つまり今朝行われている。それは――――
「学年別タッグトーナメント?」
「ああ、二人一組でなければいけないようだ。どうだ、私と組まないか?」
そう持ちかけるのはドイツ軍特殊IS部隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ中佐。彼女には、実力のほかに部下からの人望もあり、隊長として相応しいと思う。本人はそうでもないらしいが、周りが認めるのだからラウラも恥ずかしくない様にいなければならない。
そんな名実ともに確かなラウラがパートナーに頼むのは、世界で二人しかいない男性IS操縦者。ただし、世界的に有名な方ではなく、ごく一部の限られた人たちにしか知らされていない方。御袰衣蓮。篠ノ之束から鍛えられ、唯一いつでも連絡が取れて、いつでも会える人物。世界では何とかしてこの青年を手に入れたいのだが、後ろに束がいるだけでなく、蓮自身も相当な実力者である。そのために迂闊に手が出せないのだ。
「それって絶対に出場しなければいけないのか?」
「待ってくれ。……そうみたいだな。絶対参加のようだ」
ここでラウラと組んでしまうのもいい。ただそれだと、組織で適応しているとあるルールに従わなければならなくなる。
「俺とお前が組んだら、勿論あれが適応されるけどいいのか?」
「問題ない。むしろ願ったり叶ったりだ」
「そうか、ならよろしく頼む」
「こちらこそ」
二人は形式的に握手を交わし、すでにラウラの名前が流れるようにドイツ語で書かれていた。蓮は普通に日本語で書こうとしたが、ラウラのどこか期待するような視線を感じ、嘆息しながらも同じようにドイツ語ですらすらと自分の名前を書く。
途端に若干表情が緩むラウラ。ドイツ語といっても簡単なものであるのだが、自分の国の言語を使ってくれるのは嬉しいのかもしれない。
ここにおそらくではあるが、一学年最強タッグが作られた。
◯
生徒会室。
ここには文字通り生徒会役員が書類を纏めたり、今度行われる学年別タッグトーナメントの主催運営のために入念に準備を続けていた。だが、そちらの方ばかりを優先していたために生徒会業務の方を疎かにしてしまって書類を溜めてしまっていたため、必死にその山を崩しているところだった。
だが終わらせるには圧倒的に人手が足りなかった。まずは生徒会長である更識楯無。仕事を投げ出す癖があるのだが、今回ばかりはまじめに仕事していた。そして、書記である布仏虚は見た目通りの仕事ぶりを発揮していた。だが、さすがの虚も書類の多さに疲れが顔に出始めていた。ちなみにもう一人、生徒会書記の虚の妹で一年の布仏本音がいるのだが、姉である虚曰く、居ると逆に仕事が増えるとのことで仕事をほとんどさせないで、楯無の妹である更識簪の従者を務めるようにと言いつけてあるのだ。果たしてその仕事もちゃんとこなせているかは曖昧であるが。
「うあぁー……腕痛い」
「我慢してください、お嬢様。今目の前に積まれている山で終わりですから」
「あーい……」
うだーと机に体を一旦預け、だらっとするとすぐに体を起こして書類に取り掛かる。そんな楯無の姿に虚は若干驚いていた。
いつもであれば、もうすでに投げ出して何処かに消えてしまうものなのだが、今日に……いや、今年に入ってからはそんなことは無くなった。一体何があったのだろうか。気分屋である楯無のことだからやる気があるだけなんだろうと勝手に思っていたが、そんな理由ではない。もっと、それでこそ親が死んでしまって、これから心機一転したとかぐらい出ないと説明がつかない。
虚の前にある書類の山はだんだん少なくなっていく。楯無の前にある書類の山は、虚の二倍はありそうではあるが、減るスピードも虚以上の速さで見る見るうちになくなっていく。
虚は再び自分の山に目を戻す。いつの間にか自分の山も半分程度になっていた。考え事をしながら仕事をしているとたまに間違えてしまったりすることもあるが、今回はそんなこともないかもしれない。
楯無の方が間違えることが多いのだが、最近はほとんど間違いを犯すことも無くなってきて逆に虚の方が間違えることが多いのかもしれない。おかげでいつもどこか気が抜けていたが、最近はいい刺激になっている。
書類を消化しつつ、虚は気になっていることをどうしても知りたくなってきたため、思い切って聞いてみることにした。
「お嬢様」
「虚ちゃん、そう呼んじゃダメって言ってるでしょ?」
「申し訳ありません。……一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「どうしたの?」
いつも通りの敬語に苦笑いしながらも書類を消化していた腕を止め、クルクルと手首をまわしてぽきぽきと小気味いい音を鳴らしてから顔を虚に向ける。そういえば、虚ちゃんが質問なんて珍しいなぁーとか思いながら、虚が淹れた時間が経って少し冷めてしまったお茶に口をつける。
「最近、何か良いことありました? 特に同室の御袰衣蓮さんと」
ぶっと口に含んだお茶を噴き出しそうになるも、何とか堪える。目の前には大事な書類、そうでない書類が入り混じって積まれているために汚すわけにはいかなかったからである。
何とか吹き出しそうになったお茶を飲みこんだ楯無は、咳き込んだ。そんな楯無の反応を見た虚は、当たりだと確信する。
どうして虚が楯無の変わった理由を同室の蓮と決めたのか。それは、同室というだけではなくて、最近二人でいるところをたまに見られていたりする。さらには、模擬戦を態々蓮のいる教室まで行って申し込んだぐらいなのだ。これで無関係と言い張れるのだろうか。否、不可能である。
「……別に何もないとは言わないけど、何かあったとかはさすがに言えないわ。……でも、これだけは言えるわ。蓮は私の幼馴染なのよ? ずっと会えなかった私の大切な人なの。それこそ一生添い遂げたいと思うくらい…………」
そう言って楯無は座っている椅子をくるっと回して窓の方を向いてどこにも焦点を定めることなく、遠い何処かを見る。
そんな楯無に虚はどこか置いて行かれたような気がした。楯無の言葉は恋する乙女そのもの。最後まで言い切ることはなかったが、一生添い遂げたいと言った。心の底から愛していると言っているようなもの。虚は、まだ自分の立場や環境のせいか自分が好きというか、気になるというか、そんな男性には出会っていない。虚の親は恋愛はいいものだというけれど、まだそれがどうかは分からなかった。してみたいとも思えない。けれども、そういう時が来れば自分の恋するのだろうと勝手に自己完結して書類とまた向き合う。
楯無は考えに耽っていた虚を見て、少し唇を上げた。笑っているようにも見えるが、ニヤニヤを堪えようとしているようにも見えなくもない。でも、自分は自分で他人は他人なのだから、恋とかかなり脆いことをつつくのはさすがの楯無でもやらない。楯無だって冷やかしを受けたら嫌なのだ。こっちは至って真面目なのだから、そういう点をクリアしているから楯無は虚に蓮とのことを少しだけ話したのだ。
指を組み、手のひらを天井に向けて固まっていた体を伸ばした楯無は、また書類に取り掛かる。
これからしばらくの間、生徒会室には何かを書く音とハンコを押す音しか響かなかった。それは、夕食のための食堂が生徒のために開けている時間が少し過ぎるぐらいまで続いたのだった。
◯
「うあぁー疲れたー」
「おかえり、楯無。ご飯どうせ食べてないんだろ? 作ってやるから先に風呂に入ってこい」
「ほんとに!? ありがと。じゃあ、お風呂に入ってくるわ。あっ、そうそうご飯の量いつもより多めにお願い。今日は、ものすごくお腹がすいちゃって」
「ああ、分かった。後、肉と魚、どっちがいい?」
「うーん……悩むわね。昨日は魚だったはずだから……お肉でお願いね?」
「分かった。じゃあ、風呂入ってこい」
「ええっ」
楯無が寮の部屋に戻ってきて、あった。蓮との日常的な会話。
この会話は、そこら辺のカップルよりもカップルっぽく、そこら辺の夫婦よりも甘々な夫婦っぽかった。
後書き
なのはの方はもうしばらくお待ちを……戦闘描写で悩んでいるので。
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