悪童
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第四章
「国を守護し戦を勝たせてくれる方です」
「戦にですか」
「そうです、そして魔を降すのです」
「では強い方なのですね」
「とても」
そうした仏だとだ、母は明の鎧に身を包み厳しい顔をしているその佛を見ながら我が子に対して穏やかな笑顔で話した。
「この国を守り魔を降して下さるのですから」
「そうなのですね」
「はい、あらゆる魔を」
「そこまで強いのですか」
虎千代はその強さに憧れを抱いた、そして魔を降す正しさにも。この二つの憧れは子供の純粋さ故にだった。
そのうえでだ、母に問うのだった。
「毘沙門天様は」
「そうです。そなたはどうして強くなりたいのですか」
「武門の家の子だからです」
このことについてもだ、虎千代は素直に答えた。
「私は強くなりたいのです」
「では強くなり何をするのですか」
虎千代に顔を向けてだ、御前は問うた。
「その時は」
「それは」
「ただ強くなりたいだけですか」
こう問うのだった。
「それだけですか」
「そこまでは考えていません」
「強くなることはいいことです。ですが」
「それでもですか」
「その強さにはあるものが必要なのです」
「それは何ですか?」
何が必要なのか、虎千代は母に強い声で問うた。
「一体」
「心です」
それだとだ、御前は虎千代に話した。
「心がなければ駄目なのです」
「心がですか」
「御仏を信じその御教えを人々に伝えられる心が」
「それがなければですか」
「さもなければ真の強さにはならないのです」
例えだ、どれだけ武芸を身に着けても兵法を学んでもだというのだ。
「心の備わっていない強さは賊の強さです」
「賊ですか」
「そうです、賊です」
それに過ぎないというのだ、幾ら強くとも。
「そうでしかないのです」
「では私はこのままでは」
「そうです、武士の強さではなく」
賊の強さ、心のないそれを備えてしまうことになるというのだ。
「武士は何故武士か、それは確かな心があるからこそなのです」
「それで母上は今も」
「虎千代殿、まことの意味で強くなるのです」
御前は優しい声で我が子に告げた。
「御仏の御心を知り」
「ではこの御仏も」
「毘沙門天様のこともです」
今母子でその前にいるだ、鎧で身を固めた仏のだというのだ。
「学び知るのです」
「毘沙門天様は魔を降し天下を収められるのですね」
「そのまことのお力で」
「そうなのですか、天下すらも」
「今の天下のことはわかっていますね」
「はい、乱れに乱れています」
虎千代はこのことについて眉を顰めさせて母に答えた。
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